新規事業やDX、カルチャー改革…組織の中で何度も旗は振られているのに、現場が動かない。経営と現場、変革活動と日常業務のあいだで板挟みになり、気づけば自分がいちばん擦り切れている。そんな「変革疲れ」に、心当たりはないでしょうか。2026年7月にMIMIGURIが開催したウェビナーにて、その疲れの正体と、癒し方を扱いました。当日ご参加いただけなかった方に向けて、要点をまとめます。
※本記事は、2026年7月16日に開催したウェビナー「変革疲れはなぜ起こるのか──『諸行無常』の時代に、経営の孤独と変革リーダーの葛藤に効く『不易流行』の探究」の内容に基づいて執筆しました。詳しい解説は、アーカイブ配信をぜひご覧ください。
「変革疲れはなぜ起こるのか──『諸行無常』の時代に、経営の孤独と変革リーダーの葛藤に効く『不易流行』の探究」アーカイブ視聴申し込みページ
イベント登壇者
・株式会社MIMIGURI コンサルタント / ファシリテーター 山形 方人
上智大学教育学科卒業。大手SIerで経営企画(M&A戦略)やヘルスケア領域の新規事業企画を経験。その後ベンチャー企業2社でIPOのPMを担当する中で、組織人事領域に興味を持ち、PwCコンサルティングのHRコンサルのマネージャーとして多くのプロジェクトやソリューション開発を推進。 MIMIGURIでコンサルタントとして大手〜中小の経営・人事課題に向き合いながら、大学での講師など幅広く活動。 好きな飲み物は、五島芋とブラックコーヒー。
・株式会社MIMIGURI コンサルタント / ファシリテーター 笠松 拓也
名古屋大学在学中、写真共有SNS事業で起業し、売却。その後は、家庭教師派遣事業を展開する教育グループで約2年間東海エリア支社長に従事し、株式会社インテリジェンス、株式会社ビズリーチにて人事企画を推進。2016年、「人と組織の可能性の探究」をテーマに株式会社Yurusyを設立。自律共創型組織への変容支援を行うと共に、2023年からは株式会社MIMIGURIにも参画し、マネージャーとして共同体メンバーが互いのポテンシャルを解放しあう「発達志向型マネジメント」を探究している。好きな飲み物は、自宅のデロンギで入れたカフェラテ。
この回は、少し変わった形式で行われました。Zoom上ではあるものの、コンセプトは「カフェバー」。マスター役を務めたのは、MIMIGURIのコンサルタント/ファシリテーターの山形方人です。阿佐ヶ谷にある、祖父が営んでいた場所で常連客が仕事の悩みを持ち寄り、客同士で解決策を考えていた原体験が背景にありました。常連客役として、同じくMIMIGURIのコンサルタント 笠松拓也も加わります。プレゼンではなく「社内で交わされるリアルな相談」のような空気で進みました。

サマリー
- 変革疲れは、個人の能力や意志の問題ではなく“構造”から起きる。 疲れの正体は、外側(マーケットへの対応・業務プロセスの変更)と内側(役割の変化・価値観の変化)の変化に整理できる。とくに、経営と現場をつなぐ企画職のミドルが板挟みになりやすい。
- 孤独なリーダーをつくらない、「諸行無常」の3つの対応策。 ①経営(不易流行:変えない求心力を明確にし現場に委ねる)/ ②組織マネジメント(応援団とバトンリレーで孤立を防ぐ)/ ③セルフマネジメント(内省で自分の変化に気づき、好奇心を回復する)。まずは、自分と自社が「いまどこにいるのか」を見立てるところから。
- 癒しは“マイナスをゼロに戻す”ことではない。 「変わりたいのに変われない」の裏にある、隠れたコミットメントを内省で見える化する。切り離されたものを統合していくプロセスが“癒し”。
「変革が必要」なのに、なぜこれほど疲れるのか
前半で山形が示したのは、変革疲れが生まれる時代背景でした。生成AIの活用が進み、地政学リスクの高まりもあって中長期の見通しは立ちにくい。イベント内では、具体的な数字も紹介されました。ある企業では生成AIの導入に伴い5,000人規模の配置転換の検討が報じられ、また別の企業ではAIによって5年後に34万人分の業務の半分を代替する方針を示している。こうした変化は、雇用や事業のかたちの見直し、すなわち何らかの変革を各社に迫っているのです。
——ほぼ毎年、何かしらの変革が動いている。にもかかわらず、自社の変革能力に自信を持つ組織は3割程度。ガートナーによれば、従業員に健全に変化を受け入れてもらえているリーダーは世界で32%程度。フォーブスの記事では、変革の成功率は30%未満とされます。「中期経営計画を廃止し、変化に早く対応できる体制へリソースを移す」判断をする企業も現れています。
「変革は避けられないのに、うまくいく確率は低い。だから『変革疲れ』が広がっている。」
山形はそう整理しました。

変革疲れの正体は、「外側」と「内側」の変化
次に、山形は疲れの要因を「自分の外側の変化への疲れ」と「自分の内側の変化への疲れ」に分けて整理しました。
外側の要因は2つ。ひとつはマーケットへの対応です。市場が動くたびに方針が変わるのに、「なぜ変えるのか(Why)」が共有されないまま「どうやるか(How)」だけが降りてくる。朝言われたことが夜には否定される——この繰り返しに、現場はやがて無力感を溜めていきます。もうひとつは業務プロセスの効率化と変更です。一度効率化して「慣れたやり方」ができあがると、人は新しいやり方を試したくなくなる。だが環境が変われば、慣れたものをまた組み替えねばならない。そうすると、「覚えたのに、また変わる」という疲れを生みます。
内側の要因も2つに分けられます。ひとつは役割の変化。普段は指示命令系統のはっきりしたピラミッド構造で働く人が、変革プロジェクトでは多様な部署を集め、”バーチャルチーム運営”を任される。すると、メンバー間で「誰が指示を出すのか、誰に指示に従うべきなのか」と、どう振る舞えばいいか悩み疲れるのです。もうひとつの要因は価値観の変化。周囲の“ソーシャルノイズ”(MIMIGURI共同代表・安斎勇樹 著書『静かな時間の使い方』で扱う概念)にさらされ、同じ仕事をしていても「自分は価値を出せていないのでは」と揺らいでしまうケースが語られました。
この外側と内側のはざまで最も疲弊するのが、経営と現場をつなぐ企画職のミドル(経営企画・事業企画・人事企画など)だ、と笠松も言います。前提が変わったことは経営内では共有されていても、文脈が抜けたまま「また変わったもの」が降りてくる。板挟みのまま、社内で孤立していく——現場でよく出会う景色として語られました。

孤独なリーダーを生まないために。「諸行無常」の3つの対応策
疲れの構造を踏まえ、山形は「諸行無常」を前提にした3つの対応策を示しました。経営・組織マネジメント・セルフマネジメントの3層です。
① 諸行無常の経営(不易流行)
市場に合わせて戦略戦術を現場に委ねる「遠心力」だけでは、収拾がつかなくなる。だから「これだけは変えない」という求心力の源泉=不易を明確にし、その上で現場を信じて任せ、協働する。管理型のPDCAではなく、現場が環境変化を察知して素早く動くOODA的な回し方へ——これが「不易流行」の経営です。実際、山形・笠松が関わるプロジェクトでも、この“求心力を高めたい”という相談は非常に多いと言います。
② 諸行無常の組織マネジメント
ここには2つの打ち手があります。ひとつは、特定領域の専門家だけでなく、変化に強い・越境経験の豊富な人材を要職に登用すること。ただしこれは中長期の話です。もうひとつが、いま関わっている人に効く「変化を推進してくれるリーダーの応援団を増やす」こと。上司が時に“授業参観”のように変革PJTを見に行き、批評家として腕を組むのではなく「一緒にやるよ」と共同探究する。否定から入らないといった共通ルールを置く。こうして、リーダーが孤立しない状況をつくるのです。
その具体策として山形が挙げたのが、バトンリレーの設計でした。変革のフェーズごとに走者を替える。第一走者は課題と方向性の探索、第二走者は実施と検証、第三走者は定着や次の課題へ。あらかじめ目的と期間を決めておけば、「次のバトンゾーンまでは走り切ろう」と見通しが持てるはずです。卒業した人が現場に戻ることで、変革の理解者が自然に増えていく好循環も生まれます。
③ 諸行無常のセルフマネジメント
変革に巻き込まれた本人へ向けた“癒し”にあたる部分です。まず内省を通じて、自分の変化、例えば「いま自分は何がつらいのか」「何にとらわれているのか」を見つめる。そして、内省を通じて「自分は本当はこういうものにワクワクするのかもしれない」という好奇心を回復させていく。山形は前職での例を挙げました。その日の気分を、晴・曇・嵐マークに加えて「ロボットマーク」でも記録してもらう取り組みに際し、1週間ずっとロボットマーク、という部長クラスが何人もいたそうです。好奇心がすり減り、目の前のことをこなして一日をやり過ごすだけになると、変革どころか働くこと自体がつらくなる。だからこそ、「自分は何をやりたいのか」に改めて意識を向けることが要る、ということです。

癒しとは「マイナスをゼロに戻す」ことではない
内省によって好奇心を回復させ、変革疲れを癒していく。この”癒し”の捉え方を、笠松が改めて語ります。
「癒しというと、治療のように”マイナスをゼロに戻す”イメージがあります。しかし内面の発達支援の領域では、癒しとは切り離された・抑圧されたものを統合していくプロセスを指すのです」
ここで補助線として紹介されたのが、ロバート・キーガンの著書『なぜ人と組織は変れないのか』(2013年刊)で提唱される免疫マップです。「変わりたいのに変われない」構造を、4つの層で可視化します。①改善目標(変わりたいテーマ)②阻害行動(目標に反してとってしまう行動)③裏のコミットメント(阻害行動が無意識に守っている利益)④大前提(それを支える強固な思い込み)。
部門を横断して変革を進めたい。なのに、部門を跨いだ場では当たり障りのない情報共有に留め、利害が絡む論点に踏み込まない。踏み込めば嫌われる・責任を問われるから、しないほうが安全だ。強く対立すれば関係が壊れる、勝ち筋のないまま動くのは危険だ——。ここまで降りて自分の前提に気づくと、「では本当はどうしたいのか」を選び直せるようになる。内省とは、この信念・価値観の層まで見にいくことなのです。

まず、自分の現在地を内省するところから
最後に山形は、CCM(Creative Cultivation Model。MIMIGURIが提唱する、人と組織の可能性を最大限に活かした新しい多角化経営モデル)の図を示しながら、組織の現在地を整理して見ることを提案しました。せっかく変革プロジェクトに任命されたのなら、まず「自分はこの会社という組織を使って、どんな自己実現をしたいのか」を起点に置いてみる。プロジェクトを、悪く言えば“利用してやろう”くらいの気持ちで。そして同じことを考える仲間を巻き込んでいく。それ自体が、癒しと、共に走る仲間を得ることにつながっていく、と。
変革が進まないのは、担当者一人の能力や意志の問題ではありません。外側と内側の変化という構造があり、癒しにも、経営・組織の設計にも、手立てがある。だからまずは、自分と自社が「いまどこにいるのか」を内省するところから。この記事が、その最初の一歩になればと思います。
アーカイブ動画と資料のご案内
ウェビナー「変革疲れはなぜ起こるのか——諸行無常の時代に、経営の孤独と変革リーダーの葛藤に聞く不易流行の探究」のアーカイブ動画を、お申し込みの方にお届けしています。もう少し深く探究してみたい方は、こちらからのぞいてみませんか。視聴アンケートに回答いただいた方には、当日の資料もプレゼントいたします。
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出典
- みずほフィナンシャルグループ:AI活用により今後10年で全国約1万5,000人の事務職のうち最大5,000人分の業務を削減し、解雇せず営業など他部門へ配置転換(2026年2月報道)。日本経済新聞「みずほFG、10年で事務職を最大5000人削減 AI活用で他部門に再配置」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB26C000W6A220C2000000/ /Bloomberg https://www.bloomberg.com/jp/news/articles/2026-02-27/TB3LEVT9NJLV00
- NTT:島田明社長が「5年後に業務の半分以上をAIが担えるようになる」との見方を提示(世界約34万人の従業員規模、2025年11月)。日本経済新聞「AIが仕分ける日本の雇用 NTT、34万人の業務『5年後に半分代替』」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC198KZ0Z10C25A9000000/
- アクセンチュア:長期戦略に変革を組み込んだ組織は80%、過去3年間で2回以上の変革を経験した組織は95%、自社の人材・組織の変革能力に自信を持つのは30%(2024年9月)。アクセンチュア「人材・組織変革能力の再創造(Change Reinvented)」 https://www.accenture.com/jp-ja/insights/consulting/change-reinvented /プレスリリース https://newsroom.accenture.jp/jp/news/2024/release-20240919
- 味の素:VUCA時代には従来型の中期経営計画は適さないとして中計を廃止し、変化に対応する経営(ASV指標・2030ロードマップ)へ移行(2023年2月発表)。味の素グループ「中期経営計画をやめる、って本当ですか?」 https://story.ajinomoto.co.jp/report/089.html /日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOTG16CQW0W5A410C2000000/

