衝動を活かして、個人のポテンシャルが発揮されるワークショップ型の組織をデザインする(代表インタビュー・安斎勇樹)

  • 安斎勇樹

    代表取締役Co-CEO

  • 1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。研究と実践を架橋させながら、人と組織の創造性を高めるファシリテーションの方法論について研究している。組織イノベーションの知を耕すウェブメディア「CULTIBASE」編集長を務める。主な著書に『問いのデザイン-創造的対話のファシリテーション』(共著・学芸出版社)『リサーチ・ドリブン・イノベーション-「問い」を起点にアイデアを探究する』(共著・翔泳社)『ワークショップデザイン論-創ることで学ぶ』(共著・慶応義塾大学出版会)『協創の場のデザイン-ワークショップで企業と地域が変わる』(藝術学舎)がある。

本インタビュー企画では、ミミクリデザインのメンバーが持つ専門性やルーツに迫っていくとともに、弊社のコーポレートメッセージである「創造性の土壌を耕す」と普段の業務の結びつきについて、深掘りしていきます。

初回はミミクリデザイン代表の安斎勇樹( @yukianzai )です。結果的に、安斎のワークショップに対する原風景やモチベーションの源泉について語られる、非常に興味深い機会となりました。ぜひご覧ください。(聞き手:水波洸)

現場と関わることで見えてきた、ワークショップが企業に必要な理由と新たな問題意識

よろしくお願いします。まずは2017年3月にミミクリデザインを創業するに至った理由や経緯を教えてください。

安斎大学院の修士課程の頃から、ワークショップやファシリテーションの方法の研究を10年以上続けてきました。博士号を取得して特任助教となり、研究者としてのキャリアを積んでいく一方で、企業や地域、教育現場から依頼を受けて、複雑な課題を解決するためのワークショッププロジェクトにも取り組んできました。

そうした取り組みを続けるなかで、ワークショップデザインやファシリテーションが、いかに企業や地域、学校にとって大切なのかを痛感しました。「新しいアイデアを生み出さなければいけない」や、「新しい教育プログラムをつくらないといけない」といった課題に対して、ワークショップが手法として大きな可能性を持っていることに気がついたのもこの頃です。

同時に、ワークショップが現場で誤解・誤用されていたり、ワークショップに適した課題を抱えているにも関わらず、ワークショップへの理解が不十分であるがゆえに本来の効果が正しく発揮されていなかったりする現状に問題意識を感じていました。論文や本を書いているだけではどうしても変えられない部分があって、すごくもどかしかった。研究活動ももちろん重要ではあるのですが、他方で、研究以外の形でワークショップの知見や方法を現場に届けて、現場を変えていくことができないのかと考えて、新たな実践の回路を作るために株式会社という別の顔を作ったのが、ミミクリデザインの元々の始まりですね。

ワークショップの手法としての可能性について、どのような手応えがあったのか、もう少し詳しくお話しいただけますか?

安斎企業の方からお話を頂いてワークショップを実践するようになってから、企業における普段の業務は、非常に深く、けれども狭い視野のもと行なわれていることを知りました。技術者が自社の技術を活かすことのみにとらわれたものづくりをしているといったケースに始まり、別のケースでは、例えば「カーナビ」を作るメーカーは、「どんなカーナビを作るか」という狭い前提の中で商品開発をしている。そうした強い固定観念が、「イノベーションが大事」とか「組織が変わらなくてはならない」としきりに言われている昨今、企業にとって変化を止める重い足かせになっていると感じました。きちんとデザインされたワークショップは、人を暗黙の前提から解放することができるので、企業が変わるための手法として、ワークショップの相性の良さを実感しましたね。

クライアントとの関わり方において、安斎さん自身や、ミミクリデザインという組織が大事にしているポイントは何かありますか?

安斎創業から2年が経った今まで、自主サービスであるWORKSHOP DESIGN ACADEMIA*がスタートし、また、企業や行政からの受託で、人材育成や商品開発、まちづくり、組織開発といった様々な領域のプロジェクト案件に取り組んできました。以前、メンバー全員で2年間の活動を振り返って、「結局ミミクリデザインがやりたいことって何だろう?」という問いで社内でワークショップを行なったのですが、全員一致していたのは「自分たちがコンサルタントとして独創的なアイデアを提案する」のではなく、「最終的にクライアントが自ら燃え上がって、自分たちの手でアイデアを出せるようになる」とか、「これまでと違ったまなざしで課題を捉えられるようになる」ことを支援したいというものでした。代わりに成果を作ってあげるのではなく、クライアントチームの創造的な学びのプロセスに伴走したいよね、と。

*WORKSHOP DESIGN ACADEMIA:ミミクリデザインが運営する、ワークショップデザインやファシリテーションについて継続的に学べるオンラインサービス。
http://mimicrydesign.co.jp/wda/

安斎ワークショップの理論的源流であるジョン・デューイという哲学者は、人間の行為の原動力は“衝動(impulse)”だと述べています。人間が学び変化するときは、いつも身体の内側から湧き上がる衝動が根底にある。そのような衝動は、大人も子供も関係なく誰もが持っている本能的なものだ、と。けれども伝統的な学校教育にせよ、企業にせよ、個人の衝動には”蓋”がされている場合が多い。クライアントの方々が内側に秘めている潜在的な衝動を耕して、それを起点にプロジェクトを設計することで課題解決や価値創造にファシリテートしていくような取り組みが、僕らのやりたいことであり、専門性であると考えています。

組織の一員として、そのような考え方はクライアントとの関係だけではなく、ミミクリデザインの内部においても大事にされているように感じます。

安斎はい。ミミクリデザインには、思いついたらそれをやらないと気が済まない衝動性のかたまりのようなメンバーがたくさんいますし、その衝動性ができる限り殺されず、素直に価値創造のエネルギーに変換され、発揮されている状態を大切にする組織風土がありますよね。とはいえ、衝動が衝動のままでは、保育園と変わらない(笑)。湧き上がる衝動に、知性をブレンドして、どのようにクリエイティビティに変えていけるか、積極的に探求する組織づくりをガンガン推し進めていきたいですね。

二つの原体験から、ポテンシャルが発揮される仕掛けづくりのルーツを探る

今の話もそうですが、話の端々に、ビジネス的な目線と同時に教育的目線を大事にされているように感じられます。もともと安斎さんは教育工学を専門とされていますが、そういったバックグラウンドから影響を受けていると感じる部分はありますか?

安斎やはり僕の専門性は教育工学や学習科学にあるので、組織や社会の課題は「人間の学習の力によって解決できる」という信念が根底にあります。だから、組織開発であれ、商品開発であれ、依頼を頂いたらそのクライアントチームの学びや変化をどのように引き出せば課題解決につながるだろうかという発想で取り組んでいます。親しい友人からはよく、「ポテンシャルフェチ」と言われています(笑)

ポテンシャルフェチ?

安斎人やチームが、きっかけがなかったり、環境やその人自身の思い込みのせいで、本来出せるはずのパフォーマンスが発揮できていない状況に対して、強いもどかしさを覚えるんです。

なるほど。昔からそうなんですか?

安斎原体験と言えるようなエピソードが二つありますね。一つは高校時代の時の話。小学生の時からずっとバスケットボールを続けていて、ずっと夢中だったのですが、高校一年生の時に膝の半月板を損傷して、満足にプレイできなくなってしまったことがありました。
それまでは自分が点数を取ることしか考えていなかったのですが、怪我を機にプレイヤーからマネージャーに転向する決断をして、チームをコートの外から見るようになったんですよね。そうすると、「あいつ、もっとこうやったらうまくなれるのにな」とか、様々な気づきがあった。それをチームメイトたちにアドバイスしたところ、プレイヤーたちの動きがすごく良くなったんですよ。それがとても嬉しくて、自分がプレイヤーとして活躍するのも楽しいけれど、それとはまた別の関わり方や喜びがあることに、この時気がつきました。

もう一つの原体験はどのようなものでしょうか?

安斎もう一つの原体験は、大学生の頃の話です。大学入学時からアルバイトとして中学受験向けの塾講師や家庭教師をしている中で、子供の意思を無視して親が無理やり勉強をやらせている、という状況をよく目にしていました。そこで、大学二年生の時に、お母さん向けに情報提供や悩み相談を行なうWebサービスの会社を作ったんですよ。だけど、受験や偏差値といった強烈な物差しに計られながら活動するのが、徐々に窮屈に思えてきた。
そこで大学四年生の時に、受験を終えた中学一年生たちを集めて、私塾のようなものを始めました。僕が面白いと思っている起業家やアーティストなど大人を招いて、参加体験型の授業を僕と共同で実施するというスタイルで、せっかくだから僕の友達の大学生たちにも参加してもらって、中学生も大学生もごちゃまぜの授業を、毎月一回のペースで続けていました。そこには中学受験に失敗しちゃった子とか、勉強に面白さを見いだせていない子たちも多かったのですが、そういう子たちが楽しく伸び伸び学べたり、学習に対する考え方が変わったりする様子を間近で見られて、とても面白かったですね。当時はまだそれがワークショップという名の活動と認識していませんでしたが、だんだんワークショップと呼ばれるものであると気がついていきました。
その連続ワークショップに毎月通ってくれていた子の中に吃音を持つ子がいたのですが、その子が毎回のアイスブレイクの自己紹介でうまく話せないでいると、同伴で参加しているお母さんが代わりに自己紹介をしてしまう。そんな状態が半年ほど続いていました。だけどある回で、その吃音のある子の何気ない一言が、周りの子供達の注目を一斉に浴びた瞬間がありました。その場の誰もが知らない遊びを、その子だけが知っていたんです。周りの子たちが「なに、その遊び!」とワッと喜んだその瞬間、その子は目を輝かせ、その後のグループワークでも饒舌に話すようになり、結果として大人では思いつかないアイデアを出したんです。思いもよらぬかたちでスポットライトが当たることで、その子を抑圧していた日常の”ものさし”が壊れたのかもしれません。人が劇的に変化する場面を目の当たりにして、めちゃめちゃ興奮しましたね。

安斎高校のバスケの話にしても、吃音の子のエピソードにしても、今改めてそれらの経験を振り返って思うのは、人が何かの理由でうまくパフォーマンスできなかったり、変われなかったりしていたとしても、それはその人のせいではなく環境や他の要因によって埋もれてるだけなのではないかということです。前述した、個人の内側から湧き上がる衝動に、”蓋”がされてしまっているという話にも通じます。そこをちょっと手助けしてあげて、本来持っていたポテンシャルが発揮される瞬間に立ち会うことが僕の興奮するポイントで、だから自分のことをポテンシャルフェチだと思っています。

そうした経験が、大学院でワークショップを研究をしていく上でのきっかけとなっていった?

安斎そうですね。その人の発揮できてない衝動やポテンシャルが発揮されるまでの仕掛けづくりとして、ワークショップはまさにぴったりの手法だと気がついて、僕自身の興味・関心とワークショップが強固に結びつきました。そこで大学院では、ワークショップの研究ができる研究室に入りました。人の隠されたポテンシャルが発揮されるために、どうすればワークショップをもっと上手にデザインできるのだろうかと調べ始めたのが、研究活動のルーツとなっています。

“研究のための実践”から“実践のための研究” へ

大学院進学後に印象的だったエピソードについて教えてください。

安斎大学院に入ってからまず僕が取り組んだのが、同じテーマのワークショップでも参加者に投げかける「問い」の設定次第で、参加者の創造性の発揮のされ方に違いが出ることを検証する研究でした。そしてその研究成果となる論文が、何十年とワークショップを実践されている熟練者の方々から、「これまで無意識に工夫していたことが言語化された」と、ものすごく高く評価して頂いたんですよ。自分が一生懸命書いた論文が、現場のエキスパートに評価されるということに、研究者としての喜びをすごく感じましたね。
また、大学院の指導教員だった山内祐平先生や、隣の研究室の中原淳先生から、研究しながら実践をするスタイルを学べたことも大きかった。それまでは研究者と実践家の両立は難しいと考えていましたが、山内先生や中原先生は、研究者でありながら、NPOの経営や企業のコンサルティングなど、多数の取り組みをなさっています。「そんなキャリアもあり得るんだ」と、ある種のロールモデルを見つけたような気持ちになりました。

そのような研究しながら実践するスタイルは、ミミクリデザインを経営する今も継続されているのでしょうか?

安斎研究は継続しますが、研究者としてのアイデンティティは若干変わってきていると感じています。以前は、実践することでより良い研究ができていくという感覚でした。自分で実践をして、ワークショップの実践上の困難さやポイント、現場でどんなニーズがあるのかなどを理解し、それらを研究に活かしていく。それに対して、ミミクリデザインを創業してからは、徐々により良い実践のために研究しているような感覚に変わりつつあります。
ミミクリデザインには、僕以外にも様々な強みを持ったメンバーが何人も在籍しています。そうした状況下では、僕がファシリテーターとして現場に出るよりも、研究的知見を紡いで、より良い実践の機会を増やし、彼らのポテンシャルが発揮されることに力を注いだほうが、よほど世の中にインパクトを与えられる。現在ではそのための手段として、研究活動を位置付けています。研究活動を通じて、ワークショップの方法論を研ぐとともに、ワークショップを正しく現場に理解してもらうための論拠を示していきたいですね。

ありがとうございます。最後に、ミミクリデザインとしての活動を通じて、今後何を為していきたいですか?

安斎ミミクリデザインのメンバーが20名超えた今、個性的なファシリテーターが何人もいて、それぞれが僕にはできないようなワークショップデザインやファシリテーションの技を持っています。例えば、ディレクターの一人である小田裕和は、意味のデザインの領域で博士号を取得し、イノベーションプロセスに伴走できるファシリテーターとして活躍してくれています。他方で、遠又圭佑のように、組織に対して緻密に丁寧に人間臭く関わりながら、戦略的に組織変革に伴走していくことを得意とするファシリテーターもいる。和泉裕之は、僕とは真逆のスタイルで、人の心を感情的に揺さぶるような対話の場を作りながら、組織のコミュニケーションや関係性の質を改善する対話型のファシリテーターとして活躍しています。その他にも個性的なファシリテーター、リサーチャー、クリエイターが何人もいる中で、僕個人のミッションは、彼らが現場で衝動とポテンシャルを発揮しながらより良い仕事をしていけるように、組織作りとワークショップの手法をきちんと研ぐところにあると考えています。企業の大きな課題を解決できるように、ワークショップを用いたアプローチのあり方を研ぎ澄ませて、より強い事業と組織作りに尽力したいと思っています。
先ほどのポテンシャルフェチの話とも重なりますが、創業して1年目・2年目は、まだ僕がプレイヤーとして”点”を取りたい時期でした。別に怪我をしたわけじゃないけれど、今はミミクリデザインをどのように良いチームに作っていくか、一つメタな視点からファシリテートしている感覚です。彼らがプレイヤーとして湧き上がる「衝動」を活かし、ポテンシャルを発揮させながら活躍できるように、経営者としての組織づくりと、研究者として知見を研いでくための活動を続けていきたいですね。いわゆる戦略的な人事制度などの仕組み作りにも力を入れていますが、我々が信じる「ワークショップ」のよいところを活かした、組織デザインを心がけたいですね。
「ミミクリはいつも楽しそうに素直に遊びながら仕事しているけど、すごい世の中にインパクトをもたらしていますよね」と言われるような、デューイが思い描いた学びのあり方を体現した組織になれるといいんじゃないかなと思っています。

  • Writer

    水波洸

  • Photographer

    猫田耳子