遊び心の火付け役として、創造性が身につく場を演出する(メンバーインタビュー・淺田史音)

  • 淺田 史音

    デザインリサーチャー

  • 東京大学大学院工学系専攻卒。生産技術研究所と英国Royal College of Artによって共同設立されたDLX Design Labにて、設立当初からプロジェクトに関与した後、PLAYFOOL Workshop Facilitator認定講座の開発を機に、2017年にミミクリデザイン(現MIMIGURI)にジョイン。以後、アナロジーやデザインリサーチを活用した領域横断的なワークショップ開発を展開する。オンラインワークショップの開発には初期から関わり、様々な参加のあり方をデザインすべく、Miroをはじめとしたオンラインツールを実験し続けている。

本インタビュー企画では、ミミクリデザインのメンバーが持つ専門性やルーツに迫っていくとともに、弊社のコーポレートメッセージである「創造性の土壌を耕す」と普段の業務の結びつきについて、深掘りしていきます。

第7回は淺田史音( @sion_2018 )です。ミミクリデザインとStudio PLAYFOOLとの共同開発によるオリジナルワークショップ・プログラム“PLAYFOOL Workshop Facilitator Programme”を主導する淺田は、現在では組織開発・人材育成のクライアント案件に取り組むチームのメンバーとしても活躍しています。今回のインタビューでは、「遊び心」をキーワードとしながら、創造性を引き出すための取り組みや、ファシリテーターとしてのあり方などをテーマにお話を伺いました。(聞き手:水波洸)

“創造性の筋トレ”としてのPLAYFOOL Workshopの魅力

よろしくお願いします。淺田さんがミミクリデザインにジョインしたのが、2018年2月頃ですよね。そしてほぼ同時期に、淺田さんがプロジェクトリーダーを務める“PLAYFOOL Workshop Facilitator Programme *” がリリースされました。そもそもどういった経緯からPLAYFOOL Workshopやミミクリデザインと関わることになったのでしょうか?

*“PLAYFOOL Workshop Facilitator Programme ”とは?
ミミクリデザインと英国RCA(ロイヤルカレッジオブアート)出身のクリエイティブユニット・Studio PLAYFOOLとの共同開発による、遊び心によってイノベーティブな発想力を身につけることを目的として開発されたワークショップ・プログラム。二日間の認定講座を修了すると、専用のツールキットと認定証が渡され、PLAYFOOL Workshopを自由に開催することができる。2018年度グッドデザイン賞受賞。

淺田まずはPLAYFOOL Workshopがどんなワークショップなのか、簡単にお話ししますね。PLAYFOOL Workshopは、ロンドンを拠点に活躍するクリエイティブユニット・Studio PLAYFOOLが「自分たちの発想のプロセスを誰もが体験できるように」という趣旨のもと、英国RCA在学中に開発したワークショップ・プログラムです。
そして、私が所属する大学の研究室とRCAとの間につながりがあったことから、Studio PLAYOOLの丸山紗季さんとダニエル・コッペンさんが来日された際に、私の研究室でワークショップを開いてもらえることになりました。そこで初めて私はPLAYFOOL Workshopを体験したのですが、それがもう本当に楽しくって。「どうにかこのワークショップを、ロンドンだけでなく日本でも広めていきたい!」と強く思ったのを覚えています。だけど、その時はどうすればいいかわかりませんでした。
それから数ヶ月後に、再びStudio PLAYFOOLが東京でPLAYFOOL Workshopを開催する機会がありました。私は運営を手伝っていたのですが、その時に参加されていた方が、Studio PLAYFOOLと安斎さんをつないでくれたんですよね。安斎さんもPLAYFOOL Workshopを知ってすぐに「これはすごいぞ!」となったみたいで、「PLAYFOOL Workshopを日本で普及させていくためにはどうしたらいいか、一緒に考えよう!」と話が進み、最終的にミミクリデザインが企業として支援やプロデュースを行なうようなかたちに落ち着きました。具体的には、PLAYFOOL Workshopがなぜ参加者の発想力を引き出すのか、理論的根拠の提示や、その理論に基づいたプログラムとツールキットの改良などがミミクリデザイン主導のもとで行われました。また、PLAYFOOL Workshopをもっと多くの人や現場に届けたいという思いから、受講すれば誰でもPLAYFOOL Workshopを開催することができる認定講座を設けて、“PLAYFOOL Workshop Facilitator Programme”としてリリースすることが決まりました。

淺田 ただその当時、紗季さんたちはRCAに在学中で、すぐにロンドンに戻らなくてはいけませんでした。なので、「PLAYFOOL Workshopを日本で広めていく誰かが必要だね」という話になり、私が“PLAYFOOL Workshop日本担当大臣”として、ミミクリデザインにジョインすることになりました(笑)

そうだったんですね。淺田さんはPLAYFOOL Workshopのどんなところに魅力を感じていますか?

淺田課題が複雑化し、イノベーションへのニーズが高まっている現代において、創造性に寄与するようなフレームワークはいくつも提唱されています。しかし、フレームワークを導入しても、根本的に業務に取り組む姿勢やマインドセットが変わらなければ、クリエイティブなプロジェクトは成立しません。そうした中で、PLAYFOOL Workshopの最大の魅力は、小手先のテクニックでどうにかしようとするのではなく、創造性の筋トレをするように、クリエイティブな発想を生み出すための身体づくりから始められるところにあると考えています。

“創造性の筋トレ”というのは面白いですね。どのように鍛えられるのでしょうか? 

淺田PLAYFOOL Workshopは、クリエイティブに”なってみる”ことができたり、子供の頃に誰もが持っていた遊び心を思い出して、発揮”してみる”ことができたり、参加者の人たちが役を演じるように“〇〇してみる”ことで、自分のなかのクリエイティブなモードを発見し、体得できる場だと思っています。私はファシリテーターとして、彼らを演出する演出家のような役割を担っているな、とよく感じます。

演出。舞台演劇のでしょうか?

淺田はい。「淺田が創る場に行けば、いつもと違う自分を楽しんで演じることができる」と思ってもらえるような演出家でありたいですね。また、そうやって、楽しく夢中になって演じているうちに、創造的な振る舞い方が自然と身につくような設計になっているのが、PLAYFOOL Workshopという場なんだと思います。

参加者が演じられる場をつくることで、どのような効果が生まれるのでしょうか?

淺田演じてみることで「創造的に振る舞うってこういうことなのか!」という感覚を、内面的に発見できると考えています。そうした感覚・気づきは、日常ではなかなか経験できませんよね。PLAYFOOL Workshopは、楽しいばかりではなく、意外とハードにアイデアを無理やりにでも出さないといけない場面もあるのですが、そうした制限の加えられた場の中で、少しだけ背伸びして頑張ってみることで、ふと今まで思っていなかったようなアイデアを発している自分に気がつくことがあります。そうした創造的なアイデアを出す時の身体的な感覚を、まずは”フリ”でもいいのでやってみて、頭ではなく身体から理解していく点に、大きな可能性があると思っています。
また、そうした創造的な振る舞いを試せるエクササイズに、他の参加者と一緒に取り組む点も重要です。PLAYFOOL Workshopには、ある参加者がふと口にしたアイデアが、他の参加者に新たな発想をもたらすなど、連鎖的に遊び心を爆発させられるような仕掛けがいくつも用意されています。実際、ファシリテーションを担当していても、私が灯した火が次第に全体に燃え広がっていくような感覚を抱くことはよくあります。その時の、「あ、今、心から解放されているな」と参加者の様子から感じ取れる瞬間が、ファシリテーションをやっていて一番好きですね。「人がこれだけエネルギーを全力で注ぎこめるワークショップがあるんだ!」といつも思っています。

自由な解釈を結びつけ、さらに新しい発想へと広げていく

「火をつけるように」という言い回しは、独特ですがわかりやすいですね。ほかに自分自身のファシリテーションについて、どんな特徴があると思いますか?

淺田他の人からは「ディズニーのキャストみたい」とよく言われます(笑)

たしかに、見ていてハツラツとしているというか、参加者を情熱的にぐいぐい引っ張っているイメージがあります(笑)

淺田PLAYFOOL Workshopだと特にそうですね。そのスタイルは(Studio PLAYFOOLの)紗季さんの影響をかなり受けていて、一番最初に参加した紗季さんのファシリテーションがたまたま私に合っていたから、参考にしています。ミミクリデザインに関わる前までは、自分が聞き役に回って、みんながやりたいアイデアを引き出そうとすることが多かったのですが、なんとなくうまくいかないと感じることが多くて。ミミクリデザインに入ってから、「透明人間のように自分を殺して、他者の意見だけをまとめようとしても、無難ではあるものの、実は誰も大してやりたいと思っていないアイデアしか生まれないな」と気がついたんですよね。
その問題意識を持ってからは、自分が主観的に考えていることを一旦場に出してしまうことを意識しはじめました。「私はこう思うけど、みんなはどう思う?」とまずは投げかけてみることで、相手が「うーん、じゃあ、こうしたらいいのかも?」と考えられるように促していくほうが、私には向いてるんじゃないかな、と。今のスタイルはかなりしっくりきています。

なるほど。PLAYFOOL Workshopのプログラムもそうですが、淺田さんの参加者の意欲にアプローチしようとする姿勢に関しても、「創造性の土壌を耕す」というミミクリデザインの企業スローガンと親和性が高いように思えます。

淺田そうですね。先ほども似た話をしましたが、PLAYFOOL Workshopの基本的な考え方のひとつに、クリエイティブな成果を生み出すための手法やフレームワークを導入しても、実際、生み出した当人がやってみたくなるようなアイデアが出なければ意味がないよね、というものがあります。なので、手法を上手に使えることではなく、ワークショップを通じて多角的なものの見方ができるようになるなど、クリエイティブなマインドセットが身につくことを一番の目的としていますし、PLAYFOOL Workshopの経験が普段の生活にも活かせるように、日常的に創造的なものの見方を鍛えていけるような仕掛けが意識されています。それは言い方を変えれば、まさに「創造性の土壌を耕す」ということなのだろうと理解しています。

PLAYFOOL Workshopに取り組んできた淺田さん自身の中で、実際に創造性の土壌が耕されたと感じる部分はありますか?

淺田そういえば最近、美術館や展覧会に行った時に、作品に対する見方が変わってきたように感じています。以前までは、歴史的・文化的な文脈をきちんと理解して、目の前の作品が、「良い」のか、「悪い」のか、はっきりさせたがる傾向にあったんですよね。実際、高校生の時に、日本画家として活躍する母と一緒に展覧会に行った時に、「この作品が良いのかどうかわからないから、どうやって見たらいいのか教えてほしい」と訊いたこともありましたね。

どんな答えが返ってきましたか?

淺田「そういうことは考えなくていいから、感じなさい」と言われました。でも当時の私にとってはそれがすごく難しかったんですよね。ただ、最近その感覚が少しずつわかってきた気がしています。まずは単純でいいんだな、と。「これ、顔に見えるよね」とか、「なんか宇宙人っぽい」とか、「なんとなく気持ち悪い」とか。そういう幼稚園児でも思うようなことを頭のなかで言葉にしてみると、それが次第にストーリーになっていきます。いつのまにかその感覚を楽しめるようになっていて、そのうちに「この絵はもしかしたらこういうことなのかもしれない」と、自分の中での独自の解釈が出てくるようになりました。もちろん、文脈を知ればより深いところまで理解できるので、鑑賞する上ではとても大事だと思っていますが、主体的に自分の目で発見して、解釈することで、より深く作品を楽しむための入り口に立つことができるように感じています。

淺田最近では一人で展覧会行くのも勿体ないと思い始めていて、その感覚を理解してくれる友達と一緒に行って、「私は泣いてる人に見える」とか「いや、牛に見えるんだけど」とか、無責任に言い合って、そこからじゃあこういうストーリーがあるのかもね、と、自由に発想を広げていく遊びをするようになりました。
無責任な発言って、現実で控えるべきものとされていますよね。だけど、それをあえて頑張って続けてみることで、異なるもの同士を結びつける力が身につくと思っています。そしてそうした力は、決して先天的なものではなく、訓練を通じて後天的に鍛えられるものだと考えています。また、自分のとりとめのないアイデアに、とりあえず乗っかってみてくれる誰かがいる環境では、さらにその力を伸ばせるはずだと、身をもって実感した機会でした。

創造性溢れる組織づくりを、ストイックに探究する

今年の3月に、ミミクリデザイン内で、担当する領域ごとにチームが編成され、淺田さんはPLAYFOOL Workshopのプロジェクトリーダーを継続しながらも、人材育成・組織開発のクライアントワークを主に担当するチームの所属となりました。PLAYFOOL Workshopを用いた人材開発の案件もスタートしていますよね。

淺田そうですね。あるデジタルマーケティング系の企業の方から、「自社のデザイナーたちが、上から言われたことだけを機械的にこなしているように感じられる。もう少し創造性を発揮する風土を実現できないか」という相談を受けて、PLAYFOOL Workshopを実施した機会がありました。当日を迎えるまでは、どれだけ堅い雰囲気なんだろう、とドキドキしていたのですが、実際にやってみたら、担当者の方も「こんな姿、見たことない」とおっしゃるくらい、びっくりするくらいの熱量のある場になりました。いつものBtoCとして実施するPLAYFOOL Workshopとはまた違ったかたちで「創造性の土壌を耕した」経験として印象深いです。

今後、いちプレイヤーとしてどんなふうに取り組んでいきたいかなど、願望があれば聞かせてください。

淺田そうですね...。先ほどファシリテーションの姿勢として似たような話をしましたが、クライアント案件においても、火付け役というか、起爆剤のような立場でいたいと思っています。また、ファシリテーターとしては、先ほど言った「演出」というキーワードをもっと掘り下げたいですね。もっと没入できる場にしたいし、そのためにはストーリー性をもっと高めたい。ドラマティックな場をもっと作りたい。...だけどこれに関しては、PLAYFOOL Workshop以外のワークショップではまだなかなか難しいと感じているので、レベルアップが必要だと感じています(笑)

組織づくりに関わるチームの一員として、ミミクリデザインの組織風土について、何か思うところはありますか?

淺田良い意味で、無責任な発言ができる場所だと感じています。先ほどの展覧会の例でいうと、同じ絵画を見た時に、「これって牛じゃない?」「いや、女の人じゃない?」と、多様な解釈を気軽に言い合える環境というか。もちろん何かを決めなきゃいけなかったり、まとめなきゃいけなかったりする場面もありますが、まずは好きに発言してみる心理的安全が確保されていて、良い発散ができる環境が整っていると思っています。もちろんその後にはそれらをまとめて形にしていくのですが、良い発散ができていれば、チーム内で納得感の高いアウトプットが生まれやすく、また自然と様々な視点から検討することになるので、深みのあるものができることが多い気がしています。

淺田また、「創造性の土壌を耕す」という企業スローガンが決まったのも、組織にとって大きかったように感じています。実は私自身、ミミクリデザインとしてやるべきことと、個人としてやりたいことが本当にマッチしているのかどうか不安になった時期があったのですが、「創造性の土壌を耕す」という組織の合言葉ができてからは、その不安はかなり解消されました。また、組織にとっても、全員がそれに向かっていくことを前提に、勉強したいことを勉強して、議論したいことを議論できる環境が出来上がりつつあると感じています。その雰囲気を維持して、全員が誇りに思える組織にしたいですね。

その文脈で「勉強」に重きを置いているあたり、ミミクリデザインらしさであり、淺田さんらしさでもあるな、と感じます。

淺田前提として、やはり仕事に追われているだけでなく、探求したいテーマを1つか2つ、自分なりに持っているのはすごく大事なことだと思っています。そしてそのための土台づくりとして、いろんな領域の知識レベルを底上げするところから、組織づくりに取り組んでいきたいと思っています。まずはしっかり勉強して、先人たちの知識を取り込んで、みんなでディスカッションするところから始めたいですね。その上で、「勉強」がステップ1だとしたら、ステップ2は「研究」です。来年あたりにPLAYFOOL Workshopに関する論文を発表したいと考えていて、ちょうど今その準備を進めているところです。外部の専門家たちも巻き込みながら、面白いことをやっていきたいですね。

実務の面でも、研究の面でも、さまざまな企画が走り出しているようでとても楽しみです!ありがとうございました!

淺田ありがとうございました!

  • Writer

    水波洸

  • Photographer

    猫田耳子