DONGURIのCIが、新しくなるまで。――“PLAYGROUND”を表現する、遊びのこころ
五味利浩
デザイナー
永井大輔
デザイナー
今市達也
グラフィックデザイナー/タイプデザイナー
中園英樹
デザイナー
大久保潤也
コピーライター/コンセプトプランナー/サウンドプロデューサー
東京造形大学デザイン学科グラフィックデザイン専攻卒。卒業後代表ミナベトモミとデザインファーム株式会社DONGURIを創業。VIデザインを基軸に、CI、WEB、商材パッケージなど幅広い表現領域でブランディングに携わる。
学生時代に出場した第47回および第48回技能五輪全国大会ウェブデザイン職種部門において2年連続で金賞を獲得。現在は「歌って踊れる」をモットーに、ロジカルとエモーショナルを両立させたクリエイティブを制作している。
東京造形大学グラフィックデザイン専攻領域を卒業後、株式会社MIMIGURIに入社。タイポグラフィを軸としたブランド開発やグラフィックデザイン、デジタルフォント設計を行う。2020年にフォント開発事業「<a href="https://katakata.don-guri.com/branding/">katakata</a>」を開始。和文書体「あかがね明朝体」「グロテスク」などを制作。受賞歴に日本タイポグラフィ年鑑 タイプデザイン部門 審査委員賞(片岡朗審査委員選出)など。 著書:『<a href="https://letter-spacing.mimiguri.co.jp/">レタースペーシング タイポグラフィにおける文字間調整の考え方</a>』(ビー・エヌ・エヌ)/共著:『書体のよこがお 時代と発想でよみとく書体ガイド』(グラフィック社)/寄稿:『+DESIGNING』vol.50(マイナビ出版)、「Adobe Plus One」など。
東京造形大学デザイン学科グラフィックデザイン専攻卒。卒業後フリーで活動。DONGURI入社後WEB VI、パッケージなどのイラスト制作。AfterEffectsを使ったアニメーション等も担当している。
2005年ソニーミュージックから“アナ”でデビュー。6枚のアルバムをリリース。2014年からコピーライターとしてMIMIGURI(旧DONGURI)にジョイン。クリエイティブディレクターとしてブランディングやPR案件を担当。2017年から作詞やプロデュースを手がけるアイドルグループ“lyrical school”の楽曲では2曲連続でオリコンチャート1位を獲得。2020年にはOLD.Jr名義で初のソロ作品をリリース。エンターテインメント性のある企画プランニング、ブランドコンセプトや企業のメッセージ開発に多く携わる。
2019年3月にリニューアルされた、DONGURIの新たなCI。
事業や組織の課題を解決するための“遊び場”を築きたい、という新たなビジョンである「PLAYGROUND」は、全員でたくさんの対話を重ねて辿り着いたものでした。
CIリニューアルの道のりを辿るこの企画。前編ではCIの理想のあり方や、対話を重ねて言語化されていくまでのお話をお届けしました。
後編では、辿り着いたこの言葉からどのようにクリエイティブが生まれていったのか、実際に制作したメンバーにインタビュー。
互いに信頼し合い、純粋な遊び心で制作を楽しむ姿には、対話から生まれたCIがコミュニティに浸透していく、理想のCIのかたちがありました。
「DONGURIの“遊び”ってなんだろう」
コーポレートロゴにビジュアル、モーション、Webデザイン、そして音楽と、様々なアプローチで新たなCIを表現されていますね。プロジェクトとしては、どのような体制で取り組まれたのでしょうか。
五味CIの視覚化——クリエイティブをメインで担当したのは、僕たちクラフトマンチームです。DONGURIのチームについて少しお話しすると、前編でお伝えしたように、内発動機が似ている区分で分けた4つのグループがそのままチーム化されています。顧客ビジネスの創造や変革を行うビジネスデザインチームと、クリエイティブなアイディアを得意とするプロデュースチーム、デザイン組織の育成が動機となるブランドストラテジーチーム。そして、ものづくりを楽しむ動機を持つのが僕たちクラフトマンチームです。CIリニューアルのプロジェクト体制としては、僕がプロジェクトリーダーで、永井がクリエイティブディレクター、コーポレートロゴが今市、イラストやモーションが中園、という分担で進めていきました。音楽やコピーライティングについては、プロデュースチームの大久保に担当してもらいました。
前編では、新たなCIに辿り着くまでに全員で対話を重ねていったというお話をお聞きしました。CIの視覚化については、どのように進めていったのでしょうか?
五味視覚化のプロジェクトは、CIの対話と並行して進んでました。コーポレートロゴとメインビジュアルから始まって、その2つが、ほぼ同時で進みだしていくような感じです。進め方としては、対話を重ねていくなかで、それぞれがCIに抱いていったイメージを踏まえて「DONGURIの“遊び”ってなんだろう?」っていうのを、ラフを作りながら模索していったという感じですね。
永井この「まずは手を動かして作っていく」というアプローチは、僕たちクラフトマンチームの特性でもあるんです。先ほど五味がお話した4つのチームのなかで、クリエイティブを担当するのはブランドストラテジーとクラフトマンの2つなんですけど、ブランドストラテジーチームは、体系的な思考でプロジェクトを進行していく方が得意で。対してクラフトマンチームは、まずは手を動かしていく、という方が得意なのでそのアプローチになった感じですね。
CIの対話を重ねるなかで、近しい内発動機ごとにグルーピングしたチームだからこそ、得意なやり方で打ち込める、ということでしょうか。
永井そうですね。内発動機が共通しているので、お互いが同じように得意とするやり方で作りながらインプットし合っていけるというか、良い相乗効果が生まれやすいんです。実際にロゴやイラストの制作がそれぞれ進行していくなかで、今市がロゴの制作を進めていくときに細かいニュアンスの言語化ができていって、それをビジュアル制作の中園に共有したり、その逆のパターンが起きたりすることも、よくありました。
クリエイティブの方向性を決めたのは「D」の字だった
それぞれの制作の過程を詳しくお聞きしたいです。まず、新しいロゴについてなのですが、これは既成のフォントではなく、コーポレートフォントとしてオリジナルで制作されたものですよね。どんなアプローチから始まっていったのでしょうか。
今市五味からのお話とも重複するんですけど、最初はDONGURIにとっての“遊び”を考えるところから始めました。進め方について、初めは「作り手が各自のプロフェッショナル性を発揮して、品質を担保したものを表現できていれば、それはDONGURIの遊びを表現できているものだ」という考えを持っていたんです。これはみんなにも頷いてもらった言葉だったんですが、実際に、ロゴのラフを複数パターン出して社内プレゼンしたら「これだと子どもっぽいよね」とか、「もうちょっと知的で、詩的な感じだよね」とか、いろいろなフィードバックがあったんです。「固く縮こまっている感じ」「もっとのびのび感があったほうが良い」みたいな。
今市このときに、“遊び”っていうキーワードの精度をもっと上げていく必要があるなと感じ始めて、フィードバックを踏まえた案出しをしていったんです。でもそのうちに、この“遊び”からのアプローチに限界を感じるようになっていきました。
それは、どのような「限界」だったのでしょうか。
今市メンバーそれぞれが抱く“遊び”のイメージが違うんです。ビジョンの「PLAYGROUND」という言葉もそうですが、“遊び”という言葉には、そもそも多様性が内包されていますよね。その時点で、“遊び”を起点にして作っていくとひとつにまとめられないというか、ゴールがないなと思ったんです。なので、途中から遊びという言葉は使わないで、別の言葉を探すというアプローチに変えました。一旦、解釈を考え直して「DONGURIとはなんぞや? 」というところを掘り下げていくような。メンバーに改めて、DONGURIをイメージするキーワードをヒアリングしたりしましたね。で、今まで築きあげてきたDONGURIの世界観ってどんなキーワードで表せるだろう?と聞いていったときに、「レトロでアカデミック」っていうのが出てきて。そのキーワードはぜひ取り入れたいなと思いました。他にも出てきた言葉としては「お茶目さ」とか、「ちょっとヘソ曲がりな感じ」とかもありましたね。ちょっと内輪的なニュアンスを含むものかもしれませんが(笑)。
そうして出てきたキーワードを、どのように形に落とし込んでいったのでしょうか。
今市方法としては、ちょっと珍しいかもしれないんですけど。僕は、文字を作るときには最終的に、人物に例えて作るのが一番わかりやすいんです。
人物、ですか?
今市はい。何か書体を作るときでも、人が声を出すときのナレーションを、字形として表していくことが多いんです。「誰に読ませたいか」という視点のアプローチで考えていくというか。今回は、知的でユーモアがあって……というところから、ジョージ・クルーニーがモデルになりました。
永井それも『ゼロ・グラビティ』の、ですよね。
出演作まで指定があるんですね!
五味宇宙服を着たジョージ・クルーニーの写真が、今市のPCにずっと貼ってあるんですよ。いつまで貼ってるんだろう、と思うんですが(笑)。
今市それは、制作中の小文字が完成するまでですね(笑)。今の時点ではロゴに使用する大文字ができただけで、フォントとしては未完成なので。方向性に迷ったらそれを見て、ヒントにするようにしているんです。
ジョージ・クルーニーの人物像が、インスピレーションの源になっているんですね。
今市彼の持つ、どっしりとした男性的な印象と、たまにユーモアとかジョークで人を和ませるような、そういう親しみやすい人柄が、イメージに近かったんです。制作の中盤くらいまでは、合計だと100は超えるくらい方向性の違うラフ案を出し続けていたんですけど、このジョージ・クルーニーという人物にたどり着いてからは、1案をどれだけ掘り下げられるか、というアプローチに変わりましたね。そして、最初にできたのが「D」の字でした。
五味この「D」が生まれるまでは、DONGURIのみんなのなかでも視覚化の方向性に答えが出ていないところがあったんです。それが、ある日この「D」が生まれた途端、「いいね」「これだね」と、全員が頷いて。
この「D」の形はちょっと珍しい気がするのですが、何か着想の元になったものはあるんでしょうか。
今市このタイプの「D」は、もともと15世紀くらいに存在していたものです。活字ではなく、手書きのカリグラフィーの時代ですね。その装飾的な字を活字体に落とし込んだらどうなるかな、と考えました。それと、ビジョンの「PLAYGROUND」という言葉から人間味のある遊び心を活字でも表現したいと考えてたので、手書きのニュアンスを節々に入れるようにしています。例えば、人って急いで字を書くと、線がどんどん右肩上がりに、斜めになっていくんですよ。なので、この新しいコーポレートフォントでも一見、垂直に見える線も微妙に右に傾けていたり、セリフ(文字の端にある飾り)の高さを均一ではなく微妙に変えたりしているんです。あと、ドングリのコロコロした感じを表現するために、OやQなどの形を正円に近づけたりしていますね。
「PLAYGROUND」を象徴する“街”が生まれるまで
フォントと平行して、ビジュアルの制作も進んでいたんですよね。隅々まで描き込まれた世界観に圧倒されてしまうのですが、どのような構想があったのでしょうか。
五味DONGURIのコミュニティの特性でもある“様々な内発動機と専門性をもつメンバーが共存する空間”を表現したい、というところから始まっています。各自がイメージをあれこれ伝えるという始まりだったので、ちょっと混沌とした共有だったかもしれませんが(笑)、中園は咀嚼した解釈をアウトプットするのが得意なので、彼のその内発動機と技術を信頼して、委ねてみたんです。実際、最初のラフの時点でみんなが抱くイメージに近いものが上がってきて、さすがだなと。
最初のラフは、どのようなものだったのでしょうか?
中園初めは「遊べる職場」というイメージでした。普通のオフィスに遊び心が入っている、みたいな。でも「PLAYGROUND」の“遊び心”を表現しようとしたときに、オフィスというモチーフだとカッチリしすぎで、縮こまっちゃうところがあって。あるとき、スチームパンクの要素はどう? っていうアイディア出て、それがヒントになったというか。そのあたりから、オフィスではなく“街”というモチーフに変えて、配管を描き足したり、レトロなニュアンスをさらに加えていきました。
永井平行して進んでいたCIの方でも、「レトロ」「アカデミック」というキーワードは出ていたので、プロジェクトが各々で進んでいても、根底のアイディアとしては同じものがあったんだと思うんですよね。ビジュアルの方では、スチームパンクというタッチが最適だったんだと思います。
様々な人が街を作っている、というモチーフは、DONGURIのCIを表現するのにぴったりだと思います。
中園実は、前のWebサイトと世界観に繋がりを持たせてます。前回は、高い塔の中に人々が暮らしている、っていう世界観で、今回はそれを横に広げて、人々が街を作るという表現にして。
永井この世界観の繋がり方を知ったとき、ミナベ(DONGURI代表)がすごく感動してましたね。
中園前回の「塔」のモチーフは、今回のビジュアルでも引き継ぎたくて。だから実は、ちゃんと見てみると後ろの方に昔の塔が存在してるという。気づかれなくても良いかな、っていうくらいさりげなくですけど(笑)。
DONGURIの公式Twitterでも、ビジュアルの中にグリグリくん(DONGURIのマスコットキャラクター)が潜んでいる(笑)ことが明かされていましたよね。あちこちに凝らされた書き込みの仕掛けと合わせて、動きの細かさにも驚かされます。街の息遣いが感じられるモーションですよね。
中園モーションが入ると決まったのは、実は途中からでした。
えっ! そうだったんですか。
中園最初から動く想定なら、動かす箇所のレイヤーを分けて制作しておくんですけど。そうじゃなかったので、動かす箇所だけ剥がして動きの差分を作って戻す、っていう作り方をしました。あんまり大きい動きではないけど、街がちゃんと動いてる印象を作りたいなと思って、あちこち細かく動いている、というモーションになっています。
音楽を好きに付けること自体が、CIの体現になる
WebサイトのBGMでも、歯車が回る音や煙を吐く音など、ビジュアルと連動するエフェクト音が施されていますが、音楽の制作はどのように進めていったのでしょうか。
永井そもそも論になってしまうんですけど、音楽を入れるかどうかで、結構悩んだんです。というのも、Webと音楽の相性は意外と良くないというか、特にコーポレートサイトはキャンペーンサイトと違って、普通の業務時間とか、ネットサーフィンをしているなかで見るものですよね。だから、聞けない・聞かれない状況の方が多いというか。
結果として、音楽を入れた理由はなんだったのでしょうか。
永井音楽をプラスしてブランドの世界観を広げていくというのは、昔からDONGURIが得意としてきた手法なので、その良さを大切にしたいと思ったんです。なので、別のチームではあるんですけど大久保にオーダーを出しました。
大久保僕としても、依頼を受けて考えたのは、音楽がWebサイト上でどう機能するかっていうよりは、このサイトに好き勝手に音楽を付けること自体が「PLAYGROUND」を表現しているというか、その行為自体に意味があるんじゃないかなって思ったんです。中園のイラストなんかも、そういうことなんじゃないかなって。
「なくてもいいかもしれないもの」をあえて好きに作る、それによって世界を広げていくというのは確かに“遊び”そのものですね。
大久保永井からのオーダーも「こういう感じで」っていうざっくりした世界観のオーダーはあったものの、ほとんど任せてもらえたので、好きに作りました。
永井今回は中園が作るビジュアルのこともあったので、音楽もエモーショナルな感じにしたいと考えていました。オーダーとしては、ストリングスを使ってほしいと伝えたりして。あと、大久保がやっているアナというユニットの『Planet』という曲が、ストリングスも入っていてすごくイメージに近かったので、それも参考として伝えたりしました。そしたら、最初に大久保から送られてきた曲のデモが一発でイメージどおり、かつ大久保らしい作風のあるものだったので、ぜひこのまま進めてほしい、とお願いしたんです。
デモについては、どのような考えで作られたのでしょうか?
大久保僕の場合はビジュアルがあるのであれば、音楽もそれと親和性のある、整合性のとれたものを作りたいんです。なので作業としては、中園が描き進めていた途中経過のビジュアルを見ながら作っていきました。あと、WebサイトのBGMって一般的にはインストが多いと思うんです。でも、音楽ユニットでボーカルもやっている僕がやる意味として歌が入っていないとな、とも考えてました。今回は特に、メインビジュアルに人がいて街が作られていくというものなので、無機質な感じというよりは、有機質な感じにしたいなと思って。さっきのお話にも挙がったビジュアルと連動する効果音も、中園に「この歯車は動く?この時計は?」って聞いて、動くならその音を入れよう、っていう考え方で作りました。
永井こういうやりとりが生まれるのも、音楽までオールインワンで作れることの強みですね。
大久保それは僕も思っていて、たとえば歌詞って、企業ソングだと難しいと思うんですよね。その企業や働く人のことをちゃんと知っていないと、無難な歌詞にまとまってしまいがちというか。今回の場合、やっぱり僕が“中の人”だから作りやすかったというのもありました。
「作ること 描きだす 話す人 映してる」など、DONGURIというコミュニティと、ビジュアルの世界観が表現されたシンプルでスマートな歌詞ですよね。
大久保ビジュアルに合わせて、「いろんな仕事をしている人がいる」という歌詞にしたかったんです。「話す」がファシリテーターで、「映す」が映像ディレクターで、というように。いろんな仕事をしてる人がそれぞれ歌って、最後にひとつにまとまる、という構成にしています。
一流の仕事を、いかにシンプルに伝えるか
リニューアルされたWebサイトは、なんだかすごく好奇心を刺激されるというか、ワクワクする気持ちで次から次へとクリックしてしまうんですよね。Webサイトについては、どのようなコンセプトで制作されたのでしょうか。
永井サイトを作る段階で、ロゴもビジュアルも音楽も一流の素材が集まっている状態だったので、集まった素材の良さを、いかにシンプルに伝えられるか? っていうところに注力をしていたのが実際ですね。加えて、前回のWebサイトで感じていた「動作が重い」という課題は絶対に解決しようと思っていました。前回のWebサイトはデザインが弊社の吉田、実装は僕が担当だったんですが、読み込みや動作が遅くなってしまったことに、自分自身でもストレスを感じていたんです。なので、軽さを含めたユーザビリティは初めから意識していました。
確かに、ビジュアルは作り込まれているものの動作がとても軽いですね。ローディングのモーションなど、Webサイトとして見ると演出自体はとてもミニマルなんだと気がつきました。
永井中園がビジュアルをすごく作り込んでくれたので、やろうと思えば、ゴリッとしたアニメーションで演出することもできたと思うんですよ。ただ、それだと胃もたれしてしまうというか、ちょっとクドいかなと考えたんです。シンプルにミニマルに、というのは心がけました。あと、デザインコンサルというビジネスモデルって一般的に、堅苦しい印象があるんじゃないかなって思ったんですよね。なので、メンバー一人ひとりのプロフィールページを設けたり、それをプロジェクトページと紐づけて読みやすくしたり、読みものとして楽しめるように工夫しました。
Webの制作では、設計やデザインだけでなく実装も肝になりますよね。今回、実装で特にこだわったのはどんなところでしょうか?
永井ナビゲーションの実装は、地味に手間がかかりました。見ていただくとわかるんですが、ナビゲーションを一度クリックすると、サイドバーが開いたままになるようにしてるんですよ。ずっとサイドバーが出ていれば、いろんなメニューをクリックしてもらいやすいし、回遊率も高まるかなと思って実装したんですが、これって実は、ありそうでなかなか無い仕様なんです。アイディア自体はシンプルなんですけど、細かい調整が意外に大変でした。そのほかにも、BGMのアナライザー(音域表示グラフ)が同期しているところとか、気づかれないようなところで色々こだわっています。
えっ! あのアナライザー、音楽と同期してるんですか?
永井2番のサビの前で音が止まるので、そのときに見てもらうと、わかりやすいかもしれないですね。同期させずにイミテーションでもよかったんですけど、音楽にこだわってる分、ここでもしっかり本物を作りたいと考えたんです。
五味それ、僕も今はじめて知りました(笑)。永井に限らず、各々が好きに作っているので、こういう、チームでも知らないこだわりポイントが多いんですよね。あと噂で、フッターの境目のところに、たまにグリグリが出てくるって聞いたことがあります。
永井ある条件が揃うと登場しますが、あまりにもレアなので、社内でも2人くらいしか目撃してないです。グリグリの気分次第と思っていただければ。その他にも、実はブラウザのコンソールにもちょっとした仕掛けがあります。気づいてくださった方にはメッセージも用意しているので、これはぜひ実際に見ていただきたいですね。
メンバーのプロフィールページのお話に戻るのですが、役職紹介と合わせて、ちょっとした格言のようなフレーバーテキストが添えられていますね。
永井これは世界観をより深く伝えるために、主にミナベと僕で考えたテキストです。全員が専門領域を持っているコミュニティなので、その能力が伝わりやすくなるように一人ひとりに適した役職を表現したい、というのはミナベからのリクエストでもあって。それに中園のイラストを載せることは決まっていたんですね。何気なくそんな話をしているなかで、名刺がカードゲームになっていたら面白いんじゃない?というアイディアがぽろっと出て。そこから、このフレーバーテキストの遊びや、名刺をカードゲーム仕立てで作ることに繋がっていった感じですね。
五味登場する名称などは、ミナベが創業当初に考えていたDONGURIの設定集などがベースになっています。「クエルクス編纂」などの文言もありますが、これはその設定の中にクエルクス教授という樫の木の学名を名に持つ人物がいるんですよ。コーポレートのクリエイティブではその設定を土台にして、みんながいろいろ遊んでいる感じですね。
今市ちょっと脱線しますが関連する話で言うと、コーポレートタイプを作るときにも、この書体を作った主はクエルクス教授だ、という仮設定でのアイディア出しもしていましたね。
名刺で遊べば、DONGURIのCIを体験できる
カードゲームとして遊べる名刺って、とても斬新ですよね。これは実際に、本当に遊べるんでしょうか?
永井はい、遊べます。全体のルールみたいなものは、ミナベがすべて考案しているんですけど、簡単に言うと、DONGURIのプロジェクトフローを体験できるというゲームですね。表は名前や役職、連絡先などが載った普通の名刺なんですけど、裏返すとその人が持つスキルや、ゲームのなかでの使用条件などが書かれています。例えば、クラフトマンチームのカード(名刺)は勝利点を多く稼げるんですけど、代わりにデメリットもセットになっています。これは、「アウトプットのクオリティに特化する」といったチームの特性に由来するスキルなんですね。なので、この場合は単体で使うのではなく他チームのカードが持つスキルでデメリットを打ち消す、というように、DONGURIのメンバーやチームの特性をゲームで体験できるようになっています。
DONGURIのメンバーが持つ異なる個性や内発動機が、そのまま強みとしてゲームの中にも組み込まれているんですね。
五味今後はゲームのルールブックや、カードを収納してキットにできる化粧箱なども作っていきたいねと話しています。
共通言語として機能する、“使われるCI”の理想像
DONGURIの“遊び”を体験できる、実際に遊べるツールを提供するというのは、まさに「PLAYGROUND」の体現ですね。Twitterで紹介されていたパーカーやマグカップなども、クラフトマンチームが作ったものなのでしょうか。
五味いえ、あれは僕らじゃなくて、もうひとつのクリエイティブチームであるブランドストラテジーチームが自主的に制作したものです。
今市新しいロゴのAIデータが欲しいと言われて渡したら、ある日突然「こんなのできました」と。
え、そうだったんですか? できあがってから?
今市はい、もう完成した状態で(笑)。正直驚きましたが、すごく嬉しかったです。トレーナー、みんなわりと着てますよね。
永井着てますね。
てっきり、CIリニューアルの一貫で計画的に制作されたのだとばかり思っていました。
大久保これはCIの理想っていうか、自分の会社のグッズを、頼まれてもないのに作るって普通はなかなか起きないことだと思うんですよ。そういう意味で、このCIが本当に浸透してるんだなと思います。
今市みんながロゴに愛着をもって実際に使ってくれているというのは、僕としても作った甲斐がありますし、プロジェクトとして、社内的にも成功と言えるのかなと思います。
「CIは使われる共通言語であるべき」という前編でのミナベさんの言葉を思い出します。お話を聞いていると、CIが浸透して使われていると同時に、皆さんが心から純粋に遊んでいる感じがするんですよね。
五味そうですね。新しいCIのために対話を重ねたことで、お互いのやりたいことや内発動機を、純度の高い状態で理解し合えているから素直な気持ちで遊んでいけるっていうのはありますね。個人や、チームの思考が見えているからこそ互いに信頼して委ねられるというのは大きいと思います。
永井すごく嬉しいなと思うのは、僕たちクラフトマンチームが、楽しみながら作っていることが他のチームにも伝わっていったことですよね。今回のコーポレートグッズみたいに、愛着を持ってもらえるのも嬉しいですし「何か作ってみよう」ってみんなにも楽しんでもらえるなら、クラフトマンチームとしても、とても幸せですね。
内発動機を起点に、対話を重ねることで生まれたDONGURIの新たなCI。
純粋な気持ちで遊ぶ心が響き合い、アウトプットとしてのクリエイティブだけでなくDONGURIというコミュニティで“遊び”が広がっていく様子には、「PLAYGROUND」そのものが体現された、CIの理想のかたちがありました。
Writer
田口友紀子
Photographer
吉田直記
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