創造性は、人を理解し愛することから生まれる――インテージとMIMIGURIに通底する、組織の“野生”を育む思想とは。

  • 安斎勇樹

    代表取締役Co-CEO

  • 小田裕和

    デザインリサーチャー

  • 1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。研究と実践を架橋させながら、人と組織の創造性を高めるファシリテーションの方法論について研究している。組織イノベーションの知を耕すウェブメディア「CULTIBASE」編集長を務める。主な著書に『問いのデザイン-創造的対話のファシリテーション』(共著・学芸出版社)『リサーチ・ドリブン・イノベーション-「問い」を起点にアイデアを探究する』(共著・翔泳社)『ワークショップデザイン論-創ることで学ぶ』(共著・慶応義塾大学出版会)『協創の場のデザイン-ワークショップで企業と地域が変わる』(藝術学舎)がある。

  • 千葉工業大学大学院工学研究科工学専攻博士課程修了。博士(工学)。千葉県出身。新たな価値を創り出すための、意味のイノベーションやデザイン思考といったデザインの方法論や、そのための教育と実践のあり方について研究を行っている。現在は、新たな意味をもたらすための商品開発プロジェクトや、主体的に価値創造に取り組む人材の育成プロジェクトを中心にディレクションやファシリテーションを担当している。著書に『リサーチ・ドリブン・イノベーション:「問い」を起点にアイデアを探究する』がある。

<プロフィール(敬称略)> 
檜垣 歩
株式会社インテージ 代表取締役社長
東京大学理学部卒業。カゴメにて飲料の商品開発、マーケティングに従事後、1995年10月社会調査研究所(現・インテージホールディングス)入社。SCI再構築、i-SSP開発、R&D等に従事。2016年4月取締役、2019年4月代表取締役に就任。 

鮎澤 留美子
株式会社インテージ カスタマー・ビジネス・ドライブ本部 事業デザイン部 デ・サインリサーチグループ マネージャー
インテージでは、リサーチとワークショップを組み合わせ、新しい商品やサービス開発を支援するプログラム『デ・サインリサーチ』を立ち上げ、推進している。プロジェクトの企画監修に携わり、新しい発見を得るための創発型リサーチとワークショップを実施し、クリエーティブブリッジを担うミッションに情熱を注いでいる。

不確実性の増す現代社会において、自分たちの「ありたい姿」を問い直し、同時に組織の可能性を広げていくための方法として「リサーチ(調査・研究)」に注目が集まっています。

MIMIGURI代表取締役 Co-CEOの安斎勇樹と、国内最大手のマーケティング・リサーチ企業・株式会社インテージは、MIMIGURI創業以前の2015年から協業関係を結び、多様化する価値観の中で生活者をより深く理解し、新商品・サービス開発につなげていくためのリサーチデータを活用したワークショップ・プロジェクトに取り組んできました。

MIMIGURIの前身となるミミクリデザイン創業後の2020年7月に業務提携を締結。同時に、事業の根底にある組織の価値観の再構築によってイノベーションを支援する『Re-Frame』を共同事業として展開しています。2021年4月には、これまでの取り組みの集大成となる書籍『リサーチ・ドリブン・イノベーション(翔泳社)』が上梓されるなど、互いに良きパートナー企業としての歩みを続けています。

今回の座談会では、株式会社インテージ代表取締役社長・檜垣歩さんと、同社カスタマー・ビジネス・ドライブ本部 事業デザイン部 デ・サインリサーチグループ マネージャー・鮎澤留美子さんをお招きし、改めてインテージが「リサーチ」という営みについてどのような思いを大事にしているのか、お話を伺いました。聞き手は、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』の著者である安斎勇樹と小田裕和の二人が務めています。

リサーチとは、人間理解の営みである。好奇心を創造性に繋げる“野生”の大切さ 

小田昨今のコロナ禍の影響もあり、あらゆる事業の前提が大きく変化しました。その結果、現在多くの組織が、自分たちが何を良いと考えるのかを捉え直す必要に迫られていると感じます。こうした状況を迎える中で、インテージさんは「リサーチデータの価値を更新し、お客様のビジネスを前進させること。アウトカム(顧客の成果や成し遂げたい変化)に貢献する」を提供価値として掲げていますし、僕らMIMIGURIとしても、商品開発をやるにしろ、事業開発をやるにしろ、組織が学習し、変容し続けられる状態を生み出すことを大事にしながら、リサーチに取り組んでいます。

今回の企画では、インテージさんが組織の変容をどのように大事にされているのか、改めてお話を伺いながら、これからのリサーチのあり方についてともに考えていけたらと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

檜垣よろしくお願いいたします。今「アウトカム」という言葉を挙げていただきましたが、確かにここ一年ほど、鮎澤たちが所属するカスタマー・ビジネス・ドライブ本部では、アウトプットだけではなく、ビジネスの成果であるアウトカムに貢献することを事業活動のテーマに掲げています。お客様であるクライアントに成果の変容を届けるような枠組みにシフトしていこうという取り組みですね。

なぜアウトカムを大事にしているかというと、リサーチに求められるものが変わってきていると思うからです。単に正しい結果をお届けするだけでは、クライアントもあまり満足されなくなってきています。生活者理解を基盤に、戦略策定や実行支援にも関わってほしいと求め続けられてきたこともありまして、やはり我々は、様々なデータを統合しながら、クライアントのマーケティング活動全般や、ビジネスとしての成長に伴走することを考えたんですよね。

小田アウトカムの考え方を推進していく中で、現状のリサーチャーやマーケターが抱えている課題としては、どのようなものがあるのでしょうか?

檜垣私がこの業界に入ってきた30年前に比べて、今は20年も30年も続くようなブランドがなかなか生み出せなくなってきています。その背景には、もちろん市場が飽和していて、その中で余計にマーケターが萎縮してしまっていることもあるのですが、他方で、正解を求める、最短距離で向かおうとする業界全体のマナーが、新しい価値を創ることと相反してしまっている部分もあるのではないか、とも思うんです。経営学者・野中郁次郎先生の言うところの、ビジネスにおける“人間の野性味”が損なわれているのではないか、って。

リサーチャーは、確かにリスク回避をしたがる傾向もありますし、それもある側面では大切です。だけど、もう一つの側面として、好奇心の塊でもあるんですよね。『リサーチ・ドリブン・イノベーション』の中でも、安斎先生が「探究的衝動が抑圧された結果、創造的自信が失われている」と書かれていましたが、自身の好奇心の翼を羽ばたかせることが、現代のリサーチャーが価値創造をしていくためには重要なのではないか、と思っています。

安斎今檜垣さんから「野生」というキーワードが出てきましたけれども、僕が最近考えていたことと結びつく部分がありまして……。こちら『野生の思考』という本なんですが、見えますか?

『野生の思考』とは/1962年にフランスの人類学者・クロード・レヴィ=ストロースによって発表され、いわゆる構造主義ブームの発火点となった著作。日本では1976年、大橋保夫による訳書がみすず書房より刊行。

檜垣La Pensée sauvage(『野生の思考』の原題)じゃないですか。レヴィ=ストロースですね!

安斎そうです、そうです。まさにこの本の話だなと思って。この本の中で合理性に囚われた近代的なやり方は、人間にとって実は不自然なのではないかとレヴィ=ストロースは言っているんですね。目標に向けて道具を用意するのではなく、近くにある道具で試行錯誤しながら、作るべき物を“修繕”し、間に合わせていく。そのほうが人類にとってはよっぽど大事だと語られています。僕らも『リサーチ・ドリブン・イノベーション』を書く中で、そういう感覚を大事にしたいという気持ちがありました。

檜垣30年前は現代のようにデータがリッチではなかったから、定量調査だけでなく、自分の経験や周囲の人の話、それからグループインタビューも手がかりにしながら、意思決定や仮説構築をしていたんですよね。データがリッチになったことで、逆に本質が見えなくなることもあるのかもしれません。

それでは本質とは何かと考えた時に、やっぱりマーケティングとは誰かのことを理解して、その人を喜ばせることだと思うんですよね。データやリサーチがその目的を忘れてしまったら、一体何の価値があるのかと考えてしまいます。マーケティング・リサーチは人間理解の行為だという前提の上で、リッチなデータがあるから活用する。そのような営みであるべきではないかと思うんです。

安斎ここ数年、鮎澤さんをはじめ、インテージの皆さんと様々なプロジェクトにご一緒させていただきましたが、いずれも人間の本質に迫る内容で、「マーケティングは人間理解である」というのはおっしゃる通りだと思います。人間を理解するのはやはりすごく難しいけれど、難しいから面白いわけですよね。「人間って、なんでこうなんだろう?」と、わからないことをわかろうとするためにデータを使う。その営みの中に、我々とインテージさんが一緒に組む意味があると思うんですよね。

小田安斎と鮎澤さんが接点を持ったのも、安斎が開いた研究会の中での、データによる人間理解の活動がきっかけだったと聞いています。

鮎澤そうですね。私がマーケティング・リサーチの世界に入ったのは、ちょうど2000年頃で、インターネットの進化に伴い、マーケティングやマーケティング・リサーチにネットが活用され始めた時期でした。WEB調査が浸透し始めるなど、データ取得に大きな変化の波がやってきていることを実感しながら、様々な調査プロジェクトを経験していく中で、時々、生活者理解に関するデータの解釈やその報告の在り方において、疑問にぶつかることがあったんです。

例えば、当時はまだ今よりも多く郵送調査を行っていたのですが、実際に対象者から書き込んでもらった生々しいアンケート原票を眺めていると、生活者の実回答に辻褄が合わないことから、逆に妄想やたくさん浮かんでくることがありました。しかし、作業工程として、データ整理や集計を行うにあたり、仮説にもならない疑問は自分の内に抱え込んでいたままでした。

そうした中で、安斎先生の問いの研究会に参加し、問いを立てることで、更に新たな問いが生まれることを学んだり、疑問を持つことや、問いの力が、発想や創造に大きく関わっていることを強く実感したりする体験をさせていただきました。テクノロジーが進歩した結果、個人とデータを紐付ける精度や整合性は進化していると思いますが、データから生活者を理解する際には、同時に浮かび上がる理解し難い疑問も同じく大切にしなければと、改めて気づかせていただいたんです。

安斎その研究会のあと鮎澤さんからお声がけいただいて、協業がスタートしてから、リサーチとワークショップの相性の良さを改めて実感しました。例えばある人のコンビニエンスストアの購買データがあったとして、そのデータを一人で見るだけでも妄想は広がるし創造性も刺激されるのですが、ワークショップの中で複数人で読み解くと、調査対象であるユーザーへの愛が立ち現れてきた感覚があったんですよね。

それまでデータを活用しない形式のペルソナやカスタマージャーニーを創るワークショップは何度も経験していたのですが、そうするとどこかでそのペルソナに対して距離を取ってしまったり、斜に構えるようになってしまったりするんですよね。「あぁ、こういう人いるよね(笑)」みたいな。

だけど、コンビニのデータがあって、「平日は近場でカップ麺を買ってるけど土日はわざわざ車で出かけて新商品を買いに行っている」といった情報に触れると、なんだか対象者に可愛げを感じてしまう。次第にその人への愛情みたいな気持ちが芽生えてきて、この人が幸せになるためにはどうしたら良いのかと考え始めて、創造的なアイデアに繋がっていく。そういう現象が実際にワークショップの中で起こったんです。それも取り戻すべき野生の形の一つなのだと思っています。

檜垣すごく共感します。先ほど誰かのことを理解して、その人を喜ばすのがマーケティングじゃないかと申し上げましたが、やはりそれは愛する人に対する行動だと思うんですよね。愛は人間の持っている原初的な衝動であり本質の一つだと思っているので、まさに野生と言えますよね。単に荒々しいだけが野生じゃないので。愛は野生ですよね。

「わからないことに対峙する勇気や度量が、すごく重要になってくるのではないかと思ったんです」

小田『リサーチ・ドリブン・イノベーション』でも引用した、意味のイノベーションの第一人者であるロベルト・ベルガンティも、生活者に愛のあるギフトが届けられるかどうかが大事だと主張しています。本当に世の中の誰かのためになるものを作るという前提があって、だからこそ、その人のことをもっと深く知りたい、探究したいという姿勢が立ち上がると思うんですよね。データに対して愛のある素朴な疑問が湧いて、循環していくかどうかが改めて大事なんだなと、僕の中でも改めて繋がりました。

檜垣今インテージでは、顧客の「アウトカムとは何か?」という問いを中心に事業テーマを掲げていますところ、その活動の一環として、リサーチの企画書を提案する前に、顧客課題を掌握し、更にその課題に対してビジネス・クエスチョンと、リサーチ・クエスチョンをそれぞれ考える機会を設けています。この設え自体、MIMIGURIさんの探究の姿勢に影響を受けていると思うのですが、メンバーから挙がってきたものを見ると、想定以上に深い問いが設定されていたんですよね。『リサーチ・ドリブン・イノベーション』の中でも、アカデミック・リサーチの問いの設定プロセスについて書かれていましたが、それを読んで、問いの設定からリサーチの営みは始まっていて、それは何も左脳だけの活動ではないと気づきました。

安斎研究者の問いの立て方について今ふと思い出したのですが、僕の指導教官が、僕が大学院に入った時に、「怒りやテクニックで研究の問いを立てても長続きしない」とよく言っていたんですよね。「対象に対して愛を持てるかどうかが、研究者としてすごく大事だ」と。僕は愛ってこっ恥ずかしくてあまり言わないんですけど……(苦笑)。

檜垣えー!全然言っていいと思いますよ(笑)。 ちなみにインテージのマネジメント指針は「利益と愛と志」なんですけど、愛はやはり大事だよねってことだと思っています(笑)。

安斎そうですよね。今、思い直しているところです(笑) 

小田他方で、自分たちがどういうものを良いと思うのか、その価値観自体が変わらないことが問題になるケースもあると思っています。価値観を問い直して、必要に応じて自分たちで新たに設定し直していくことも大事なのではないか、と。

檜垣そうですね。良さや、組織としての真・善・美は変わっていくものだと思います。

小田そういうものを問い直していくにあたって、データを読み解くことを通して、「自分たちはこういう方向に進みたいのかもしれない」という前提の合意を少しずつ形成し続けていくことも、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』では大事にすべきプロセスの一つだと考えています。そのあたりに関してはいかがでしょうか?

檜垣先ほどの話とも繋がるのですが、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』の中に、「ポジティブ・ケイパビリティ*」と「ネガティブ・ケイパビリティ**」という言葉がありますよね。

*ポジティブ・ケイパビリティ
目標を明確に掲げて、それを阻害する要因に対応することで、問題解決を推進する志向性。スピードが求められる膨大な情報処理的な業務に向いている。

**ネガティブ・ケイパビリティ
事実や理由を性急に求めず、不確実さ、不思議さ、懐疑の中にいられる志向性。時間のかかる創造的な業務に向いている。

檜垣基本的に企業の中で働く人には、ポジティブ・ケイパビリティが求められますよね。実際インテージでも、皆スピードが求められる膨大な情報処理的な業務に取り組んでいます。だけども、この本を読んで、ネガティブ・ケイパビリティの重要性を改めて認識しました。普段の仕事に求められるケイパビリティとは逆なので、一見部分不整合な印象なんだけど、組織の中にあえて部分不整合なものを持つことも、組織の活性化という点では大事なのではないかと、わからないことに対峙する勇気や度量がすごく重要になってくるのではないかと、思ったんです。

安斎そのポジティブ・ケイパビリティやネガティブ・ケイパビリティの話と、組織としての真・善・美を問い直していく話を結びつけて考えることがすごく大事だと思っています。先ほど野中郁次郎先生のお名前が出てきましたが、僕も野中先生の本すごい好きなんですよ。

檜垣あら、そうなんですね!(笑)

安斎そうなんです(笑)。真・善・美の捉え方として、野中先生は書籍『ワイズカンパニー』などで、物事の本質は誰にとっても共通で永遠不変にイデア界に存在するものとするプラトン的な考え方ではなく、良さは自分たちで発見して、考えていくしかないというアリストテレス的な考え方が重要だと述べているんですよね。理想的なデザインがどこかに存在すると考えるのではなく、良いデザインは自分たちで考えるしかない、と。

目標に向かって合理的に考える志向性は、トップが固定した真・善・美の価値基準が段階的に降ろされて、部下たちはその価値基準の中でやり方を追求していれば良いという価値観だと思います。それでは真・善・美は問い直されませんが、ポジティブ・ケイパビリティの傾向が高い人にとっては、その方が楽で良いのだと思います。他方で、アリストテレス的考え方に基づくと、現場の人たちがあくまで自分たちにとっての、カッコ付きの「真・善・美」を考えていくことが大切になる。

組織として現場が自分たちの「真・善・美」を問い直しても問題なくやっていける回路が存在するかどうか。その触媒になるのが、おそらく問いであり、ネガティブ・ケイパビリティという志向性なのだと思っています。また、そのモードチェンジをどのように切り替えてやっていくのかが、イノベーションを生み出そうとする組織にとっての重要なポイントになるだろう、と考えています。

リサーチとワークショップに共通する、“創造性を民主化する”歴史と思想

檜垣今のお話を伺いながら思ったこととして、インテージって、トップダウンが強い会社ではないんですよ。歴史的にボトムアップが強い会社で、外界と接している現場の人たちが一番偉い(笑)。 でも、それって正しい組織のあり方だとも思うんです。

インテージも創立からもう60年以上経っている企業なんですが、ちょっと若い感じの風土もあって。その社風がどこから来るのかというと、1960年代に設立されて、70年代に、入社2・3年目の若造がですね、労働組合を結成して、無期限のストライキを起こして、創業経営者を追い出しちゃったんですね。同時に累積赤字や粉飾決算も発覚して、ものすごく大変な思いをして経営再建をしたんですけど、労働組合の中枢部がいわゆる自分ごと化して職場を守ろうとして、要は現場が頑張ったんですよね。結果的にその人たちが90年代以降、第2次創業といわれるビジネスを創生して、今のかたちに繋がっていったんです。

そのようなバックグラウンドを持っているから、まぁ、「トップダウンなんてくそくらえ、現場が一番強いのが当たり前だろ!」というふうに考えていたわけなんですよ。今でも、「社長がエレベーター待ちの列の最後に並ぶのが、インテージの良いところだよね」と言われたりもするのですが、それもやはりそういう歴史やカルチャーがあるからこそだと思っています。

ただ、今ではインテージも大きな会社になって、様々なキャリアやバックグラウンドを持っている方がジョインしたことで、多様性も生まれてきています。元々持っているカルチャーが必ずしも保持されてるわけではなくなってきているんですよね。そうした中で、私が社長としてやらなければいけない仕事の一つは、元々あった良きカルチャーをきちんと引き継ぐことだと思っています。残すべき良き風土とは、自由闊達さであり、経営の意思の明快さとボトムアップの強さのバランスの取れた状態だと考えています。

やはり「あれをやれ、これをやれ」と上司の指示するままに行動する組織は、基本的に活性化していないものだと考えています。なぜなら、問いかけがないと、自律性も、主体性も生まれないから。心の底からこの仕事がやりたい、こんなふうにしたいというWill(意志)を持っていることが私は良い仕事の条件だと考えていて。やっぱり内発的動機ってすごく大事なものだと思うし、真・善・美は上から与えられるものではなくて、自分の価値観に照らし合わせて初めて出てくるものだと思うんですよね。真・善・美について考えるきっかけになるような問いは、やはり良い問いかけなのだろうと思います。

小田おそらく本質的には組織のいろんなメンバーが、上下関係なく、真・善・美に対して、何が大事なのかを問い直していけるかことが大事なのだろうと、今の話をお伺いして改めて思いました。他方で、それを問い直す時に、リサーチはどのような役割を担えるのでしょうか?

檜垣我々のマーケティング・リサーチでは、顧客理解や生活者理解の領域を主に扱わせていただいているのですが、ある意味、錦の御旗としての役割があると感じています。例えば、小売業さんとメーカーさん、広告代理店さんと、立場の異なる人たちが関わり合う中で、リサーチには、それらの立場の違う人たちを一つにする力があると思うんです。

インテージでは「Create Consumer-centric Values」といって、クライアントのマーケティングに寄り添い、共に生活者の幸せを実現することを事業ビジョンに掲げています。「Consumer-centric」と言っているのは、「生活者中心の思考を持つことによって、立場の違う人も同じ方向を向けるように」という意味合いを込めているつもりなんですよね。なかなか伝わらないんですけれども(笑)。

その他にも、リサーチが生み出したファクトに基づくからこそ、創造性が刺激され、よりクリエイティブになれるという意味合いもあるのかなと思います。つい先日の採用面接でも面白いことがあって、ある方に「どうしてリサーチャーになろうと思ったの?」と聞いたら、「インテージのインターン・シップを受けて、データに触れる経験をしたら、創造性のない自分でも創造的であれると思ったから」と言ったんです。その時に、「あぁ、リサーチやデータには創造的自信を与える力があるんだ」と思ってね。「すごい素敵な答え。……だけどあなた、きっと元々クリエイティブだったんだと思うよ」と思ったし、そういうふうに言ったんだけど(笑)。

安斎今回お話を伺って、MIMIGURIが小さい企業ながらこれまでご一緒させていただいた意味や必然性を改めてすごく実感しています。というのも、元々鮎澤さんから協業のお話をいただいて、やっていこうと決めたのも、「リサーチ×ワークショップ」という方程式があって、そこの相性がすごく良いんじゃないかと考えたからなのですが、僕がずっと博士論文を書いてまで研究してきたワークショップという方法と、今の話がすごく重なるように思えたんですね。

現在ではワークショップも広く普及していますが、僕が博士課程のいち研究者だった時の悩みは、「ワークショップで博士論文を書いているんです」というと、実務家の方から「ポストイット整理するやつですね」と言われることだったんです。でも実際はワークショップって世界的には100年、日本でも70年ほどの歴史があるんですよね。1947年、戦争直後に、帝国大学で教員が集まって行われたワークショップが、日本で初めて横文字でワークショップと銘打って行われたものだと言われています。そしてその背景には、それまで「教育の方針は天皇が決めるもの」だったのが、戦後民主化されて、現場の先生が教育のあり方を議論してもOKとなったことがありました。

檜垣なるほど。

安斎ワークショップは元々「工房」を意味する言葉で、「工場」とは異なるんですよね。決められたやり方で生産するのではなく、現場の先生が自分たちで考えて、教育の問題解決の話をした。それが日本初のワークショップです。だから、元々ワークショップって、パンク・ロック的な考え方に基づいていて、近代合理主義的なトップダウンをボトムアップで跳ね返すための運動だったんです。

その精神は他の領域のワークショップでも発揮されていて、例えばまちづくりの領域では、偉い人が指示するままに建物を建てることに反発し、住人で話し合うための方法として用いられるなどしています。そして、商品開発の領域では、企業主体で新しい技術ができたから世に出そうとするのではなく、ユーザーと一緒に話す機会も得られるようにと、ワークショップが活用されるようになったんです。なので、檜垣さんからインテージさんの社風の話や、リサーチによって創造性を民主化していく話などを伺いながら、歴史的・思想的にも相性が良かったのかもしれないと思いました。

檜垣リサーチや統計的な手法が日本で普及し始めたのが1950年代のことなので、民主化の流れとも軌を一にしますよね。政策を決めるにしても何にしても、実態を調べて民の声を聞く必然性があったのだと思います。やはりマーケティング・リサーチも、一種の民主化のツールというか、民の声を聞いて、モノをつくるサービスを作って、より良いものにしていくという活動で、そのような歴史的な役割はあるのだろうと思いますね。

小田時代背景として、当時はありたい姿を自分たちで考えてはいけなかった状況から少し解放されて、ワークショップをやるようになったり、統計的なアプローチが豊かになっていたということですよね。現代でも、自分たちのありたい姿を考えなければどうしようもない状況を迎えている中で、どういうふうにそれをやっていくのか。それを探究することがインテージさんとMIMIGURIが一緒にやっていく理由なのだと思っていて、“「ありたい姿」を問い直す”をコンセプトに掲げる『Re-Frame***』は、象徴的な共同事業なのだと思います。

***Re-Frame
株式会社インテージの「デ・サインリサーチグループ」と、株式会社MIMIGURIによる共同事業。リサーチデータとワークショップを活用し、作り手であるクライアントの“ありたい姿"を問い直し、組織づくりを含めたイノベーティブな開発の支援を行う。
https://re-frame.com/

檜垣今の一連の話を聞いて、ワークショップは単なるインサイドアウトを高めるアプローチというよりも、みんなが当事者として巻き込まれる、インクルーシブであるための方法なのかもしれないという印象を持ちました。結果として一人ひとりが主体性を持つから、ありたい姿を自問できるし、対話もできる場なのだと思います。そう感じたのも、やっぱり私自身が、ポジティブ・ケイパビリティが跋扈する世の中に対して、必要なバランスを提供するものが必要だと感じているからなんですよね。つくづく組織の真・善・美というのは、与えられるものではなく、問われて、自ら考えて、そこに参画するものではないかと思います。

小田そうですね。社会全体がこれからもっと複雑になっていく中では、今よりも多様な情報をいろんな角度から捉えなくてはいけません。一人、一社でやっていくことが難しくなる中で、クライアントがありたい姿を考えられるようするために、リサーチやデータを活用して支えていくようなコラボレーティブな活動をやっていきたいというのが、僕らMIMIGURIとインテージが掲げる、「伴走」という言葉の意味なのだと改めて実感しました。

鮎澤クライアントが愛を持った贈り物を世の中に届けるために、共創・共生関係を築けるように頑張らねばと、より一層強く感じます。民主性という言葉や、檜垣からのインクルーシブというキーワードは、一緒に同じ目標に向かい、社会や暮らしを作っていく上で、勇気が出る言葉だなと思いました。そのような関係性が、新たなリサーチのスタンスを作っていくことにも繋がるのだと思います。

檜垣私、本当にその通りだと思っていて。役割や組織の一線を超える勇気を持って初めて同じ目線に立てて、生活者のために一緒に価値を創ることができるんじゃないかと。そう考えると、私はやっぱりその営みは必要なものだと思いますね。

小田そうですね。今回は僕らもやってきたことを振り返り、インテージさんと一緒にやることの意味に対する理解が深まりました。貴重な機会をいただけて、本当に嬉しかったです。

檜垣私もすごく、楽しかったというと僭越ですけど、楽しかったです。リサーチというのはアウトサイドインのアプローチためのツールだと思われがちで、だけど、常々それだけじゃないと思っていて。生活者理解をベースに創造性を刺激する機会も、もっと提供したい。MIMIGURIさんと一緒に「デ・サインリサーチ」や「Re-Frame」などの取り組みができていることは本当にありがたいと思っています。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

鮎澤このような対談に私も参加させていただき、ありがとうございました。更に新たな合同開発の取り組みも始まっていますし、今後の展開も楽しみです。引き続き、よろしくお願いいたします。

小田よろしくお願いいたします。ありがとうございました。

安斎ありがとうございました。


本座談会について、翔泳社様が運営するマーケター向け専門メディア『MarkeZine』でも、記事が公開予定です。本記事とは異なる角度から、これからの時代に求められるリサーチャーやマーケターのあり方について語っています。ぜひご覧ください。

https://markezine.jp/article/detail/36390

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  • Writer

    水波洸