“関係性の分岐点”にコミットし、共生しやすい組織を対話的につくり出す(メンバーインタビュー・和泉裕之)

  • 和泉裕之

    HR

  • 日本赤十字看護大学卒業。在学時より対話やワークショップに関心を持ち、看護師・保健師の国家資格取得後、フリーランスのファシリテーターとして独立。医療職対象の対話型ワークショップを病院や薬局などで多数実践後、株式会社ミミクリデザインの立ち上げに参画。コンサルティング事業部のマネージャーとして、少人数~数万人規模の組織開発・人材開発プロジェクトに従事。現在は株式会社MIMIGURIの組織人事として、社内放送局「MIMIGURI ch」の総合プロデューサーを担当。

本インタビュー企画では、ミミクリデザインのメンバーが持つ専門性やルーツに迫っていくとともに、弊社のコーポレートメッセージである「創造性の土壌を耕す」と普段の業務の結びつきについて、深掘りしていきます。第二回はミミクリデザインのダイアローグデザイナーとして、主に組織開発・人材育成の領域のクライアント案件を担当する和泉裕之( @wawawa_izumi )です。今回のインタビューでは、和泉が関心を寄せる“日常における関係性をいかに対話によって前進させられるか?”といったポイントについて、その背景の思いから最新の事例までをお伺いしています。ぜひご覧ください。(聞き手:水波洸)

“弟子入り”と“無茶振り”からスタートしたワークショップ・キャリア

よろしくお願いします。まずは現在ミミクリデザインで担当している主な業務について、ざっくりと教えてください。

和泉よろしくお願いします。ミミクリデザインでは主に組織開発や人材育成に関するクライアント案件を担当しておりまして、対話を用いたワークショップを通じて、組織のミッションやビジョン、行動指針のデザインや浸透あるいは企業内のファシリテーター育成を目的とした業務に中心的に取り組んでいます。また、ミミクリデザイン内部の組織開発や人材マネジメントも行なっていますね。

そもそもどのような経緯でミミクリデザインにジョインすることとなったのでしょうか?

和泉まずミミクリデザイン代表の安斎さんとは、2013年に大学生向けワークショップデザイン勉強会『 FLEDGE *』を通して知り合いました。そのプログラムを終えた後、ワークショップをもっと突き詰めたいと思って、ほとんど押しかけるようなかたちで安斎さんに弟子入りしました。

*『FLEDGE』とは
安斎が講師を務める大学生向けのワークショップデザイン勉強会。NPO法人Educe Technologiesの社会貢献事業として、これからの社会で求められる学びと創造の場作りの担い手の育成をミッションとしている。

弟子入り。

和泉直感的に「安斎さんはまだ若いけど、将来的には業界の第一人者になる人だ!」と思ったんですよね。だから、「掃除係でもなんでもやるから、弟子として安斎さんのワークショップの場に居させてください」って言って。弟子入り自体は断られたんですけど、それ以降様々な実践の機会にアシスタントとして呼んでもらえるようになって、いろんなところで勝手に弟子だって言い張ってました(笑)

なるほど(笑)自称・弟子となってから、印象的だった出来事はありますか?

和泉弟子にしてくれと頼み込んだ直後の出来事ですが、安斎さんから、都内のある区の地域活性化に関するワークショップに誘われたことがあったんですよね。それで、見学のつもりで参加しました。そしたらメインワークの途中で、「和泉くん」と呼ばれて、何かと思ったら、「この後に振り返りのワークの時間があるんだけど、活動も決まってないし、スライドもないんだよね。任せるからやってくれない?」って無茶振りされたんですよ。「おいまじかよ」と思いながらなんとかこなしましたが、思えばあれが人生初のクライアント案件でした。あとから聞いた話だと、ちゃんとプログラムも用意していたと言っていましたが...(笑)。それからも安斎さんの案件にも関わらせてもらいつつ、大学を卒業し、そのまま4年間フリーランスのワークショップデザイナーとして活動していました。その後安斎さんがミミクリデザインを創業されて、ファシリテーターとして誘って頂いたので参画した...という流れですね。

看護実習から芽生えた、人と人との関係性に寄り添いたいという思い

ミミクリデザインでは、“対話”を用いたワークショップによる組織開発や人材育成の案件を数多く担当されていますよね。その背後にある想いについて、ざっくばらんに聞かせてください。

和泉「人と人の関係性において重要なターニングポイントになるような場に関わりたい」という思いはずっとあります。例えば、こじれたチーム内の関係性の修復や、スタッフが愛着や納得感を持てるビジョンやクレド(行動指針)の策定など、人と人がともにより良く生きていこうとした時に避けては通れない重要な課題について話し合う場のファシリテーションに取り組みたいと、常々思っています。

なるほど。そのような思いを抱くに至ったきっかけとなるようなエピソードは何かありますか?

和泉もともと看護大学に通っていたのですが、3年生の時の実習の経験が、仕事として人同士の関係性に寄り添いたいと強く思うようになった直接のきっかけでした。実習で精神科の施設に入院している、精神病を患った高齢の男性の担当になったのですが、彼には妄想癖があって、自分を民族の母・天照大神と常に交信している存在だと思い込んでいたんですよね。もうすでに長いこと入院していて、家族が見舞いに来ることもなく、死ぬまでそこで過ごすだろうとある程度決まっていました。僕はその方の心情に寄り添いたくて、2週間の実習中いくつも質問を重ねたのですが、ほとんど妄想混じりに受け流されてしまっていて、そうこうしているうちに実習終了まで残り30分となっていました。僕はおじいさんと、最後の挨拶と当たり障りのない会話をして、それから少しの沈黙があって、ずっと訊いてみたいと思っていた「(名前)さんは、寂しくないんですか?」という問いを投げてみたんです。そしたら、「もうしょうがないんだよね」というようなことを言っていて。そのシーンはすごく覚えているんですよ。窓際で、夕焼けがすごい綺麗で。そのおじいさんは、少なくともその瞬間だけは、もう誰も見舞いに来ない今の自分の状況をちゃんと理解していました。

和泉自分たちは実習が終われば日常に戻ります。でも、ずっと病院という場所で一生を過ごす人たちがいると知って、その人たちと仕事を通してどう関わっていきたいだろうかと考えました。看護師はそういった人たちの健康を守ったり、豊かな生活を送れるように支援したりと、その人の生き死にとじかに関わる尊い職業です。だけど、自分が関わりたい領分を考えた時に、僕自身は、その人の身体的な健康ではなく、その人と近しい人たちとの“関係性の健康”と関わりたいと思ったんですよね。患者さんと家族がどうやったら和解できるかとか、今後一緒に生きていくためにはどうすればいいのかとか、そういった問題について対話できる場を作りたい。今は領域に関わらず様々な仕事をしていますが、根本的には、人と人がともに生きていく上で、お互いの関係性がさらに発展するか、あるいは重大な亀裂が入って一生会わなくなってしまうのか、まさしく岐路となるような対話の場に立ち会いたいと思うようになった。そういう意味で、僕にとって大きな転機となりました。

ありがとうございます。ミミクリデザインで取り組んだ事例のうち、印象に残っているものはありますか?

和泉京都府で福祉施設を運営しているみねやま福祉会とのお仕事が特に印象的でしたね。担当の方から、組織の内部にファシリテーターを育成したいといった趣旨でお話を頂いて、半年間で全3回のワークショップを実施しました。具体的には、経営陣に現場の声が届いてこないという課題に対して、中間にいるマネージャーの人たちがファシリテーション能力を身につけて、現場とうまくコミュニケーションを取りながら、出てきた意見や考え方をまとめて、経営陣に伝えられる能力を養ってほしい、という人材育成の案件です。10名強の参加者は、いざ集まってみると意外と年齢が幅広くて、20代の若手もいれば、40代くらいでリーダーを務めるベテランの方々もいました。そして、ベテランの方々の中にはワークショップの場を設けること自体に懐疑的な人もいました。自分たちはすごく忙しいし、こんなことをやって何が変わるのか、と。そうした声に対して担当の方は、きっと迷いや葛藤もあったかと思いますが、組織にとってこういう場は必要だからと強く言ってくださって、心強かったですね。

和泉第1回と第2回のワークショップは、ファシリテーションのマインドとスキルを体得する内容だったのですが、最後の第3回では、そうした担当の方の想いとベテランの方々の声を真摯に受け止めて結びつけるかたちで、「なぜファシリテーションの能力を身につけるのか?」というそもそもの部分を改めて問い直すところからはじめました。というのも、たとえファシリテーションという武器を与えても、なぜそのファシリテーションを使うのかという点に納得感がないと、結局使いこなせないんですよね。そこで、「どんな組織を作っていきたいと思っているのか」や、「どういうリーダーになっていきたいのか」といった問いを立てて、それらのゴールに向けてファシリテーションをどう使っていくべきなのか、じっくり話し合いました。最後にはプロジェクト全体を振り返る時間を設けて、円座になって一人ひとり感想を話して頂いたのですが、ベテランの方々からも、「自分を見つめ直す機会になったし、やってよかった」や「今まで受けてきた研修の中で一番面白かった」と言って頂きました。担当の方も、プロジェクトに込めてきた思いを感極まって泣きながらお話しされていて、全力でやりきって良かったと思えた案件でした。きっと内部のメンバーだけであの場を作ろうとしても難しかったでしょうし、一回だけでも、あれほど深い対話にはたどり着けなかったと思います。組織として長く走り続けていけば、自然と溜まった膿が吐き出されるようなフェーズや、その結果として時には亀裂が生まれる時もありますよね。そうした瞬間に寄り添いながら、本音で話せる場を設けることの面白さや重要性に気づかされた経験でした。やはり個人的には、楽しいイベントとして開催される学びや交流のための対話の場よりも、どこかにドロっとした感情や人間臭い危うさを抱えているような、ともに生きていくための対話の場に関わることが好きなんだと思います。

大切な人との関係性を耕していくことで、組織の創造性を支援する

組織開発・人材育成の案件に取り組む中で、こだわっているポイントがあれば聞かせてください。

和泉こちらで完成したものを提供するのではなく、クライアントと一緒に成果を生み出していく意識を大切にしています。全力で対話をするというのは、本来的に勇気のいる行動です。それでも、勇気を出して言葉にすることで、「そこは共感できるけど、この部分の意味はちょっと違和感がある」というふうに、意見を擦り合わせながら前向きに話を進めていくことができます。なので、事前の打ち合わせの際も、当日のワークショップの最中も、我々もベストを尽くすことをもちろん伝えつつ、「一人ひとりが当事者意識を持って、みんなで場を作っていく意識を持って取り組まなければ、良い成果は生まれませんよ」と、必ずくり返し伝えるようにしています。

その姿勢はミミクリデザインのコーポレートメッセージ、「創造性の土壌を耕す」にも共通する話のように思えます。

和泉そうですね。ある組織にとってコアとなる理念が、その組織に属する人たち自身の手によって作られようとする時、その営みには高い創造性が求められます。そしてその営みを着実に進めていくためには、一人ひとりが本当に思っていることや大切にしていることをしっかりと認識して、その次に、その個人的な思いと組織はどこがシンクロしていて、自分が寄与したいと思えるポイントがどこにあるのか、理解を深めていく...というプロセスが重要となります。ですが、そのプロセスを一人だけで行なうのは無理があって、組織内の大切な人たちとの対話や、その結果育まれる関係性による支援が必要不可欠です。そういう意味で、「創造性の土壌を耕す」という言葉を、組織開発の文脈で言い換えるとすれば、「大切な人との関係性を耕していく」ことなのではないか、と個人的には思っています。それはクライアントと向き合う時も、自分たちミミクリデザインという組織と向き合う時も、同じですね。

なるほど。冒頭でお話されていたように、和泉さんはミミクリデザインの組織づくりについても取り組まれていますよね。和泉さんの視点から見て、現在のミミクリデザインはどのような組織だと考えていますか?

和泉泥臭いチームだと思っています。ミミクリデザインは、一見すると洗練された、なんでもできる人が多い組織だと思われがちなのですが、実際には能力的な凸凹の差が激しいメンバーが多いんです。だけど、その中でもできる限りメンバー同士の良い部分を活かし、弱点を補い合おうとする向きが、ミミクリデザイン独自の風土としてあると思っています。摩擦が起きることも当然あるのですが、そのたびに辛抱強く対話して、試行錯誤しながら前に進んでいくプロセスを大事にしています。それらのプロセスを日々繰り返してるという意味で、かなり地道にやってると感じますね。

和泉あとは、僕自身もそうですが、リアルな現場を経験しながら学ぶサイクルを回していくことを得意とする人たちだと感じています。だからこそ、3ヶ月・半年・1年...というスパンごとに振り返ってみると、個人が見てる世界や組織のあり方がガラッと変わるし、頼もしく見えますね。そうした良い意味で変化の激しいところは、個人的にミミクリデザインの良いところであり、今後も無くしたくないポイントでもあります。変わり続けていくという部分を今後も大切にしたいですね。

ありがとうございます。...それ締めの言葉で大丈夫ですか?

和泉え、良いセリフ言った方がいいの?「私にとってワークショップとは」みたいな?(笑)

何かあれば、どうぞ(笑)

和泉いや、いーよ!終わろう!(笑)

ありがとうございました!

  • Writer

    水波洸

  • Photographer

    猫田耳子