フォントは企業の人格を表現する「声」。katakata brandingが目指す、オーダーメイドフォントの新たな未来。

  • 今市達也

    タイポグラフィックデザイナー

  • 東京造形大学造形学部デザイン学科グラフィックデザイン専攻領域卒業。新卒で株式会社DONGURIに入社。タイポグラフィを軸としたCIやグラフィックデザインを制作。主な受賞歴:日本タイポグラフィ年鑑2020入選/日本タイポグラフィ年鑑2019入選/日本タイポグラフィ年鑑2018入選/日本タイポグラフィ年鑑2017入選/信州デザインコンペ2016入選など。

2020年5月4日、厚生労働省から感染症対策のための新たな生活様式が発表され、個人の働き方や組織のあり方にも、変化のタイミングが訪れています。

この新たな環境へ適応するにあたり、企業の中長期的な計画の見直しなどを行う必要性が高まってきました。企業の求心力を高めるCI(コーポレート・アイデンティティ)もまた、ますます重要性を増してきています。

これまで多くの企業でCI開発を行ってきたDONGURIは、企業が持つCIをより豊かに表現するため、オーダーメイドでコーポレートフォントの制作を行う新サービス「katakata branding」を開始しました。

katakata brandingは、コーポレートフォントの制作はもちろん、CI開発から社内浸透のためのワークショップまで、すべてオーダーメイドで提供されることが特徴のサービスです。

本記事では、katakata brandingの中心を担う、DONGURIのタイポグラフィックデザイナー 今市達也にインタビュー。

内発的動機からボトムアップで生まれたというこのサービスには、文字の可能性を信じる強い思いが込められていました。

企業が持つアイデンティティを、唯一無二の声色で表現する。

2020年5月、オーダーメイドのコーポレートフォント制作サービスが新しくスタートしました。「katakata branding」というサービス名はどのような由来から来ているのでしょうか。

今市「見た人が試し打ちをしたくなるようなものを作りたい」という考えが根本にあり、デジタルフォントを打つときのタイピングの音に由来しています。デジタルフォントが生まれるまでの歴史を遡ると、もともと文字組みは専門職だけが扱うものでした。かつては「組版工」という、金属でできた判子のような活字を並べてインクで刷る専門職であり、その後「写真植字機」という写真の原理で文字を組むようになりましたが、いずれの時代も一般の人が文字を組むことはあまり無かったんです。2000年代にPCが普及したことで、誰もが文字を打てるようになりました。「タイピング」の行為自体はタイプライターなどで以前からあったものの、デジタルフォントによって「文字を組む楽しさ」が広く一般に開放された、とも言えると思います。そのデジタルフォントの起源を考えても、誰もが打てるタイピング音というのはモチーフとして魅力だと思いますし、制作者として体現していきたいものでもあるので、名前として選んだ次第です。起源的にも魅力あるデジタルフォントの存在を、もっと一般の方やデザイナーの方に親しんでもらいたいと思い、楽しげな印象の名付けにしました。

DONGURIではこれまでにも、企業のCIに関するタイポグラフィの実績を数多く手がけてきていますよね。今回、改めて事業として新しく立ち上げられた経緯はどのようなものだったのでしょうか。

今市もともとは個人で、自主制作したフォントをいずれ世の中に出していきたいと思っていたんです。なので、いつかECでタイプファンダリーを作れたらいいなとは考えて、細々と準備を進めていました。

今市そんなことを去年くらいから社内でも話していたんですが、ちょうど今年の2月くらいに、上長である五味からフォント事業をやらないかとお声がけをいただいて、背中を押してもらう形で「katakata branding」を始めることになりました。ゆくゆくは、ファンダリーとして制作したフォントも販売していければと考えています。僕が所属するDONGURIのFURNACEコミュニティは職人性の強いメンバーが集まっていて、個性を発揮した表現方法を認めてくれる環境です。自分自身は文字に関することがやりたく、DONGURIは得意とするCIをさらに強めたいという、ちょうど両方の目指すものが合致したという流れでした。

katakata brandingでは、フォントが持つ“声”のことを「ボイスアイデンティティ」と表現されていますね。

今市以前にDONGURIのCIインタビューで少しお話しましたが、僕自身がフォントを制作するとき、その文字を読み上げるナレーターの人格を設定しています。例えば、DONGURIのコーポレートフォントとして制作した「CLOONEY」は、映画『ゼロ・グラビティ』のジョージ・クルーニーに着想を得ています。これは制作する側のエピソードですが、使用するフォントを選ぶ利用者側の方が、よりその“声”を意識する傾向は強いのでは思います。例えば、綴る文章をゴシック体にするのか明朝体にするのかで、印象が変わってきますよね。文章を読むときに聞こえる“声”が人によって異なるように、フォントが読み上げられる声色もまた、それぞれの個性があると考えています。

言葉と“声”は、確かに背中合わせな関係ですね。

今市フォントは不思議なもので、似た書体を一文字ずつ並べた比較では違いがわかりづらいこともあるのですが、意味を成す言葉として組まれると、途端にそれぞれの声色で喋り出すんです。その個性を、僕たちは「ボイスアイデンティティ」として捉えています。全ての媒体が同じナレーターでは、差別化のつかない似通ったものになりかねません。企業の人格において、フォントとは「声」に当たるものだと僕たちは考えています。渋くて信頼感のある声なのか、澄んでいて安心する声なのか、あるいは元気でかわいらしい声なのか。誰一人として同じ声を持つ人がいないように、企業のアイデンティティもまた、唯一無二の声色で表現することができます。「katakata branding」では、その声色の違いと魅力、そしてブランドにもたらす効果を多くの方に知ってほしいと思います。

フォントひとつ変わるだけで、もたらす印象が大きく変わる。

katakata brandingのWebサイトでも、様々な字形が表情豊かなモーションとデザインで表現されていますよね。このWebサイトは、どのようなコンセプトで制作されたのでしょうか。

今市Webサイトは、同じFURNACEコミュニティの永井と制作しました。全体のトーンやファーストビューについては2人でアイディアを出し合いながら作っていきましたね。ビジュアルで表示される文字は、今回のために一つひとつ違う書体をオリジナルで作りおろしています。

ビジュアルの書体、このための作りおろしだったんですね!

今市オーダーメイドでフォントを制作するサービスなので、フォントひとつ変えることで与える印象がどれだけ変わるか、ということを伝えたかったんです。文字で彩られる世界観を表現できればと思い、モーションでの演出を加え、カラーリングも文字ごとに変えています。

今市さんが制作されたDONGURIのコーポレートフォントも、Webサイトや名刺など各種ツールに使用され、CIの統一した世界観を表現していますよね。

今市昨年制作したコーポレートフォント「CLOONEY」はリリース後、ありがたいことにたくさんの方々から温かいお褒めの言葉をいただき、より本格的にフォント制作に打ち込んでいきたいと思うきっかけにもなりました。

今市これまで「文字が好き」という一心で、タイポグラフィの歴史や作字の考え方や技術などについて、和文欧文を問わず、がむしゃらに学んできました。「CLOONEY」はもとより、その他の受託のCI案件でも何度かフォント提案を行わせていただき、クライアントの皆様から好評をいただけたことは本当にありがたく、自分の作る文字が誰かの役に立てるんだと嬉しい実感を覚えましたね。

これまで提案されたコーポレート用のロゴタイプには、どのようなものがあるのでしょうか。

今市2つ挙げさせていただきますと、1つ目は株式会社ベンチマーク様のCIデザイン、2つ目はモビリティIoTサービスのCariotのロゴデザインですね。ベンチマーク様は配達によるソリューションを提供する地域密着型ベンチャーで、地域になくてはならない存在を目指す千葉県の企業です。この案件では、企業としての信頼感を伝えるために、幾何学的な線をモチーフとして取り入れたロゴタイプをデザインしました。

今市定規で引いた線のように幾何学的なものって、「きちんと計算されて設計されている」という信頼感が出るのではないかと考えたんです。言うならば、フリーハンドで引いた線と、定規で引いた線の印象の違いのような。そのニュアンスを感じるタイプにしたいなと思い、既存書体をベースにしながらも、Cを正円に近い形にしたり、Aの形もあえて幾何学的に作っています。同時に、運ぶのはあくまでも人であり、社員や地域の人々を思う気持ちが強い企業でしたので、人間らしい温かみを残したいなとも考え、BやRの曲線は少し有機的に隙を作るようなニュアンスにし、無機的になりすぎないバランスを目指しています。

確かに、幾何学的でありながら温かみを感じます。ハチドリのシンボルマークも印象的ですね。

今市ハチドリは、物を運ぶ象徴としてシンボルに採用しました。南米エクアドルに伝わる逸話に、ハチドリが水を運んで山火事を消化したというエピソードがあるんです。地域の暮らしの課題を配達で解決する「デリバリーソリューションカンパニー」を目指す同社の理念を、遠くまで懸命に飛び回るハチドリをモチーフとして表現しています。

モビリティIoTサービス「Cariot」のロゴについてはどのように制作されたのでしょうか。

今市Cariotとは、株式会社フレクト様が運営されている車両の移動に関する業務最適化を支援するIoTサービスです。「Car」と「iot」で「キャリオット」と読むサービスなのですが、事業拡大のタイミングでロゴをリニューアルするというプロジェクトでした。こちらの企業様も人柄が魅力的で、コミュニケーションをすごく大事にされているのが印象的だったんです。IoTだからといって堅いイメージのサービスではなかったので、テクノロジーによる高い信頼性が感じられながらも、少しでも人間味のある、やさしい印象を出したいなと考えました。

今市iやr、tをなで肩の字形にすることで、そのやさしさが感じられるように作字しています。特にiは、人が左側を向いて車に座っているような印象を与えられればと考えました。aとoで車が2個並んでいるようなニュアンスを出せれば、とも意識して制作しています。

iの字には、ピクトグラム的な印象も抱きました。カスタムデザインされた字形であることで、受ける印象が全く違いますね。

今市具体的に自動車や人の姿を描写しなくとも、イメージを抱かせるだけで、雰囲気がグッと変わるのが文字の面白いところです。ロゴマークは特に企業を印象付けるものでもあるので、理念や想いを表現するタイポグラフィを目指したいと考えています。ロゴマーク以外でも、Webサイトや名刺やネームプレートを専用のコーポレートフォントでデザインすることで、企業が持つ“声”、「ボイスアイデンティティ」の表現がますます豊かになります。

今市例えば接客業の方で、自分の名前が勤め先のコーポレートフォントでネームプレートに印字されていたら、「自分ごと化」して会社への愛着が湧いたり、帰属意識にも影響すると思うんです。お客様とのコミュニケーションのきっかけになるかもしれませんし、そういうフックになれたら、という思いもあります。

フォント業界が今以上に活性化するための、きっかけを作りたい。

コーポレートフォントの名刺やネームプレート、すごく素敵ですね! ロゴはもちろんですが、実際に使われるツールにも同じコーポレートフォントが用いられていると、「どの角度から見ても同じ」という同一性の印象が強まって、企業のアイデンティティをますます確かなものに感じられそうです。

今市僕たちDONGURIと、横断経営をしているミミクリデザインが掲げる「クリエイティブ・カルティベーション・モデル」でもそうですが、CI は社内で重ねた一人ひとりの対話からアップデートされていくものであることが理想です。コーポレートフォントも同じように、社内の一人ひとりが実際に使用し、浸透していくものであることが理想であると考えています。そういった意味でも、katakata brandingではロゴのデザインだけではなく、その前段階のCI開発や、制作したコーポレートフォントを使用した様々なツールのデザイン、さらにはCIの浸透を進めるためのワークショップまですべて一貫してご提供しているんです。

CIに強みを持つDONGURIと、ワークショップに強みを持つミミクリデザインならではのコラボレーションですね。最後に、katakata brandingを通して今市さんが実現していきたいことについてお聞かせください。

今市先ほどお話ししたとおり、デジタルフォントが普及してから約20年の月日が経ちました。2000年代初期と比べると、今では日々多くの書体が発表され、僕たちデザイナーや文字の読み手は、その恩恵に与っている状態です。“インフラ”としては整ったとも言える昨今ですが、グラフィックデザインやテクノロジーの進化が止まらない限り、フォントの可能性もまだまだ無限に広がっていると考えています。たくさんの優れた既存書体がある時代なので、その中から適したフォントを選び出すことも正解の一つでありますが、要件に合わせて作りおろす独自の「カスタムフォント」を選ぶのも、新たな表現の可能性を開拓していける面白い選択肢であると考えています。katakata brandingが抱く使命は、クライアントの課題を解決するために新しいフォントを作ることですが、同時に、フォントに興味を抱く人をさらに増やしていくことでもあると思います。そうすればフォント業界は今以上に注目され、さらに新しく良質なものを生み出すための体力になるからです。フォント業界は本当に魅力的で、とても楽しい業界です。僕も一制作者として、katakata brandingの取り組みを通して、業界がより楽しく活性化していくきっかけを作っていけたらと考えています。


katakata brandingが生まれるまでの道筋には、「好き」の情熱を一心に傾け続けた誠実な歩みと、文字にまつわる歴史を築いた数々の先人への、心からの敬意が込められていました。

これからkatakata brandingが生み出す新たな“声”から、目が離せません。

  • Writer

    田口友紀子