「デザインの力で、医療を前進させたい」医療ITメガベンチャー「エムスリー」古結氏がDONGURIの支援で進める、デザイン組織の変革。
ミナベトモミ
Co-CEO
早稲田大学第一文学部 ロシア語ロシア文化専修卒。広告ディレクター&デザイナー、家電メーカーPM&GUIデザイナーを経て、デザインファーム株式会社DONGURIを創業。その後に株式会社ミミクリデザインと経営統合し、株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEOに就任。デザインキャリアを土台にしながら、組織/経営コンサルティング領域を専門とし、主にTech系メガ/ミドルベンチャーの構造設計・制度開発を手がける。特に人数規模500名超えのフェーズにおける、経営執行分離・マトリックス型の構造設計と、それらを駆動させるHR制度運用を用いた、経営アジリティを高める方法論が得意。
デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する「デザイン経営」。2018年5月に経済産業省と特許庁により「デザイン経営」宣言がされて以降、様々な企業がその実践に取り組んでいます。DONGURIもまた、事業や組織をより楽しい場へ変えるため、様々な企業のデザイン組織作りを支援してきました。
今回は、デザイン組織の改革を進めるエムスリー株式会社の古結隆介氏(こげつりゅうすけ、以下こげつ。前職は株式会社ビズリーチ)にインタビュー。こげつ氏の前職から、共にデザイン組織作りの支援をしてきたDONGURI CEOのミナベトモミが、気になることをあれこれ聞いてみました。
医師と医療従事者向けに医療情報を提供する専門サイト「m3.com」の運営など、医療ITサービスの先駆者として様々な事業を展開するエムスリー。
日本最大のメガベンチャーとして目覚ましい発展をし続けるエムスリーが、なぜ今、デザイン組織の変革に挑戦するのでしょうか。
こげつ氏がこれまでに歩んだ道のりと、今まさに始まりつつある、エムスリーのデザイン組織の変革の展望をお話しいただきました。
デザイナーになってから、デザイン組織を作るマネージャーになるまで。
ミナベこげつさんは現在、エムスリーではデザイングループのグループリーダー、プロダクトデザイナーとしてもご活躍されていて、今まさにデザイン組織の改革に取り組まれようとされていますよね。こげつさんとは既にたくさんお仕事をご一緒していますけど、現在に至るまでに、どんな道のりを歩まれてきたんでしょうか?
こげつまずデザイナーになった経緯からお話しすると、僕はもともと大学では映像学科で、フィルム映画を作ってたんです。
ミナベえっ、フィルム映画ですか!
こげつそうなんです。フィルムを切ってセロハンテープで貼ってのアナログ作業(笑)。大学の途中でPCで映像が作れるっていうのを知ってからは、フィルム以外でも作るようになったんですけど。それでなんとなく、映像とかデザインの仕事をするんだろうなと思ってて。芸大生あるあるだと思うんですけど、積極的に就活しないんですよ。で、卒業してからどうしよう、と。ラジオ局の仕事を見つけて、番組や映像制作、営業同行したり色々な仕事していくうちに、「伝えたいことが伝わるのなら映像でなくてもいいな」と思い始めて。もっと企画段階から思考して、課題解決できるデザイナーになりたいなと思うようになっていったんです。
こげつそうして転職活動をしていったんですが、エムスリーを受けた時に初めて、いわゆる戦略コンサル畑の人たちに出会ったんですよ。それがすごく衝撃的だったんですね。
ミナベどんなところに衝撃を受けたんですか?
こげつ思考の論理性でしょうか。課題をホワイトボード上で分解していくやり方に驚いたんです。課題を捉える上で必須のアプローチではあるものの、当時の自分にとってはそれが衝撃的で。芸術系の人間だったこともあり、そういうロジカルなやり方があると知らなかったんですね。この人たちと一緒に仕事ができたらすごく学べそうだなと思ったのが、エムスリーに入社を決めた理由でした。入社してからは、プロジェクトマネジメント(PM)やディレクターを兼務するデザイナーという形で、色々なプロジェクトを担当していきました。今で言うところのスクラム開発のように、1週間単位でスプリントを回して開発していましたね。大きな転機となったのは、開業医向けのクラウド電子カルテ「エムスリーデジカル」のプロジェクトでした。そのときのプロダクトマネージャー(PdM)が現エムスリー執行役員である山崎で、山崎と一緒に仕事をする中で、プロダクトドリブンで考えるリーン開発のアプローチを体験したんです。
こげつ「エムスリーデジカル」の開発においては、エムスリーが運営する医療情報専門サイト「m3.com」経由で開業医にコンタクトを取り、彼らの業務を徹底的に観察することで、リーン開発を実践していったんですね。そのときにリーン開発やデザイン思考の面白さを知って、リリースが落ち着いた頃に株式会社ビズリーチ CDOの田中裕一さんと出会ったんです。デザイン思考のアプローチで事業作りや課題解決、価値創造を実現するビズリーチが、まさにデザイン組織を実現しようとしているという時期だったので、そのフェーズに関われるのはすごく面白いなと思って。デザイン思考を浸透させていく、組織作りのプロセスに挑戦してみたくなって、転職を決めたんです。
ミナベビズリーチさん、数年でデザイン組織として凄まじく伸びてましたもんね。
こげつ僕が担っていたのはプロモーションとか広告を統括して管理する「デザインマネージャー」としての役割と、「デザイナー人事企画」の2つの役割でした。ミナベさんとお仕事をしたのは、デザイン人事などの戦略部門でしたよね。
ミナベビズリーチさんはHRサービスが強い企業というのもあって、人材育成とか採用だったり、内部の人材HRがすごくしっかりされていましたよね。
こげつそうですね。僕自身、すごくやりがいを感じてました。ビズリーチで担当させてもらった仕組み作りや組織作りの経験を経て、視座が高まったような気がします。当然ながら、組織を作ることも、うまく加速させていくことも決して簡単なことではないですからね。その難しさとやりがいに夢中になっていた2年半だったなと思います。
ミナベ組織作りは特に、実際にやってみないとわからないことが多いんですよね。経験したことが自分自身にインストールされて、血肉になっていく。
こげつあくまでも当事者の意識を持ってプロジェクトに関わっているものの、実際に変革を目の当たりにすると驚くんですよね。他人事に思っているというわけではなく、肌身で感じることの違いというか。改めて、すごくいい経験をさせていただいたなと思います。
ミナベこげつさんはその後、2020年4月にエムスリーに戻ってこられて。組織作りの経験を積んだこげつさんと「デザイン組織を変革したい」エムスリーがちょうど噛み合った形なんだろうなと思います。
こげつオファーをもらった当初、まだビズリーチでやりたいこともあったので、即決はできずにしばらく悩んでいたんです。でも、エムスリーの経営層がデザインとエンジニアリングの重要性を認識しているからこそ、デザイン組織の改革が切実な課題になっているのだろうなというのが、その時すごく伝わってきていて。
ミナベちょうどその時エムスリーは、エムスリーデジカルを創業した山崎聡さんが2017年12月からVPoE(Vice President of Engineering)に就任されてエンジニア組織を変革して、2年で50名近いエンジニアの採用に成功したっていうときですもんね。いよいよデザイン組織の変革を、というフェーズだったんですよね。あと、僕思ってたんですけど、こげつさんってゼロイチで何かをスタートする時、すごく楽しそうに生き生きしてますよね。
こげつそうなんですよ。それもあって、エムスリーでデザイン組織を変革するっていう、大きな課題にチャレンジするのもいいなあって思うようになったんです。20代の頃はデザイナーとして必死でやれることをやって、30代になってからは組織作りのことも学んでいって。こういう大きな課題にチャレンジできるようになっているんだと思うと、社会人になってから15年が経つ今、これまで積み上げた経験すべてが、振り返ると無駄じゃなかったなと。
ミナベクラフトするデザイナーから考えるデザイナーになって、人材に関わるマネージャーになって、デザイン組織を作るようになっていって。こげつさんの歩んだキャリアは、ストーリー的にきれいだなあと思うんですよね。
こげつどんな仕事もそうであるように、泥臭くやってきたところもありますけどね。振り返ると、良い経験ばかりさせていただいているなと思いますし、本当にありがたいことだなと思います。
「医療界の怪物、エムスリー」が、なぜ今デザイン組織の変革に挑むのか。
ミナベデザイン経営とかデザイン組織については、今はトレンドも収まって、もはや当たり前に企業が力を入れるものにもなってきていますよね。メガベンチャーやミドルベンチャー、スタートアップ各社が取り組まれていて、成果を上げ始めていて。僕が思ってたのは、エムスリーってメガベンチャーの中で最大じゃないですか。時価総額はもう3兆円を超えてて(※記事公開時点)。そのエムスリーがデザイン組織の変革に取り組むというのは、「最後の巨人が重い腰をあげた」みたいな感じだと思うんですよ。日本の医師の8割以上がエムスリーのサービスを活用していて、2017年にはForbesの「最も革新的な成長企業ランキング」で世界5位、日本企業ではトップにランクインして。それなのに、社名があまり一般に知られていない、というのがエムスリーさんのすごいところだと思うんですよね。
こげつ事業としては、顧客以外へのプロモーションが特に必要ないままここまで来た、っていうのがあるんですよね。
ミナベでも通常は、スタートアップとかベンチャーが最初に必要になるアクションって、まずプロモーションとかマーケティングのはずなんですよ。2000年に創業されて、それすら必要とせず伸びてきた事業があるっていうのは、なんていうか“怪物”ですよね。エムスリーの現状は、既にうまく行っている事業をさらに伸ばすために、本腰を入れてデザイン組織化しようって言うステータスじゃないですか。組織デザインを専門として、いろいろなまなざしを持って組織を見てきた僕としては正直、感無量なんです。組織作りのご経験を積んだこげつさんがそこに改めてジョインするって言うのは、できすぎた「シンデレラストーリー」だなって思うくらいなんですよ。
こげつエムスリーのデザイン組織を変革するっていう話になったとき、パッと最初に思いついたのが、ミナベさんだったんですよ。あの時、話を聞いてどう思われたんですか?
ミナベ第一所感としては、やっぱり嬉しかったです。と言うのも、組織コンサルティングって「評判商売」みたいなところがあるんですよ。信頼を築いた人のつながりでお仕事させていただいているので、デザイナーと違って、アウトプットで有名になることができないんですね。だから「もしかしたら成果を出せてたのかもしれないな」って。ありがたく光栄に思うと同時に、「医療界の怪物、エムスリーがいよいよ」という、組織デザインの専門家として感無量、の両方がある感じでしたね。
こげつ僕、正直言ってミナベさんがエムスリーをご存知だったことに驚いたんですよ。これはミナベさんにご相談した背景でもあるんですが、エムスリーってとにかくデザイン業界で認知されていなくて。本当に、ミナベさんが知ってることすら疑ってしまうくらいなんです(笑)。デザイン組織の変革に向けた課題はたくさんあるんですけど、まず知ってもらうことが大事だよねと。今エムスリーにいるデザイナーは約10名なんですけど、知られていないから、そもそもデザイナーの方からの応募がほとんどない状況なんです。
ミナベ本当にもったいないですよね。シニアなビジネスパーソンからしたら、エムスリーって「是が非でも入りたい」企業なんです。でもデザイナーという職種においては、PRとしてコミュニケーションがなかったので知られてないんですよね。
こげつ先ほどミナベさんが僕の歩みをシンデレラストーリーって言ってくださいましたけど、むしろ「シンデレラストーリーにしないといけない」と思ってるくらいなんです。日本を代表するようなデザイン組織を築き上げたビズリーチからエムスリーに行くっていうのは、デザイナーから見ると、「知らない企業だけど、そこに行って大丈夫?」って、疑問を抱く方もいると思うんですよ。だからこそ、ただ単に認知を広げるだけじゃなくて、エムスリーが持つ本質的な価値を知って欲しいなって思うんです。
ミナベ実は僕、エムスリーさんと一緒にお仕事させていただくようになってから、イメージと違って驚いたことが2つあるんです。1つ目は組織文化で、2つ目が事業作りに対する感覚。組織文化については、「医療×コンサル」という事業なので、クラシカルな感じだと思ってたんですよ。端的に言うと「めちゃくちゃ詰められる」みたいな(笑)、そういうイメージを勝手に抱いてました。上程しても通りにくいというか、組織的にやや頭でっかちな、鈍重な感じなのでは、って勝手に思ってたんですよね。でも一緒に働いてみたらそれが全然違くて、メガベンチャーなのにスタートアップベンチャーのスタンスなんですよね。だから凛儀がめちゃくちゃ早い(笑)。組織階層的にも、経営層までの間にある階層が少なくて、一瞬で決裁まで行く。基本的に、皆さんがすごく協力的なスタンスなんですよね。「詰めて議論をストップさせる」みたいな人はいなくて、議論をさらに活発化させるためのアイディアとか理論とかを交わし合う文化。この文化をこのメガベンチャーの規模で維持できるのはすごいなと思うんです。こういう表現が適切かわからないんですけど、真に地頭の良い方が多いというか。すごく仕事しやすいなって思います。
こげつそれは僕自身も感じます。「3言ったら10理解する」みたいなスピードを持ってますよね。MECEで考える、みたいなこともするんですけど、適切な理由を提示できれば、すぐに「いいね、それでやろう」ってなるフットワークの軽さがあります。 エムスリー代表取締役の谷村は、「あなたはどう思いますか? レコメンドを教えてほしい」と、いつもメンバーの意見を聞くんですね。メンバーの一人ひとりが思考しプロフェッショナルとして互いを尊重し、あるべき正しい姿を目指そうとするのは文化として特徴的かもしれません。
ミナベ組織文化として理想的ですよね。あと2つ目に関しては、事業作りやプロダクト作りのセンスや感覚が、間違いなくテックカンパニーだなとも思ったんです。ある意味では、すでに組織としての地盤が整っている状態というか。というのも、医療系の企業って閉塞的なイメージがあるんですよ。あまり変化のない状況にいかに合わせていくかっていう、前提踏襲主義だったりして。でもエムスリーの場合、凄まじい勢いで数十単位の事業作って、成果を出していくじゃないですか。それも結構ボトムアップで。アジャイル組織的なんですよね。事業作りの感覚が、経営的に数字で考える定量と定性ですごくバランス取れてるなと思うんです。企業のイノベーション課題について以前に少しお話ししたこともあるんですが、企業経営であるあるなのが、コアの事業がうまくいきすぎて、次の手が伸びずに詰んでしまう「サクセストラップ」。イノベーションにおいては、「両利きの経営」という考え方があるんですよ。今回細かくはお話しませんけど、効率性を高めて事業を推進する「知の深化」と、事業創出のために知的財産を増やす中長期的な活動である「知の探索」を両立させることが、イノベーションを起こす上で必要であると考えられているんです。エムスリーは、それを地でやってるんですよね。すでに地盤はあるから、「あとはデザイナーを採用していくだけ」っていうステータスなんですよね。
こげつ全体的な組織としての地盤はすでに出来上がっている分、「どんどん挑戦していい」場になっているんですよね。かつての僕がそうであったように、働く場所を「何を学べるか?」で選んでいる人も多いと思うんですけど、エムスリーは能動的に、事業に貢献していく実践の場っていう感じがしますね。
ミナベ実践できる場っていうのは、デザイナーにとって特別だし大事ですよね。こげつさんが今エムスリーでご活躍されているのもそれが理由だと思うんですよ。「基礎はもう学んだから実践がしたい」「プロダクト企画からやらせてほしい」とか思ってる人にはぴったりの環境。メガベンチャーなのにスタートアップの感覚を持ち続けているって、「おいしいとこ取り」すぎるというか(笑)。スタートアップを選ぶ人は、自分で裁量を持ってゼロイチでやりたい人が多くて、メガベンチャーを選ぶ人は、組織規模が大きい中でチーム力を重視される働き方をされたい人が多いなと思ってて。エムスリーはその辺のバランスが良いし、デザイン組織を本気で変革しようとしているタイミングっていうのも良いですよね。これまでにエンジニアリング組織を変革して、2年で50名近く採用した実績もあって。ゼロトゥーワンを感じられる、めちゃくちゃ良いフェーズだなって思うんですよね。それを目撃できる、経験できるってなかなか無いことなので。
こげつエンジニア組織が成功した分、デザイン組織を変革することへの必然性も高まっているんですよね。企業としてプロダクトの体験設計から画面設計まで良くしていきたい、という思いもありますし。そういう意味では、デザイン組織の変革に踏み出すのは良いタイミングだったのかもしれないですね。
ミナベ非常に良いタイミングだと思いますね。デザイン組織を作るときに理想的な土壌になるのが、投資をしようとしている経営の意思決定についてファクトがあることなんです。なぜかと言えば、デザイン組織って投資して作り上げるまでに時間かかるんですよ。だから事業の収益体制がしっかりしていないと続かないし、やり遂げられないんですね。エムスリーは名実ともに日本トップのメガベンチャーなので、既にその土壌が整っている。
こげつエムスリーは、ROIを考慮して必要であれば投資をする、っていう考え方なんですよ。これは組織文化にも通ずるところなんですけど。
ミナベ投資の仕方が大胆ですよね。思い切りが良いというか。
こげつなので、今スタートしたばかりのデザイン組織の変革についても、「デザイン組織としてこうあるべき」を示して証明できたからこそ、だと思うんですよね。「医療を推進するためにデザインで何ができるか」っていうのは、エムスリーという企業を通してチャレンジしなきゃいけないと考えているんです。
デザインの力で、医療を前進させたい。
こげつ先ほどクラウド電子カルテ「エムスリーデジカル」のお話しもしましたが、電子カルテ業界は、以前はレガシーなデザインばかりでした。「エムスリーデジカル」は、開発当初からモダンなデザインを取り入れたんです。結果として今では、デザインされた電子カルテが当たり前になっているんですんね。レガシーな分野だからこそ「どうデザインするか?」っていう余地が大きいんです。
ミナベ今回の新型コロナウイルスの感染拡大で医療の需要が上がってるのもありますけど、そもそも医療って、社会のインフラの中でもすごく重要じゃないですか。そこにメスを入れていくっていうのは、デザイナーとしてもすごくやりがいがあると思うんですよね。そもそもの土壌がなければ相当難しいけど、すでに土壌があって、あとは芽を出し根を張るだけっていうのは、すごく良い条件が整っていますよね。
こげつ今の話で思ったのが、エムスリーってプロダクトドリブンで考えるんですよ。デザイナー自身が、プロダクトをどう良くしていけるかっていう視点で考えられるのは良い土壌なんじゃないかなって。
ミナベそうだと思います。良いプロダクトって良いチームから生まれると思うんですよね。デザインだけでもエンジニアリングだけでも、マーケティングだけでも難しくて。優れた技能を出発点とするのではなく、「良いプロダクトを作るには?」っていう考え方ができるかどうかが重要だと思うんですよね。ドラクエで言うと、僧侶の呪文ドリブンで攻略するのはまあうまくいかないですよね、みたいな(笑)。戦士とか武闘家とか、パーティーの中に他の職業がいないと攻略できないじゃないですか。それぞれ異なる専門性を持つ人が目的意識を持ってチームを組むからこそ、強固になれるんですよね。
こげつドラクエの例、めちゃくちゃわかりやすいです(笑)。
ミナベプロダクト開発において、ソフトウェア第一の価値観になるのはなかなか難しいんですよね。そこがエムスリーの強いところでもあって。そういう思想を持って、山崎さんが両方の責任者になりつつ、どちらが上とか下とかではなくて、プロダクト起点で考えているのはすごく理想的な環境だなと思います。
こげつそれで言うと、山崎自身もPdMとして現場で仕事してきているので、そういう人間が経営に食い込んでいくことで、現場と経営が接続できてるっていうのは大きいかもしれないですね。
ミナベ普通、それがなかなかできないんですよ。エムスリーは当たり前にやりすぎちゃってるんですよね。デザイン経営で必要な筋肉がもう身についてしまっている。本当はめちゃくちゃすごいアピールポイントなんですけど、当然のこととして10年前から実践してるから、エムスリー自身がそう思えないんですよね。でも僕は社会的な認知よりも成果が全てだと思っていて。プロダクトが大量に生まれてシェアが広がって、結果的に医師の8割がユーザーです、って正直あり得ないレベルの成果だと思うんですよ。それが実現するのって、企業作りとかプロダクト作りに誠実に向き合ってるからできたんだろうなと思ってて。ビギナーズラックでは絶対無理なんですよね。
こげつそうですね。エムスリーも成果、アウトプットが全てだと考えています。
ミナベ本当に良い企業だと思うんですよね。だからこそ、DONGURIとしてはデザイン組織の変革を一緒に進めていきながら、エムスリー自体の良さとか、こげつさんが推進する取り組みを知ってもらいたいなと思うんです。
こげつそうですね。これから改めてエムスリーのデザイン組織をブランドとして立ち上げますが、その活動を通して、多くのデザイナーの方にエムスリーのことを知っていただきたいと思うんですよね。デザインには「人をワクワクさせる」力がありますけど、僕はその要因をスピードだと思ってるんですよ。プロダクト開発においてもスピード感って大事で、デザイナーのアウトプットによって加速されるのは本当にあるので。
ミナベプロトタイプ的に作って意思決定を早くしたり、チームを巻き込んでいくことができたり、開発のスピードを上げていくことができますもんね。デザイナーがストレスフルになる状況として、ベストな方法論やアウトプットがわかっているのに組織の都合で辿り着けない、合意形成できないみたい、みたいな状況がありますけど。今一緒に進めているエムスリーのコーポレートサイトのリニューアルプロジェクトでも、そういうのないですよね。
こげつ「こんなん作っちゃいましたー!」みたいなのがすごい大好物なんですよね。エムスリーの人たちって。
ミナベその点については、一緒にお仕事させていただく上で、実は「調整を大量にするぞ」っていう覚悟でいたので、正直驚きましたね(笑)。むしろ「こんなんできちゃいました!」が求められていて、マインドスイッチの切り替えが必要になるという。今はもう切り替えてますけど(笑)。
こげつユーザーにワクワクしてもらうためにはデザイナー自身がワクワクできる、これからもそういう人と一緒に仕事をしていきたいなと思います。秋に予定しているデザイン組織としての新たなブランド立ち上げは、今まさにDONGURIさんに支援いただきながら進めていますけど、世の中のデザイナーに早く見てもらいたい気持ちでいっぱいなんですよね。「デザインの力で医療を前進させる」、このデザイン組織としてのメッセージを大きく打ち出して、ロケットスタートを切っていきたいなと思います。今度のミナベさんと登壇するオンライン公開イベント「医療メガベンチャー“エムスリー“に学ぶデザイン経営の実践」では、エムスリーの新規事業開発でデザイナーがどのように関わっているかなど、結構具体的な現場のお話もさせていただく予定です。この記事を読んで興味を持っていただけるデザイナーの方がいたら、ぜひご参加いただきたいなと思いますね。
Writer
田口友紀子
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