“崖”となる暗黙知を、いかに言語化して共有するか。「もったいない」から始まる、新たなコラボレーションの可能性。
吉田直記
デザイナー
淺田 史音
デザインリサーチャー
東京造形大学デザイン学科グラフィックデザイン専攻卒業後、2014年にDONGURIへ入社。 視覚表現のスペシャリストとして、web/プロダクト/グラフィックまで、表現探求に深くコミットしたクリエイティブをマネジメントしている。
東京大学大学院工学系専攻卒。生産技術研究所と英国Royal College of Artによって共同設立されたDLX Design Labにて、設立当初からプロジェクトに関与した後、PLAYFOOL Workshop Facilitator認定講座の開発を機に、2017年にミミクリデザイン(現MIMIGURI)にジョイン。以後、アナロジーやデザインリサーチを活用した領域横断的なワークショップ開発を展開する。オンラインワークショップの開発には初期から関わり、様々な参加のあり方をデザインすべく、Miroをはじめとしたオンラインツールを実験し続けている。
DONGURIとミミクリデザインが横断経営をスタートしてから、早くも5ヶ月が経ちました。
2社でコラボレーションするプロジェクトも増え始め、 様々な場で、個々人の対話もさらに活発になってきています。
今回はそんな対話の場のうち、 社内の事例共有会で生まれた、あるひとつの関係にフォーカス。
DONGURIのアートディレクター 吉田直記が共有したデザインプロセスの事例にミミクリデザインのディレクター・デザインリサーチャー 淺田史音が感銘を受けたことをきっかけに、改めて対話の場が設けられることになりました。
今回はその2人による、対談の様子をお届けします。
デザインという共通項がありながら、異なる役割を担うこの2人。<br> 意外にも共通していたのは、「もったいない」の感覚でした。
良いプロセスは、精度の高いアウトプットに直結する。
吉田一対一でお話しするのって、ほとんど初めてですよね。
淺田そうですね! 今日すごく楽しみにしてました。
吉田僕もです! じゃあちょっと改めて、まずはお互いにどんな仕事をしているかっていうところから始めてみましょうか。僕が普段DONGURIで担当しているのは、主にVIやブランド・コラテラル(ブランドのツールやWebサイトなど)の設計・開発です。戦略の部分はDONGURIの他のメンバーが担当して、僕がその後の視覚化を担当するというのが主な流れですね。
淺田私はミミクリデザイン(以下、ミミクリ)で、ディレクター・デザインリサーチャーとして、デザインプロセスの研究と実践に取り組んでます。あと、遊ぶような感覚で創造的なものの見方を呼び起こす、PLAYFOOL Workshopというワークショッププログラムのプロジェクトリーダーも担当しています。普段から色々なデザインプロセスのあり方を模索しているのですが、ミミ&グリ社内での事例共有会のときお話しされていた、吉田さんのVI設計プロセスには本当に感銘を受けました!
吉田groxiさんの事例ですよね。そう言ってもらえて本当に嬉しいです。
淺田あのダイヤグラムはどうやって編み出したんだろうって、ずっと気になってるんです。
吉田あれは僕個人が必要に迫られて考えた方法なんです。僕、そもそも物事を体系立てて話すのが得意じゃないんですよ。でも、プロジェクトでビジネスフェーズからデザインフェーズに切り替わった時に、抜け漏れがないようにしたいっていう思いがあって。何が何と接続されていて、アウトプットまでどんな文脈で紐づいているかを明確にしたいという僕の欲求から作ったものなんです。例えばWebサイトで指定されているフォントや文字サイズも、全部が戦略とか要件に紐づいているはずなんです。それを正しく理解して、正しく表現して繋げたいんですね。これは、僕の中にある「対象を理解したい」「ビジネスとデザインを接合したい」っていう欲求と紐付いていると思うんですけど。なのであのダイアグラムを作ることで、アウトプットで僕だけがジャンプしているのではなくて、本当はすべてのプロセスが繋がっているんですよ、って全員に伝えたかったんです。
淺田ビジネスサイドの言葉って結構ロジカルなので、デザインと接合するときに色々な手段がありますよね。このダイヤグラムはそのうちの一つなんだろうなって。なんか、DONGURIの皆さんと話していると、ミミクリよりロジカルだなって思うことが多くて。それってやっぱり、ビジネスとデザインの接合をする必要があるからなんでしょうか。
吉田その接合は皆考えているところではあるんですけど、手段は皆違ってて。感覚だけでジャンプして、それなのに説明もできる、みたいな人もいるんですよ。それは本当に人それぞれですね。僕は「良いプロセスが精度の高いアウトプットに直結する」と思っているので、プロセスそのものを特に大事にしているところがあるんです。再現性も肝だと思うので、いかに言語化や接続を行いやすいプロセスを踏むか、を考えている感じですね。
淺田なるほど。プロセスを大事にする感覚、とてもわかります。ただ、デザインについては「最終的なデザインアウトプットの精度」を評価するのって難しいと思うんですけど、吉田さんはどんな軸で考えているんですか?
吉田「視点によって変わる」っていうベタな回答になってしまうかもしれないんですけど。作り手である僕だけの単位で言うと、僕自身が良いって言えてるかどうかですね。全力で考えて全力で作って、納得できるところまでやり切ったな、って主観的に思えるかどうか。それ以外だと定量的なリサーチをかけたり、サイトの訪問者数やCVRが何%増えたか、とか。
淺田「主観的に納得できたか」っていうのは吉田さんの場合、「プロセスでクライアントに納得した様子があったか」っていう目線も入ってくるんだろうなと思って。だからこそ、プロセスが大事なんだろうなって話を聞いて思いました。ミミクリでは「プロセスでクライアントに納得した様子があったか」っていう目線も入ってくるのですが、そういった側面もありますか?
吉田そうですね。最近は特に、クライアント自身が選択してくれること、自分ごと化してくれることが大事だと思ってて。というのも、アウトプットを「作って終わり」ではなく、企業側に受け渡すためのブランドガイドラインをクライアントと一緒に作るプロジェクトが増えてきているんです。自分ごと化されないと、ガイドラインが使われなくなっていってしまうんですよね。「あなたはどう思いますか?」って、クライアント自身がフラットに判断できる情報だけ与えて判断してもらうやり方を、以前よりも意識しています。
淺田ミミクリでも、いただくご依頼が変化してきていているんですよ。「社員から創造的なアイディアが出てくるワークショップを行ってほしい」というものから、社内でアイディアを生み出す土壌を作るための、「ファシリテーションできる人材、創造性をもった人材を育てたい」という人材育成の視点に変わってきているんです。手法としてのデザインがどんどんメタ認知的になって、使われるレイヤーが高くなってきている気がしていて。
吉田そうですよね。「何をもってブランディングとするのか?」という問いをした時、そのまなざしは結局のところ、組織や人材、事業そのものにまで及ぶと思うんです。ブランドガイドラインもVIも、ブランドに関わる人同士の対話によって作り上げられ、育ち続けていくものだと思うので。本来的に言えば「作ったら終わり」ではなく、相手へ受け渡すためのプロセスが発生することは必然なんですよね。
淺田これって「デザインとは何なのか?」「デザイナーの関与する範囲はどこまでなのか?」っていう話とも繋がりますよね。めっちゃ大きい話するやん、って感じかもしれないですけど(笑)。
2人に共通していた「もったいない」の感覚。
淺田ディテールまで詰まったアウトプットやブランディングを、ただモノとして納品するんじゃなくて、組織がどう育て進めていくかっていう組織デザインの領域まで一括して実践するのはDONGURIの強みだと思ってるんですけど。吉田さん自身がデザイナーとして、そこに対してどういう立ち位置でやられてるのかとか、これまでの変遷をお聞きしてみたいです。
吉田僕個人の根底にある欲求としては、さっき少しお話ししましたけど「対象を理解したい」っていうのがあるんですね。クライアントやプロジェクトに対して、「その本質ってどこにあるの?」「“らしさ”ってどこにあるの?」とか考えるのが好きなんですよ。でもそれだけだと、僕がデザイナーという役職で価値を発揮する理由にはならないですよね。変遷という意味では「なぜ僕がデザイナーとしてやってるか」っていう、根本的な問いな気がする。
淺田私、そういう話が大好物なんですよ!(笑)
吉田内発的動機がどこにあるのか、っていう話になってきますよね。デザイナーっていう意味では単純な話かもしれないんですが、絵を描くのが昔から好きで、褒められた嬉しさから始まってるんです。
淺田「絵を描くのが好き」っていう原初的な衝動が根本にあるんですね。
吉田デザインするのが楽しい、って最初に思ったのは中高の頃ですね。友達がバンド活動していて、そのバンドTシャツとかグッズを作ったとき。ビジネスとデザインの接合について考え始めるようになったのは、大学生になってからですね。
淺田それは、どんなきっかけがあったんですか?
吉田フリーペーパーのコンテストを運営する、学生団体に入ったんです。その頃、全国の大学でフリーペーパーを発刊するのが流行ってたんですよ。そこには、ミミクリの遠又圭佑さんもいたんですけど。
淺田本当ですか!? まさかの(笑)。
吉田そこで、美術以外の……と言うとかなり広義になっちゃうんですけど、色々な分野の人、ビジネスを学ぶような人たちとも初めて触れ合ったんですよね。僕は高校も大学も美術系だったので、そういう人が周りにいなくて。で、ちょっと何か作ると「すごいね!」って言ってもらえて。それがすごく新鮮だったんですよ。逆に僕は、自分では想像もし得ない分野のことを考えている人たちがたくさんいるんだっていう驚きがあったんですよね。
淺田ちなみに、その学生団体に入ったのってどんな理由だったんですか?
吉田大学の課題に疑問を抱いていたんです。すべてがそうではないものの、課題って仮想で設定されるものが多いじゃないですか。実社会に存在してこそ意義があるだろうって思ってたので、教授が考えたifの問題に意義を見出せないところがあって。だからこそ、その学生団体で、社会に対して機能するものを作り出そうとしている人たちに会って感銘を受けたというか。それはデザイナーだけじゃ絶対にできないし、逆に言えば、デザイナーじゃなきゃできないこともあるんだなって実感したんですよ。あらゆる専門性の違う人たちが集まるとすごく可能性が広がるんだなって。「ビジネスとデザインでタッグ組んだら最強やん!」っていう感覚を、そこでクリアに感じたんです。
淺田私、こういうふうに、現在に至るまでに人が歩んだ道のりとかを聞くのがすごく好きなんですけど。吉田さんってなんか、色々と早いですよね。まずデザインにどっぷり浸かっていたところから、ビジネスを学ぶ人たちと出会って化学反応が起こってパッと気持ちが切り替わって、っていうプロセスが美しいなって思いながら聞いてました。吉田さんがDONGURIで活躍している現状と照らし合わせて、なるほどなあって。
吉田ビジネスの分野の人であったり、デザインを必要とする人たちに対して、自分が関わることで本質的な価値を見つけることができて、商材や事業が必要な人に届くのって、お互いにとってめっちゃハッピーなんじゃないか、っていうのがあります。
淺田私、「もったいない」っていう感覚があるんですよね。私たちは組織開発、ファシリテーションが主な事業分野ですけど、クライアントさんの話を聞いている時に「こんなに素敵な人たちなのに」「対話の土壌ができていたらもっといい場所になるのに」みたいな感覚になることがあって。それとちょっと近いのかなって思いました。
吉田「もったいない」の感覚、僕もあります! めっちゃあります。それはDONGURIに所属している理由でもあるんですよ。事業系の企業のインハウスデザイナーにならなかったのは、自社の事業やサービスの課題しか解決できないから。DONGURIは受託が中心の事業なので、短いスパンかもしれないけど、いろんな人の「もったいない」に関われるって思ったんです。
淺田「もったいない」っていう吉田さんとの共通点を見つけたぞ!って、今嬉しくなってます。ビジネスとデザインの接合のところ、ダイヤグラムとかコミュニケーションの話になるんですけど。DONGURIってビジネスとデザインでパートを分けているじゃないですか。だからこそ見えてくる、ビジネスとの接合においてのデザイナーの必要なスキルってありますか?
吉田専門性をより高めていくっていう意味でも、フェーズを分けるのは大事なんだろうなと思います。少なくとも今、DONGURIのクリエイティブのメンバーの1/3くらいはスペシャリスト型っていうか、ある特定の方面に長けているのが特徴なんですよ。DONGURIの多様性ってそこからも生まれていると思うので。スキルセットとして凸凹があったら、誰かが補わないといけないじゃないですか。ビジュアルの専門性が長けている人がいたとして、その人が戦略とかマーケティングに関しても同じだけ興味を持てるかって言うのはまた別の話だと思うんですよね。
淺田DONGURIは、内発的動機に基づいた体制になってますもんね。
吉田そうですね。すごく平たい表現になっちゃいますけど「やりたくないことはやらない」、言い換えれば「やりたいことをやったほうが伸びるよね」っていう。やるべきことは責任を持ってやり遂げる前提で、自分の内側にある動機に素直になることを大事にしているんですよね。その凸凹を補おうとすると、フェーズを分けるのが一番妥当性があるのかなと。特に僕の場合はビジネスとの接合に興味があったので、戦略を立てた人たちの文脈を、いかにその速度を落とさずにビジュアルに変換していけるか、みたいな。クリエイティブの分野がそうであるように、戦略の分野も専門性の高い人がいないと成立しないんですよね。だからそこはもう割り切って、僕はアウトプットまでの専門性を高めて、チームとして凸凹が埋まり成立していければそれでいいっていうスタンスで取り組んでます。
淺田その戦略はすごく納得だなと思います。DONGURIのメンバーに共通する、「興味のあるなしがハッキリ分かれてる」のも面白いなと思っていて。社内で共有されるDONGURIの事例がめちゃくちゃ濃いのも、その土壌、文化の中で醸成されてきたんだろうなと思います。
「感動すること自体が、人生の根源のエネルギーになってる」
吉田ミミクリのメンバーは、DONGURIとちょっと違うかもしれないですね。どんなことにでも興味が湧く、みたいなところがある気がします。
淺田そうなんですよ。でも、個人的にはそこには大学時代の紆余曲折がありまして……(笑)。元々は私、建築家の安藤忠雄さんみたいに、一つの道を極めるスペシャリストみたいな方に憧れてて。それで大学時代は、レーザーやサイボーグから建築、デザイン、メディアアートなどまで、色々足を踏み入れたんですけど、そういうスペシャリストってどの分野にもいるじゃないですか。そういう人に出会うたびに、感動しすぎてしまって(笑)。自分はなんか結果的に、そういう色々な分野の色々なものに感動できる人になってしまった、みたいなのがあるんですよね。吉田さんは「絵を描くのが好き」「作るのが楽しい」っていうコアがあった上で、どれだけ広げるかっていう話ですよね。それがすごくいいなって思います。私はフラフラしすぎてうまくいかなかったというか、うまくいかないこと自体が楽しくなってる(笑)。「この人たちすごく素敵なもの作ってるな」って感動すること自体が人生の根源のエネルギーになっていて。ひねくれた言い方になるかもなんですけど、そこに共感することで一時的に近い目線に立てたような気持ちになれるんです。
吉田めっちゃわかります(笑)。僕もどっちかっていうと、そういうタイプなんで。
淺田わかってくれますか、嬉しい(笑)。吉田さん、もしかしたら似てるのかなって思って。私、修士の時からそうなんですけど、感動が先走るあまり悔しい思いをしたこともあるんですよ。素敵なものを作る人たちに「すごい!」って共感して「私も一緒に作りたい!」ってパッと飛びついて、力になれなくて悔しい思いをしたことがあって。スキルを磨く時間をじっくり取る前に、先に行動してしまう性質があるんですよね。でも、アウトプットに直接的に繋がるスキルではなく、それ以外の関わり方で補うっていうやり方を身につけてから変わったんですよね。それがデザインリサーチだったり、ファシリテーションだったりするんですけど。自分の経験を活かして、素敵なことをしている人たちの良いところをもっと引き立てていきたいってなっていけたのが、ミミクリに入社してからの2〜3年、っていう感じでした。
吉田……なんか、すごくいい話を聞いてしまってます(笑)。
淺田コンプレックスの塊みたいな人間なので(笑)。語りがたまにこう、拗ねた感じになっちゃうんですよね。
吉田今のお話を聞いてても思ったんですけど、ミミクリって他者への好奇心とか、ホスピタリティの感覚を持っているメンバーが多いような気がします。
淺田その傾向は強いかもしれないですね。自分ひとりで完結するよりも皆で取り組むことでできることが増える、って思ってる人が多くて。そこはDONGURIとも共通するかもしれないですけど、私たちはそのための場を誂えることに特化しているという。ミミクリのメンバーって、ワークショップとかファシリテーションを一生やってたいって感じじゃないんですよ。
吉田あ、そうなんですか。
淺田「ファシリテーターの道だけを徹底的に極めたい」っていう人はあんまり多数派ではなくて。もちろん、ワークショップの魅力に惹かれて、ファシリテーションがやりたくてっていう動機を持ったメンバーもいるんですけど。たまたまここにいる、みたいな感覚のメンバーが多いんですよ。
吉田あくまでも手段として、ってことですね。なんか、僕と史音さんに動機の共通項がありながらも、取り組んでいる方法が違うっていうのが面白いなって思ってて。多分なんですけど、僕の煩悩的なものを全て除去したら史音さんみたいな考え方になる気がします。
淺田え! そうなんですか?
吉田僕の場合は、僕の存在を意味づける証をどこかに残したいんです。僕が関わることに意味がないものは関わりたくない、っていう極端な思考があったりするんですね。だからアウトプットにこだわっているんだと思うんです。僕の理解ですけど、ワークショップってその真逆の考え方だと思っていて。もちろん、その人にしかできない場の設計や問いの立て方とかはあると思うんですけど、フォーカスされるのは個人のアウトプットではなく、その場にいる人たちが何を生み出すかというところですよね。僕はそこの捉え方が煩悩的と言うか、自分の作ったものが形として残ることにこだわってしまうんです。その理由は興味のパラメーターなのか、本人の属性や能力値なのか。思考とは別の、元々の性質に依存するところなのかもしれないですけど。
淺田個人が持つ性質は確かに影響すると思います。逆に私は「デザインやりたかったけどやってない」っていう人間なんです。Webサイトとかチラシとか名刺とか、ちょっとデザインしていたこともあって。すごく楽しかったんですけど、「デザインしてないとダメ」っていうほどにはなれなかったんです。それよりも、色んな人に出会ってその場を繋いでいく、みたいなところに時間を費やしたがるっていうか。
吉田正直、それは羨ましいスキルです(笑)。僕は人前で話すこととか、誰かに自分を認識されることが得意じゃなかったんですね。“僕じゃない何か”でコミュニケーションしようとすると、アウトプットで間接的に関わるっていうアプローチしかなかったんですよ。史音さんみたいに、前に出ることを臆さない、っていう性質だったら、ファシリテーターになってたかもしれないなって。似たところがある気がするんですよね。
淺田共通するところと、持ってないところがお互いにある気がしますね。私も大学の頃は「スキルは明確なアウトプットに伴ってしか存在しない」って思っていたんです。でも「目に見えない、言語化しづらいものだけど、史音のスキルはすごいんだよ」って言ってくれる方はいたんですよ。ありがたいことに。「それって何なんだ〜?」ってずっと悩んでいて、大学の外に出てからやっと腑に落ちて、自分の中でも認めることができるようになっていったんですよね。
吉田認めるって重要ですよね。人にはできること、できないこと、するべきことがそれぞれあって。僕も自分への期待で葛藤していた時期もあったんですけど、自分の可能性を伸ばすために「できることをやろう」ってそれ以外のものを勇気出して諦めた、分岐の時期があったんです。あくまでもポジティブな諦めというか。
淺田すごいなあ。私は今も、微妙に諦めきれてないところがあって。……まあ、またそこは今度お酒飲みながらでも(笑)。
吉田そうしましょう。飲みながら話す内容になってきてますね(笑)。
ミミ&グリのコラボレーションで、“崖”となる暗黙知を言語化していく。
吉田ミミ&グリでのコラボレーションは既にいろんな形で動き出していますけど、史音さんとたくさんお話しして、これから一緒にお仕事していくのがますます楽しみになってきました。共通項と違うところが、それぞれちょうど入れ子になってるっていうのが驚きでした。
淺田本当ですよね! 色々なコラボレーションをしていけそう。冒頭でクライアントへの受け渡しのお話をしましたけど、私たちも、ワークショッププログラムやファシリテーションの監修のみを行って、クライアントの皆さんがご自身でワークショップを実施する、っていう案件も増えてきているんです。暗黙知としてシェアされているものを受け渡す難しさも感じているし、そういうところも何か一緒に解決していけたらいいなって。自分たちが当たり前にやっていることをクライアントで再現してもらう、ってすごい難しいと思っていて。
吉田暗黙知を共有する難しさ、ありますよね。ガイドラインを開発して受け渡すとき、僕はよく崖に例えるんですけど。僕らの中では非言語の感覚で、ヒョイッて飛び越えるだけに思える崖も、相手にとっては飛び越えるのが難しかったり。
淺田それ、すごくわかります!
吉田僕や他のデザイナーが全くいない状態でも一定の規格のクリエイティブを目指すって、本当に難しいなって。
淺田非言語的な感覚を言語化する必要があるんですよね。ガイドラインを作ろうとするとき、吉田さんがデザインプロセスを言語化したダイヤグラムみたいに、DONGURIが持つロジカルさっていうのがポイントになるのかなって思っていたり。
吉田非言語感覚の受け渡しはDONGURIでも取り組み続けているんですけど、どうしても属人的なところが横たわってしまうんですよね。ガイドラインを作る過程においても、できるだけクライアント自身が主体的に作っていく実感を伴うものにしたくて。細かく規定すればするほどオペレーショナルになって、創造性が無くなっていってしまうという課題があるんです。一方で、規定の幅を広げれば広げるほど、ジャンプする崖と崖の間の距離を離すことにもなってしまう。そのバランスが難しいんですよね。これからコラボレーションしていくのも、ガイドラインよりももっと手前、デザインチームのあり方とかの問い立てを一緒にしていくっていうのもあると思うんですよ。
淺田ああ、そういうやり方もあるかもしれないですね。ワークショップで生まれた気づきをもとにガイドラインを監修していく、みたいな考え方もありますね。
吉田現場で場を醸成することを続けてきたミミクリがワークショップで非言語的な感覚を吸い上げて、DONGURIがロジカルに言語化や視覚化をするっていうコラボレーションは、すごく色んな可能性があると思います。まだまだ、このまま3時間くらいお話しできそうですが(笑)、今日のところはこのあたりで終えておきましょうか。
淺田私もすごく楽しかったです! 今度ぜひ飲みましょう(笑)。ありがとうございました!
ほぼ初めてとは思えないほど、共鳴するかのように溢れた対話の数々。2人に共通していた「もったいない」の感覚は、相手への共感と尊敬から生まれていたものでした。
これから様々な形で行われるであろう、デザインプロセスの「受け渡し」。今回の2人がプロジェクトで交わることで、どのような化学反応が起きるのでしょうか。ミミ&グリのコラボレーションのあり方は、今回の対談をきっかけにさらなる新しい道が拓かれていくのでしょう。
Writer
田口友紀子
創造的な組織と事業を創りだします
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