クリエイティブのヒントは「フォロワーからの手紙」。対話から始まる、PATRAのコーポレートブランディング。

  • 濱脇賢一

    コンサルタント

  • 田島一生

    ディレクター

  • 大久保潤也

    コピーライター/コンセプトプランナー/サウンドプロデューサー

  • ヒロ・カタヤマ

    デザイナー

  • 五味利浩

    デザイナー

  • 筑波大学理工学数学類卒。大学在学中よりコンサルタントとして独立し、創業支援や事業計画の立案、広告戦略立案や地域ブランディングに従事する。また、長期でのBPRによる業務改善、中期での経営企画部・営業部へのハンズオンコンサルティングも経験。2018年より前身であるDONGURIに入社。現在、MIMIGURIにおけるコンサルティング事業の事業長を務め、経営コンサルティングや組織デザイン・ブランド戦略の策定などのプロジェクトオーナーも努め、幅広く企業・組織・事業の成長に伴走する。

  • グラフィック・WEBデザイナーを経て、博報堂で多くのマス・デジタル統合プロモーションを担当。MIMIGURIではディレクター兼プランナーとして、戦略からコミュニケーションプランまでブランドづくりに伴走。

  • 2005年ソニーミュージックから“アナ”でデビュー。6枚のアルバムをリリース。2014年からコピーライターとしてMIMIGURI(旧DONGURI)にジョイン。クリエイティブディレクターとしてブランディングやPR案件を担当。2017年から作詞やプロデュースを手がけるアイドルグループ“lyrical school”の楽曲では2曲連続でオリコンチャート1位を獲得。2020年にはOLD.Jr名義で初のソロ作品をリリース。エンターテインメント性のある企画プランニング、ブランドコンセプトや企業のメッセージ開発に多く携わる。

  • NYのSchool of Visual Arts卒業後、Pentagram New YorkでPaula Scherに師事。企業や文化施設のCI/サイン計画/ コーポレートタイプデザインを中心に活動。2018年よりDONGURIに参加。 主に戦略に基づいたアイデンティティデザインの制作を行う。

  • 東京造形大学デザイン学科グラフィックデザイン専攻卒。卒業後代表ミナベトモミとデザインファーム株式会社DONGURIを創業。VIデザインを基軸に、CI、WEB、商材パッケージなど幅広い表現領域でブランディングに携わる。

テクノロジーで「新しい購買体験の仕組み」を生み出し、SNS時代にマッチするコミュニケーションと企画力で、ガールズトレンドの最先端をリードする株式会社PATRA。

PATRAが運営するInstagramアカウントの総フォロワー数は、なんと40万人以上。

PATRAが運営するメディア「PATRA MAG」のブランド力を基盤に、マーケットプレイス「PATRA MARKET」では、自社発のブランド商品だけでなく、所属インフルエンサーがプロデュースするブランド商品も販売されています。

2019年8月には、PATRAのコーポレートブランディングを一新。

DONGURIは、コンサルティングからコピー、Webサイトに至るまで、そのコーポレートブランディングの設計と開発を行いました。

「おもしろいから、買い物を新しくしてみる。」

掲げられたコピーに、添えられたメッセージ。

イラストで表現された、スマートフォンでSNSを楽しむユーザーの姿。

「手紙」というコンセプトのこのクリエイティブが生まれるまでには、DONGURIと重ねた、対話の歩みがありました。

ブランド・エクイティの理解は、対話から始まる。

2019年8月、コーポレートのコピーやWebサイトなど、コーポレートブランディングを一新されましたね。どのようなきっかけでリニューアルを行うことになったのでしょうか?

海鋒ちょうど資金調達が完了したタイミングで、事業の拡大に合わせて、採用に力を入れていきたいと思っていたんですね。そのためにもPATRAという会社の情報を発信して、魅力的な会社であることを伝えていきたいってなったんですが、そもそも伝えるための言葉が十分ではなかったんです。ビジョンや価値観など、社内ですでに共有し合っているものはあっても、自分たち以外の誰かに伝えるための用意がなかったというか。それで、改めてコーポレートブランディングを見直したいねっていうのがスタートでした。

株式会社PATRA 代表取締役 海鋒健太さん

コーポレートブランディングを見直すにあたって、なぜDONGURIをパートナーとしたのでしょうか。

海鋒自分たちだけで見直すのは難しいと思ったんです。PATRAのメンバーは結構ロジック型の思考というか、堅い表現になりがちなんです。情感のあるような、エモっぽさのある表現をするのが苦手というか。だからこの話が出たときに、真っ先にDONGURIさんに依頼しようということになりました。というのも、弊社CTOの大塚が以前からDONGURIさんのファンで(笑)。僕たちの思いやPATRAらしさを伝えるための、やわらかくてエモーショナルな表現を、DONGURIさんならきっと見つけてくれるんじゃないかっていう話になったんですね。

濱脇実際、「企業のブランディングを考えている」と最初に連絡をくださったのは大塚さんでしたね。コーポレートブランディングとしてWebサイトのリニューアルというのがありつつ、その前段から依頼したい、というお話でした。

株式会社DONGURI 戦略モデリスト濱脇 賢一

「企業のブランディング」という依頼から、濱脇さんが最初に取り掛かったのはどんなことだったのでしょうか?

濱脇要件としては、初めは採用とか、ビジネスサイド寄りのお話がメインだったんです。ただ、PATRAさんの事業を考えたときに、ちょうどこれから展開していく方向がいっぱいあるんじゃないかなと思って。例えば商品群が増えたり、商品自体が増えたり、ブランドが増えたり。それに伴って後ろ側の体制、テクノロジー面での展開が増えていったり、みたいなところをパッと想像したんですね。なので、最初に行ったのはインタビューでした。DONGURIのメンバーとしては、主に僕と田島、大久保の3人で。PATRAさんの方は海鋒さんを中心に、だいたい8名くらいのメンバーにインタビューしていったんですね。ひと月かけて、5〜6回くらいでしょうか。これは僕自身が、まずはその企業の事業性みたいなところを理解したいっていうのが動機として強いからです。

事業性を知るためにまず対話を重ねるというのは、どのような理由からなのでしょうか?

濱脇これからの方向性や、事業が伸びていく理由がどこにあるのかっていうのがわかると、ブランド・エクイティの理解が深まりますし、その後のブランディングもより適した形で行っていけるからです。なので最初はPATRAの事業が伸びている理由、みたいなところをたくさんお話しました。PATRAのテクノロジーだったり、ユーザーを惹きつけている理由だったり。お話を聞けば聞くほど、これは素晴らしい事業だなって感銘を受けたんですよね。

PATRAさんは事業として、Instagramを軸にメディアやマーケットプレイスなどを展開されていますね。

海鋒僕たちの事業について改めて説明させていただくと、PATRAは「PATRA MAG」というトレンドを発信するインスタアカウントと、「PATRA MARKET」というマーケットプレイスを運営しています。主なユーザーは18〜24歳くらいの年齢層で、いわゆるミレニアルやZ世代。デジタルネイティブであるのはもちろん、個が強くトレンドに敏感な世代です。彼らが日常的に接しているインスタに「PATRA MAG」というメディアを立ち上げ、ユーザーはその「PATRA MAG」や所属インフルエンサーが紹介する商品をインスタ内のリンクからそのまま「PATRA MARKET」で購入することができます。

濱脇「インスタでかわいいものを見つける」、「いいなと思ったらすぐ買える」、「買ったらすぐ届く」、「届いたものを身につけてインスタにアップする」。PATRAさんはそういう自然でエモーショナルな購買体験を、ユーザーに提供しているんですね。これだけなら「今っぽいBtoCビジネス」という感じかもしれませんが、それだけにとどまらないのがPATRAさんらしいところでもあって。この「PATRA MARKET」は販売プラットフォームから商品管理システムまで、全てフルスクラッチで開発されているんです。

フルスクラッチで開発を行うことが、PATRAさんの事業にとってどのような特徴になっているのでしょうか?

濱脇単に販売・管理をするだけなら、そこに開発コストをかけずに、既存のBASEやShopifyなどのECプラットフォームを活用する選択肢もあるはずなんですよ。でもそうではなく自社開発であるからこそ、このECプラットフォームを一部解放するなどのOEM事業を可能にしています。このOEM事業が叶える「個人のインフルエンスを生かして、誰でも商品開発ができるプラットフォーム」という存在は非常にミレニアル・Z世代的ですし、PATRAさんの強みだなと思いますね。

海鋒濱脇さんのおっしゃるように、僕たちが自社開発にこだわっている理由は「新たな購買体験を生み出したい」「リテール業界に変化をもたらしたい」ということなんですよね。だから、あえてそういうシステムやオペレーションへの投資を行っています。「PATRA MARKET」では全商品を自社で検品して、自社の国内倉庫で管理・発送業務まで一貫して行っています。PATRAや所属インフルエンサーのインスタで商品を見て、いいなって思ってもらったらそのまますぐ商品ページに飛べて、裏側ではリアルタイムに在庫が管理されていて。購入から最短翌日で国内倉庫から発送されるっていうオペレーションになっているんです。僕たちはこういう購買体験をテクノロジーで実現させてきたし、今後もっとアップデートしていきたいんですね。

濱脇「使いやすく、安心して買い物できるプラットフォームであること」という前提を成り立たせるだけの技術力がPATRAさんにはあって。PATRAさんが実現させている購買体験そのものや、リテール業界に革命を起こすレベルで新たなマーケットプレイスを作り出している事業性が素晴らしいなと思ったんですよね。こういったお話を重ねてPATRAさんの魅力を知っていった上で、まずはPATRAさんのなかでの共通言語づくりをすることが必要だと考えて、ワークショップを提案させていただきました。

「自分たちじゃこんなにやわらかい表現にならない」

対話を重ねて事業や強みを知ることで、コーポレートブランディングも行いやすくなるということですね。共通言語をつくるためのワークショップでは、どのような取り組みを行ったのでしょうか。

濱脇全員で、PATRAを説明するさまざまなキーワードを出していってもらうというものでした。例えば「PATRAは(  )をする会社です」というような穴埋め形式のワークシートをいくつか用意して、各々に言葉を書いてもらう、というような感じですね。

田島この「PATRAを説明する言葉」というテーマでは、色々な角度からアプローチを考えていただきました。例えば「小学生に説明するならどんな言葉?」というように、平易な言葉で今のPATRAを説明するならどういう表現になるのか、というような考え方ですね。このとき、最終的にステークホルダーごとにコピーの表現を変える必要があるというのは構想として既にあったので、ワークショップはその前提で設計しました。

株式会社DONGURI コミュニケーションプランナー 田島一生

確かに、最終的に開発されたコピーは、コーポレート以外に「ビジネスパートナー」「ユーザー」「採用希望者」と、ステークホルダーごとに分かれたものもありますよね。それぞれに違うメッセージを伝えるというコンセプトは、どのように生まれたのでしょうか?

濱脇PATRAさんは、多方面のステークホルダーが存在する事業だからです。ユーザーの方には、商品やエモーショナル性などのアパレル的な良さを伝えたい。ビジネスパートナーの方には、PATRAが持つコミュニティの魅力や商品管理システムや販売、発送などテクノロジー面の強さを伝えたい。そして一緒に働きたいと思ってくれる人には、PATRA という組織の魅力を伝えたい。こんなふうに、伝えるべきことがステークホルダーごとにまったく異なるんですね。加えて、PATRAはこれからますます事業が拡大していくだろうなと考えたときに、ステークホルダーがこれから増えていく可能性もあるな、と。だから最大公約数的な、一緒くたな表現にしてしまうと、アウトプットとしてメッセージが漠然としてしまうと考えたんです。なので、最初にインタビューしたときから「ステークホルダーを明確にしたほうが良い」というのはDONGURI内で意見としてまとまっていましたね。

海鋒事業自体は複雑といえば複雑なんですよ。単純なBtoCでもなければ、BtoBでもない。PATRA MARKETのOEM事業として考えると、自分でブランドを作りたいインスタグラマーの方がビジネスパートナーになる可能性もあります。そういう意味で、ステークホルダーごとにメッセージを変えるというのは、僕たちとしてもすごくしっくり来ましたね。

共通言語づくりのワークショップを実際に行ってみて、PATRAさんとしてはどのような気づきがありましたか?

鈴木(真)先ほど海鋒がお話ししたように、社内のメンバー間でもPATRAについての共通認識は持てている状況だったんです。なので、そのワークショップではいろいろな言葉が出てきましたが、どれも「似ているけどちょっと違う言い回し」という感じだったのを覚えてます。

株式会社PATRA 取締役 鈴木真彩さん

海鋒例えば、僕は「リテールテック」っていう言葉を使ったんですね。テクノロジーで小売り事業に新しい体験をもたらす、という意味でよく使われる言葉だという考えで使ったんですが、「一般的じゃない」って言われて。確かに改めて考えてみると、アパレルやリテールの業界の方には伝わるかもしれないけど、PATRAのファンの方には伝わりにくい、堅い表現かもしれないな、とか。

鈴木(真)PATRAのメンバーは考え方や価値観が似ているので、そもそも言語化する必要あまりないと思っていたんですよね。言葉にしなくてもわかりあえる、共通するフィーリングがあるので。ただ、一緒に仕事していく仲間を増やしていこう、これまでやってきたことを外に発信していこうっていうこのタイミングでは、やっぱり言語化が必要なんだなっていうのをワークショップで改めて感じました。実際にみんなで言葉を出し合ってみると、私たちの言葉遣いが伝えたい相手に適した表現なのかっていうところが、なかなか自分たちでは判断が難しいなって。

ワークショップを経て、最終的なコーポレートのコピーは「おもしろいから、買い物を新しくしてみる。」というものになっていますね。PATRAさんらしさがすごく伝わるコピーだと思うんですが、これはどのようなプロセスで生まれたのでしょうか。

濱脇流れとしては、ワークショップで皆さんに言葉を出し切っていただいて、一定の方向性が見えた後に、DONGURIで持ち帰るという感じでしたね。

大久保持ち帰った後、コピーとしてまとめていくところは僕が担当しています。そこから、まずはキャッチになる、大きい言葉から考えていきました。インタビューやワークショップを通して、PATRAの皆さんは「面白いからこういう事業をやっている」というところが共通していたんですね。これはPATRAさんらしさでもあるので、絶対に伝えたいなって思ったんです。

株式会社DONGURI コピーライター 大久保 潤也

大久保PATRAさんって、良い意味でスタートアップとかベンチャーらしくない感じがあるんですよね。張り切って頑張るとか、強く見せる、みたいな感じではなくて、少し肩の力が抜けた感じというか。皆さん自然に、素直に面白いと思うことを楽しんでやっているんですよね。それがすごく新鮮で、個人的にも好きだったので、そういうトーンが伝わるようにって考えて作っていきました。いわゆる投資家に向けたベンチャーアピールでもなく、ファッションブランドとかアパレルの会社とかD2Cみたいなところにとどまる感じじゃない。言葉にしてもデザインにしても、そういうところは目指していましたね。

DONGURIさんからのコピー案を見たとき、PATRAさんはどう思いましたか?

鈴木(慶)「自分たちじゃこんなにやわらかい表現にならないな」っていうのが、最初に抱いた感想でしたね。

株式会社PATRA 経営企画 鈴木 慶太さん

海鋒インタビューやワークショップを経て、「PATRAが当たり前だと思っていること、普通にやっていることは実は普通じゃない」とDONGURIさんに言われていたんですよね。実際、コピーの中には「おもしろいから」とか「あたりまえ」という言葉を入れていただいていて。アウトプットとして見たときに、なるほどなって思いましたね。

鈴木(真)もし自分たちだけでコピー案を考えたとしたら、こういう言葉は入れないと思うんですよね。

鈴木(慶)入れないですね、思いつかない(笑)。そこに特徴があって価値があるんだということに気づけなくて、見落としてしまうと思います。

ワークショップ時に出てきた言葉たちを見て、大盛り上がり。「これ覚えてる!」「こんなのアリ?(笑)」

海鋒リテールのテクノロジーを生み出すことも、新しい購買体験を生み出すことも、僕たちは“面白い”って思うから、楽しみながら取り組んでいて。インタビューやワークショップを通してたくさんの対話を重ねたことで、僕たちのそういうモチベーションや動機を深く理解していただけたのかなと思います。

クリエイティブのヒントになった「フォロワーからの手紙」。

Webサイトなどのクリエイティブの話になるのですが、コーポレートのコピーにもステークホルダーごとのコピーにも、それぞれ手紙のようにメッセージが添えられていますね。このクリエイティブのコンセプトは、どのように生まれたのでしょうか?

田島初めから手紙というコンセプトを提案したというよりは、メタファーとして取り入れていった感じですね。

濱脇手紙というメタファーに至った理由は2つあるんです。ひとつは事業が大きくなったときに振り返られる、後々に様々なミーニングに気づけるというような仕掛けを作りたかったからからなんです。Amazonの CEOであるジェフ・ベゾスの「株主への手紙」みたいに。もうひとつは、PATRAさんがオフラインでPOP-UPの実店舗を開いたとき、フォロワーの方が手紙を渡しに来るというエピソードをお聞きして。すごく素敵だなと思ったからなんですね。それは半端ないエモさだなと(笑)。

フォロワーからの手紙! それは確かに半端ないですね。実際に、どういった手紙が届くんでしょうか?

鈴木(真)「頑張ってください」「いつも見てます」みたいなメッセージが多いですね。受け取るのは私たちというよりも、ショップで接客してるスタッフの子たちで。というのも、PATRAのPOP-UPショップはファンによって運営されているんです。PATRAのブランドを好きな子だったり、所属インフルエンサーのフォロワーだったり。よくインスタライブを見てくれる子がDMで名乗り出てくれたりっていう感じで、ファンとの距離が親密であるからこそ成り立つ運営なんです。なので、POP-UPショップは商品を試着できる・買える場所であると同時に、「応援しに行ける場所」みたいな役割も担っているんですよね。物を買う以外の、「フォローしてる人が頑張っているところを見に行く」みたいな意味が生まれているんです。

鈴木真彩「私はほとんど表に出ていないのに、なぜかフォロワーの方がアカウントを見つけて、応援してくれるんです(笑)」

海鋒PATRAのアルバイトの子とか、ずっと働いてくれている子が「会えて嬉しいです」って手紙をもらったりしているんですよね。PATRAはファンで運営されている分、ユーザーとの距離が近いし、ユーザー同士の接点が多いんです。PATRAに関わっているメンバーの個人のアカウントを見て、その人の日々のインスタのストーリーを見て、コメントして、みたいな。そういう感じで運営との距離が近いので、愛着を持ってくださっているということなんだと思います。

とても素敵なエピソードですね。PATRAさんならではという感じがします。そういったストーリーが秘められた手紙というメタファーを、クリエイティブに取り入れるときにはどのようなアプローチで進めていったのでしょうか?

田島DONGURIでコピーを作っているときの会話で「手紙を書く感じでコピーを書いてみる」ってどうかな? っていう話になったんですよね。それで大久保が開発したコピーがすごく良くて。濱脇と、Webサイトも手紙っぽくいこうよっていう話になっていきましたね。先ほど濱脇が話していたように、PATRAさんってシステムなどのテクノロジー面が本当にすごくて。合理的に物事を生み出しているんですけど、そのタッチポイントを生み出しているところがめちゃくちゃエモいんですよね。だからWebサイトも普通じゃない感じにしたかった、というのがありました。コピーに続くメッセージの内容をターゲットごとに変えて「わかってくれる人にファンになってほしい」という設計にしています。

海鋒ユーザーとの距離の近さっていうところで、ありがたいことに「PATRAで働きたい」「PATRAと関わりたい」っていう声を多くいただくんですよ。インスタのDMとかで。そういう方たちへ伝えたいメッセージと、手紙というコンセプトが合致したなっていうのはありましたね。

距離の近さ、すごく伝わってきます。メッセージのやわらかさもそうですが、イラストもとても印象的ですよね。イラストを使ったデザインにするというのは、どんなふうに決まっていったのでしょうか?

カタヤマデザインについては僕が担当させていただきましたが、実はすごい苦しんだんですよ、最初(笑)。コピーがあってコンセプトがあって、っていうところまでは順調だったんですけど。それをデザインに落とし込んで行くときに、どうするかっていうのは悩みました。手紙っていうメタファーはあるものの、それをそのまま表現しても陳腐になるんじゃないかなっていう話はあって。もう少し、PATRAっていう会社の雰囲気が伝わっていくようなものにしたかったんです。

株式会社DONGURI アイデンティティデザイナー ヒロ・カタヤマ

濱脇最初はみんなでたくさん案を出し合っていったんですよね。そのときはもっと、イラスト以外の案もあって。写真を使ったスタートアップっぽいデザイン案とかもいろいろ出していたんです。

大久保そうですね。ただ今回、スタートアップっぽくなさっていうのが結構重要に感じてて。あとはやっぱりその、ステークホルダーは複数存在するものの、アウトプットとしてはミレニアルやZ世代をターゲットにしてるっていうところがあるので。その世代がコーポレートサイトを活用することはほぼないとは思うんですけど、そういう人たちが見たときにも、「かわいい」っていう言葉が出てくることが重要かなって思ったんですね。「かわいい」でシェアしたくなるっていうか。最終的にイラストに決まったのは、身近で親しみやすい距離感が作れるっていうところで、目指す方向性とマッチしていたからなんですよね。DONGURIの強みでもありますし。

濱脇イラストっていう方向性と合わせて、DONGURIの五味にイラストを担当してもらうことも同時に決まりました。「五味のイラストなら、絶対にいいものになるはずだ」と確信していたので。

イラスト、本当にかわいいです! どなたが描いたんだろう?って思っていました。

五味実は一発勝負で描きました(笑)。というのも、オーダーされた段階で大久保とかカタヤマから、具体的な構図やポージングの指定があったんですよ。最初はトップのキービジュアルだけ描いて、そしたらそれをいいねって言っていただけて。それで下層の、ステークホルダーごとのイラストも描くことになったんです。

株式会社DONGURI プロダクトデザイナー 五味 利浩

オーダー時に伝えられた内容には、どんな指定があったのでしょうか?

田島PATRAさんから、ユーザーがよくインスタで撮ってる写真をいくつか送っていただいて。それをもとに、どんな人物がいるどんな場面のイラストなのかっていうのを、大久保とカタヤマでかなり細かく指定していきました。五味には、とにかく描き込みに集中してもらうっていう感じでしたね。

鈴木(真)PATRAで購入したユーザーが、よくタグ付けしてインスタに投稿してくれるんです。そのときによくやってくれる撮り方っていうのがあって。そのなかで特徴的かなっていう写真をピックアップして、いくつかまとめてお送りしました。鏡越しで撮るとか、お揃いで撮るとか。

大久保鏡越しを、Webサイト上でギミックとして取り入れることに苦しむっていうのもありましたね(笑)。

五味人物の後ろをテキストが通るというデザインなので、鏡越しだったらどこにテキストを通すのか?っていうところとか。結構いろいろ考えましたね(笑)。

テキストの通り方とかレスポンシブとか、パッと見はシンプルなのに、細かいギミックが凝らされているサイトですよね。

カタヤマミレニアル世代とかZ世代とかって、ノームコアを通過した世代なんですよね。なので、イラストやギミックでエモい感じを作りながら、ノームコア的なシンプルさとか見やすさ、使い勝手の良さっていうのも大事にしたいなと考えて作っていきました。

大久保各ページのビジュアルを縦長にしたっていうのは、DONGURIとしても面白かったですし、特徴だと思いますね。

完成したWebサイトを見て、PATRAさんはどんな印象を抱きましたか?

鈴木(真)イラストを使うデザインっていうこと自体が、メッセージに合っていたなって思ってて。PATRAの伝えたいことや取り組みを、大きく見せようとするんじゃなくて、やわらかい言葉で自分たちらしく伝えたいって思ったときに、サイトが変にかっこよすぎると、文章が浮いてしまうと思うんですよね。PATRAらしい、背伸びしすぎていない言葉とイラストとデザインと、っていうのがすべて伝えたいことに合致していて、すごくしっくりきましたね。

海鋒イラストの間を文字が通っていくとかも、面白い演出ですよね。

鈴木(慶)あと、驚いた反響があって。僕の周りはアパレル業界の人ばかりで、スタートアップの人とか全然いないんですよ。でも、僕のSNSでPATRAのリニューアルについて投稿したら、それを見たアパレルの業界の方に「PATRAってなんか話題になってるよ」って言われたんですよね。今回のリニューアルについて、スタートアップ業界の方とかからのリアクションは想定内だったんですが、アパレル業界の方からも反応をいただけたのは嬉しかったですね。

クリエイティブな人が、もっと自由にブランドを出せる世界に。

コーポレートリニューアルを機に、PATRAの取り組んでいることが伝わりやすくなっていったんですね。

鈴木(真)D2Cといわれる事業が増えてきているなかで、いろいろな認識や捉え方があると思うんです。だから「PATRAもD2Cでしょ?」って言われることもあったんですけど、私たちはそうではないと思っていて。でもそこで「じゃあPATRAって何が違うの?」って聞かれたとき、自分たちではわかっていても、説明するための適切な言葉がないと周りにも伝わりにくいだろうなと思っていて。情報の発信を慎重にしていたところがあるんですね。そういう「D2Cの事業として見られる」っていうだけの捉えられ方を、払拭できたかなって。今回のリニューアルでは、プレスリリースとかも出さなかったんです。Webサイトとブログだけで、自分たちの言葉で皆さんへ“手紙”としてダイレクトに伝えることにこだわったことで、PATRAのブランドを確立できたのかなと思います。

海鋒僕も、自分の資料とかにもガンガン使っています(笑)。今までは僕たちの事業を説明するのが少し大変だったんですけど、最近はWebサイトのスクショをバン! と貼って。実際、それで理解していただけるんですよね。

海鋒「リニューアル後は『詳しくはコーポレートサイトを見てください』って積極的に伝えています」

「PATRAを理解してもらえること」が、事業にどんな効果をもたらしていくと思いますか?

海鋒僕たちは、これからもどんどん新しいことに挑戦していきたいんです。でもそういうとき、僕たちとしては軸のある考え方で新しいチャレンジをしていても、その軸が何であるかが伝わっていないと、周りからは「ブレてる」って思われるかもしれないですよね。そういう誤解みたいなのがなくなって、これからビジネスパートナーになっていく方にも、「なぜPATRAが新しい領域にチャレンジしているのか」の理由が伝わりやすくなっていく。この変化はすごく大きいです。

2019年9月には韓国法人の設立も発表されました。これから、PATRAさんがチャレンジしていきたいのはどんなことでしょうか?

海鋒大きく分けて3つあって。1つは新規ブランドや新商品の開発っていうところで、ターゲットの世代を広げて、もっと上の世代にも提供していきたいなと。アパレル以外の領域にも挑戦していきたいですね。2つ目は実店舗です。今はECしかやってないですけど、ECとオフライン店舗をシームレスに融合させていくような仕組みを提供していきたいなと。3つ目は今回設立した韓国の子会社を通じて、他の企業にもPATRAの流通のシステムやECシステムを使っていただく、OEM事業の展開です。自分のブランドを作りたいとか、クリエイティブな面を持っている人ってたくさんいるんですよ。一方で、実際にそういうことにチャレンジするには、ビジネスやシステム面の壁にぶつかってしまうことも多いです。特に物流なんて、簡単なことではないですし。

鈴木(真)わりと本当に、あと数年とかで、ものを作りたい人が誰でも作れる時代っていうのが来ると思うんです。今もそうなってきていますけど、もっと当たり前になる時代がくると思っていて。その世界自体を、自分たちが先陣を切ってアップデートしていきたいっていう思いがあります。生産体制やシステムを整えていくっていう取り組みは、PATRAのユーザーに安心して買い物をしてもらうっていうのもそうなんですが、自分でブランドを作りたいなって思う人が安心して、ベストな方法で作っていける場所でありたいっていう願いからなんです。小売の体験は、まだまだテクノロジーとアイデアで革命が起こせると思っています。

海鋒「小さなブランドが増える」って僕はよく言うんですけど。これからは、全国に数百店舗あるようなブランドはどんどん衰退していって、ECしかやってないみたいな小さいブランドが増えて行くと思うんです。だからこそ、生産や物流については僕たちがパッケージ化して、用意して。裏側の部分を僕たちが担うことで、クリエイティブな人が自由にブランドを出せる世界を実現していきたいですね。


コーポレートブランディングのリニューアルにより、新たなチャレンジに向けて、ますます加速していくPATRA。

 実は、来年ローンチ予定の新商品の開発もDONGURIと一緒に行い始めているのだそう。 

クリエイティブな人が、自由にブランドを作り出せる世界。PATRAが目指す世界は、もうすぐそこまで近づいている予感がします。

  • Writer

    田口友紀子

  • Photographer

    永井大輔