ナレッジマネジメントから触発する組織学習
- Guest :
- 西村歩(リサーチャー)
- 瀧知惠美(エクスペリエンスデザイナー/リフレクションリサーチャー)
- 小澤美里(CCO)
西村歩
リサーチャー
瀧知惠美
エクスペリエンスデザイナー/リフレクションリサーチャー
小澤美里
CCO
東京大学大学院情報学環客員研究員。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。科学哲学・科学社会学を専門とし、修士課程ではデザイン学における実践研究方法論に関する調査に取り組む。現在はデザインファームに内在する実践知の形式知化を主軸とする「実践知型研究組織」の概念構築に従事している。電子情報通信学会HCGシンポジウム2020にて「学生優秀インタラクティブ発表賞」、電子情報通信学会メディアエクスペリエンス・バーチャル環境基礎研究会にて「MVE賞」を受賞。
多摩美術大学情報デザイン学科卒業。東京藝術大学デザイン科修士課程修了。多摩美術大学、東海大学非常勤講師。ヤフー株式会社にて複数サービスのUXデザインを担当した後、UXの社内普及のためワークショップ型の研修やUX導入から組織浸透までの実務支援を主導。UX実践を成果へ結びつけるため、チームづくりのためのふり返りの対話の場づくりの実践および研究を行う。MIMIGURIでは、UXデザイン・サービスデザインをはじめとする事業開発を中心に担当。よりよいユーザー体験につながるモノ・コトを生み出すために、つくり手の体験も重要と考え、事業開発と組織開発の組み合わせ方を実践と研究の両軸を重視しながら探究している。
京都工芸繊維大学工芸学部、グロービス経営大学院経営研究科卒。グラフィックデザイナー、webデザイナー、ディレクターを経てブランディング、デザインを主とし起業(共同経営)。その後webサイト制作・システム開発会社にて執行役員・COO/CDOを務め、デザインプロセスを用いて経営課題の解決に取り組む。2022年8月株式会社MIMIGURIに入社。2022年9月に執行役員CCOに就任。
- MIMIGURIのPodcast「ミグキャス」の番組『MIMIGURIの談話室』。この番組では、日々の活動で得た知見を汎用化すべく、メンバー同士の生煮えの対話をお送りする。
- 今回は、西村歩、瀧知惠美、小澤美里の3名が、MIMIGURIで実践するナレッジマネジメントの活動についてお話しする。
ナレッジマネジメント = 新たな知を生み出す活動
- MIMIGURIには「知を開いて、巡らせ、結び合わせる。」というバリューがあり、個人だけでなくチームやプロジェクト単位でリフレクションして、日常的に知識創造活動を行っている。小澤が管掌する職能組織には「知識創造室」という組織を置いて活動しており、西村と瀧はその中で研究開発本部を兼任しながら活動している。
- 2023年1月、CULTIBASE Labの「ナレッジマネジメント入門:知が循環する組織をつくる」に、西村と瀧が登壇した。
- イベントは、ナレッジマネジメントが何から始まったかの源流をたどり、どのような考え方が大事にされているかを参加者に掴んでいただけるような設計にした。なぜなら、ナレッジマネジメントは、経営学やエンジニアリングの領域などさまざまな領域が組み合わさってできた領域であり、入門といっても幅が広すぎるからである。
- また、ナレッジマネジメントを「ドキュメントや知識を管理する活動」という印象を持つ参加者も多く、「新たな知識を生み出す活動」であることを伝える意図もあった。
- 参加者からの反応として、知識を共有しあう文化や仕組みをつくる新しい試みには社内からの抵抗があり難しく、苦労しているというものが多数あった。ナレッジマネジメントの文脈で語られる「SECIモデル」のような仕組みを一気に企業へ導入しようとすると、大規模な活動になるため、どうしても1人の力では難しくなってしまうと考えられるためである。
- 瀧は、自分の見える範囲から始めて、少しずつ範囲を大きくしていくことが重要という。ナレッジマネジメントの活動は文化にも関わるものだから、身近なチームの文化を少しずつ変えていき、徐々に企業の文化として広がり、浸透していくものと考えられる。
悩みや弱さを開示して新たに知が生まれる
- MIMIGURIでは「知を開いて、巡らせ、結び合わせる。」のバリューを体現したナレッジマネジメントの活動ができていると小澤はいう。
- 知識を資源として扱い、知識を生み出す考え方がミッション・バリューにもなって組織に根付いており、それを意識した制度や組織設計が進められている。
- MIMIGURIにおけるナレッジマネジメントの活動を下支えしているのは、知を開きあう文化である。具体例として、「知を開く」活動がある。
- メンバーが、日々の実践から得た気付きや学びを、日常的にSlackに書く文化が根付いている。Slackには学びだけでなく、直面している悩みや課題、自身の弱さも書かれていて、その時に何を悩んでいるかを開示しやすい文化がある。
- 西村は、Slackだけでなく、定例会議、1on1の場でも悩みを開示し、共感し合う場面が見られ、悩みを軸としてメンバー同士が対話していく中で知が生まれていく特徴があるのではないかと考える。
- 悩みや弱さが開示しやすい文化は、開示した後に他のメンバーが共感し、共に次なる行動に歩みを進めていく信頼関係が形成されていることが関係すると西村は考えている。悩みや弱さを開示しやすい文化を支えるのは、それらを開示したあとに他のメンバーの関与によって、次の行動につながるきっかけやモチベーションが生まれるからだという。事実、西村が悩みを打ち明けたときにも、自然と他のメンバーがヒントを教えてくれて、解決に至った。
プロジェクト外のメンバーとも対話し、知を巡らせる「PLAY BOOK」
- 他にも、瀧を中心にMIMIGURI社内で進めている「PLAY BOOK」という、知を開いて、巡らせ、結び合わせることを目指したナレッジマネジメントの活動がある。
- 例えば、プロジェクトが終わったら、何を行い、どんな学びがあったかをリフレクションし、さらにプロジェクトに関与していないメンバーにもその内容をシェアし、対話を重ねる。そこから得た新たな知を貯めて、関心のあるメンバーが次の実践に活かしていくのが「PLAY BOOK」の活動だ。
- 瀧は、知の意味が深まり、知が巡っていくという理由から、リフレクションを当事者だけで終わらせず、プロジェクトに入っていないメンバーも含めて対話するのが大事と捉えている。
- リフレクションで多くなりがちなのは、改善を目的にした「深化」の場になることだが、MIMIGURIのリフクレションは、深めていきたい問いを共有する「探索」の場にもなっている。
トップの姿勢がもたらす、知を探索したくなる衝動
- ここまでの話を受けて、ナレッジマネジメントの難しさを乗り越える1つのヒントに、ナレッジマネジメントをしたくなる衝動を生み出すことがあるとのではと小澤。
- 瀧も「PLAY BOOK」の活動をより Playful にしたいと話し、知をきれいにまとめすぎると、かえって使いにくくなる印象を抱いており、誰もが自分なりに知を解釈して使ってみたくなる方法を探索したいという。
- 西村はダベンポートらの考えを引用し、知を探索したくなる組織文化をつくるには、企業や組織のトップが探索的な姿勢を示すことが大事と考える。*
- 例えば、MIMIGURIでは、Co-CEOのミナベと安斎が「Management Radio」でマネジメントや組織について探索的に話しており、結果的にMIMIGURIで知識を探索する行為が正当化されている。
企業活動と研究活動からナレッジマネジメントを探索する
- MIMIGURIでは、知を開き、巡らせることは機能しているので、今後は知を結び合わせ、さらに次の知を開くサイクルをみんなで楽しく回していくことを目指していく。
- また、企業が抱える知やノウハウが経済価値につながる時代が来ており、その要請に応えられる知をつくるため、ナレッジマネジメントの研究活動を進めていきたい。
参考文献
* トーマス・H・ダベンポート,ローレンス・プルーサック(2000)『ワーキング・ナレッジ:「知」を活かす経営』,生産性出版
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