MIMIGURIにおける組織開発としての全社会
- Guest :
- 東南裕美(リサーチャー)
- 臼井隆志(ファシリテーター/アートエデュケーター)
- 渡邉貴大(ファシリテーター)
東南裕美
リサーチャー
臼井隆志
ファシリテーター/アートエデュケーター
渡邉貴大
ファシリテーター
立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科博士前期課程修了。立教大学大学院経営学研究科博士後期課程在籍。人と組織の学習・変容に興味を持ち、組織開発が集団の創造性発揮をもたらすプロセスについて研究を行っている。人と組織の創造性を高める研究知見や実践知を発信するウェブメディア『CULTIBASE』の副編集長を務める。共著に『M&A後の組織・職場づくり入門:「人と組織」にフォーカスした企業合併をいかに進めるか』がある。
学生時代から現代美術家や劇作家らと協同し、幼児から中高生、大人までが関わるアートプロジェクトのプロデュース、ファシリテーションを担ってきた。その後、大企業の教育系新規事業開発と学びのためのファシリテーター人材育成を兼務し、のちにMIMIGURIに参画。MIMIGURIでは主に組織文化開発や人材育成の教材開発を担当している。
早稲田大学商学部卒業。規模/業態の異なる複数の組織において、人事やコンサルタントとして業務に従事。チェンジ・エージェントとして組織変革のファシリテーションを実践してきた。MIMIGURIでは個人と組織が自らの「story writer」となり、自分や自分たちの物語を紡ぐ機会を演出する組織・事業開発、イノベーションプロジェクトのPMとファシリテーションを担当している。
- MIMIGURIのPodcast「ミグキャス」の番組『MIMIGURIの談話室』。この番組では、日々の活動で得た知見を汎用化すべく、メンバー同士の生煮えの対話をお送りする。
- 今回のテーマは、MIMIGURI社内で月に一度開催される「全体会」。渡邉貴大、東南裕美、臼井隆志の3名が、全体会について、組織開発研究の知見も踏まえながら、実践上のポイントを語り合う。
全体会は、MIMIGURIの重要な「組織開発」の取り組みのひとつ
- MIMIGURIでは月に一度、半日〜1日、全社員がオンラインで集まる「全体会」が開催される。プログラムは毎回異なるが、会社がどのような未来を目指すのか?という経営の目線にフォーカスすることもあれば、一人ひとりがいまどんな衝動や葛藤を持っているのか?どんな変容を感じているのか?という個人の目線にフォーカスすることもある。
- 臼井と東南は全社会の特徴的な点として、「対話が重視されていること」と「横断的であること」の二点を挙げる。話を一方的に聞くだけではなく、それを踏まえて何を思うかを語り合う時間を設け、かつ、普段の業務で接点の薄いメンバーと感じていること、考えていることを交換できる機会になっている。
- 全体会は「組織開発」も主目的にしており、特に「学習」を重要視していると臼井は言う。ここでいう学習とは、ひとりだけで知識をインプットするようなものではなく、他者とのコミュニケーションや、役割の変化によって生じる「集団による学び」を想定したものである。
- MIMIGURIの全体会は、情報をインプットしながらも、個人やチームがどう仕事に取り組むか、他者との交流を通じて触発しあい、理解を深めていくための場なのである。そして、それが個人や組織の発達につながっていくのだという考えのもと、運営されている。
全体会の3つのテーマ:「フェスタ」「カンファレンス」「PLAYFUL FUND」
- 全体会は「フェスタ」「カンファレンス」「PLAYFUL FUND」という3テーマを毎月ローテーションして開催している。
- 「フェスタ」では、経営チームが今考えていることや、組織としての長期的な展望が語られる。「カンファレンス」では、様々なプロジェクトのリーダーが現況を紹介する。「PLAYFUL FUND」では、個人を起点とした「遊び」的な体験や、そこから得られる気づきなどに主眼が置かれている。
- 現在のかたちに落ち着くまで、様々な取り組みが行われてきた。東南は特に印象的だった回として、MIMIGURIという会社として新たなスタートを切った、2021年の合併直後の会を挙げる。新しい会社として何を為すのか、合併した意味を解釈し語り合う機会であり、楽しみという気持ちと同時に、ワクワク感や、未知なものに触れる感覚を強く持ったと当時を振り返る。
- 3種類のテーマの中でも、特に異彩を放つのが「PLAYFUL FUND」だと臼井。PLAYFUL FUNDでは、各チームがチームとしてやってみたい遊びを発表する。そして全社員には、ひとり3票、共感した・一緒にやってみたい遊びに投票する権利があり、票を獲得した遊びには、1票につき1万円の予算が与えられる。
- PLAYFUL FUNDの重要なポイントは、その遊びの経験を半期ごとにしっかりと振り返り、発表することである。実践における気づきや困難さ、葛藤を共有することで、MIMIGURIが文化として大切にする「遊び心」や「実験性」に触れる機会として位置づけられている。
組織開発のコツは、“潮目を読む”こと
- 全体会を設計するにあたって、特有の難しさもあると臼井。組織の一人ひとりがいま向き合っている課題や向かうwillに対して個別に学びが起きることと、組織のビション実現に対して必要な学びをの両立が必須となるからだ。日々変化する組織の状態を俯瞰し、適切なプログラムを毎回アレンジして行うなかで、考慮すべき観点が多様にあるがゆえに判断に迷うことも多いと語る。
- こうした臼井の葛藤は、組織開発研究で昨今注目を集める「多様性」に関する議論とも通ずる部分があると、東南は指摘する。多様な人が所属する組織において、多様性を生かしながらも、組織の求心力を維持・向上させるにはどうしたらいいのか? という問題だ*。
- 先行研究**を紐解くと、組織の同質性に着目するモードと、異質性・差異性に着目するモードを使い分けながら、組織がよりよい方向に推進していくように「タッキング」することの重要さが指摘されている。ヨットの操縦者があらゆる角度から吹きつける風を巧みに利用して目的地にたどり着くように、組織開発の担い手においても、ある種の“潮目を読む”力が求められるのではないかと、東南は述べる。
全体会という“非日常”な体験を、日常のマネジメントに繋げるために
- 全社会の設計においては、多くの意思決定ポイントが存在する。たとえばプロジェクトに焦点を当てる「カンファレンス」であっても、プロジェクトオーナーが担っている葛藤に目を向けるのか、個人の工夫やナレッジに目を向けるのかでプログラムは変わる。組織の“潮目を読む”ために、何に着目し、どんな見立てを持つのか。精度を上げることが、自身の今後の学習目標だと臼井は語る。
- 月に一度の全体会は非日常的な場であり、お祭りのような遊び心のある場にしていきたい思いがある。しかし、ただ「楽しかった」で終わるのではなく、日常のマネジメントにより深く寄与する場にしていくことも実現したいと臼井。以前、CULTIBASEのイベントの中でも語られていたように、組織開発にも“ハレ(非日常)”的なアプローチと、“ケ(日常)”のアプローチの2種類があり、その両方の繋がりを強めていきたいのだ、と***。
組織開発としての「全体会」の今後
- MIMIGURIでは今後も、組織開発のアプローチとして全体会を実施し、探究を深めていく。特に、今回語られた、全体会をファシリテーションする際の「見立て」がどのように行われるのかなどの観点については、研究と実践の両方の観点から考察を深め、世の中にアウトプットしていきたいと東南は語る。
- 全体会の質によって、一ヶ月の過ごし方が変わるかもしれない──そのようなプレッシャーを感じながらも、「重たすぎず、楽しく」という企画のバランスを今後も大事にしていきたい、と臼井は語った。
参考文献
- *CULTIBASE『多様性がもたらす“弊害”にいかに向き合うか:組織開発によるアプローチ』
- **Wilson, S. R., Barley, W. C., Ruge-Jones, L., & Poole, M. S. (2020) Tacking Amid Tensions:
Using Oscillation to Enable Creativity in Diverse Teams. The Journal of Applied Behavioral Science.
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