デザインの実践と研究を一体として、チームの駆動力となる関係性を創り出す(メンバーインタビュー・瀧 知惠美)

  • 瀧知惠美

    エクスペリエンスデザイナー/リフレクションリサーチャー

  • 多摩美術大学情報デザイン学科卒業。東京藝術大学デザイン科修士課程修了。多摩美術大学、東海大学非常勤講師。ヤフー株式会社にて複数サービスのUXデザインを担当した後、UXの社内普及のためワークショップ型の研修やUX導入から組織浸透までの実務支援を主導。UX実践を成果へ結びつけるため、チームづくりのためのふり返りの対話の場づくりの実践および研究を行う。MIMIGURIでは、UXデザイン・サービスデザインをはじめとする事業開発を中心に担当。よりよいユーザー体験につながるモノ・コトを生み出すために、つくり手の体験も重要と考え、事業開発と組織開発の組み合わせ方を実践と研究の両軸を重視しながら探究している。

本インタビュー企画では、ミミクリデザインのメンバーが持つ専門性やルーツに迫っていくとともに、弊社のコーポレートメッセージである「創造性の土壌を耕す」と普段の業務の結びつきについて、深堀りしていきます。

第9回は、今月(2020年2月)よりミミクリデザインの新たなメンバーとなった、瀧知惠美( @takichi )にお話を伺いました。前職のヤフー株式会社では、UXデザイン推進活動を主導し、ワークショップ型の研修やUXデザイン導入の実務支援を行なってきた瀧。また昨年まで、東京藝術大学大学院に所属し、対話によるふり返りの方法論に関する研究活動にも取り組んできました。今回のインタビューでは、これまで企業とアカデミックを往復しながら精力的に活動してきた瀧から、企業に所属しながら研究する意義や、今後ミミクリデザインの一員として何を成していきたいのか、詳しく語ってもらいました。(聞き手:水波洸)

研究によってもたらされた、アウトプットの質的な変化

よろしくお願いします。まず単刀直入にお訊きしてしまうのですが、ミミクリデザインのどういったところに関心を持って、入社を決めたのでしょうか?

いくつかありますが、主なものとしては二つあります。一つは、仕事の中で研究ができる環境が魅力的だと思ったところ。もう一つは、ミミクリデザインが「事業開発」と「組織開発」という二種類の主な事業ドメインを、それぞれの独立したものとしてではなく、”両輪"としてとらえているところですね。

それぞれ順を追ってお伺いさせてください。まず一つ目の「仕事の中で研究ができる環境」という点に関してですが、瀧さんは前職のヤフーで働きながら、昨年まで東京藝術大学大学院で研究活動もされていました。通常のお仕事に加えて、研究活動にも関心を持ち始めたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

社会人3・4年目の時に、恩師である須永剛司先生の研究室とヤフーによる共同研究プロジェクトに参加させてもらったことが、研究活動に関心を持つ大きな転機となりました。「コトづくり(価値創造)の方法論の実践による検証」を目的としたプロジェクトだったのですが、体験をモデル化してサービス設計していくまでに、その体験の中にある人の行為や思考のエッセンスがいったい何なのか、深く考察したことが特に印象的でした。
もちろん、これまで私が取り組んできたお仕事でも、ユーザーがどう使うかイメージを膨らませたり、ユーザービリティを検証したりといったことはやってきました。ただ、それでも、毎週の研究議論を通して、体験のエッセンスを抽出してサービスの機能やUIに落とし込んでいくといった、普段の業務よりも一層深い思考プロセスに触れたことで、まだまだ自分の考えが浅かったことに気付かされました。

そして、須永先生らと一緒に研究に取り組んでいるうちに、それらの思考プロセスが自然と身についてきたのか、ある時ふと、同じ時期に担当していた別の仕事でのアウトプットのクオリティも変わってきたように感じた瞬間がありました。その時から「デザイン研究って、デザインの実践にも役立つのかもしれない」と思い始めたんです。

「研究」というと、アカデミックや研究機関の中での活動をイメージする人も多いと思いますが、瀧さんの場合は「業務に役立つための研究」のあり方を模索したいというのが出発点だったんですね。大学院ではどのような研究をされていたのでしょうか?

「チームづくりのためのふり返りの対話の方法と方法論の研究」というテーマで研究をしていました。ヤフーで関わらせてもらったプロジェクトチームなどで定期的にふり返りのワークを実施して、徐々にやり方をブラッシュアップさせながら、ふり返りの過程で何が起きていたのかを詳細に分析し、方法論としてまとめました。最後には専用のツールキットも制作しましたね。

なぜ「チームづくり」をテーマに選んだのでしょうか?

ヤフーではサービス開発を目的としたものを中心に、さまざまなプロジェクトに参画させてもらいました。その中で次第に「良い事業・良いサービスは、良いチームから生まれるのではないか」と強く思うようになっていったんです。

「良い事業・サービスは、良いチームから生まれる」というお話は、最初にミミクリデザインに関心を持ったポイントの二つ目として挙げていた、「事業開発と組織開発を両輪でとらえている」というところにも関連しそうです。

まさにその通りです。私のヤフーでの主な仕事の一つに、UXデザイン専門のアドバイザーとしてさまざまなプロジェクトに入り込んで、UXをプロジェクトメンバーの一人ひとりが深く理解し、チームや組織レベルで活用できるように支援していく取り組みがありました。5年以上続けてきたその取り組みの中で、うまくいったプロジェクトもたくさんあったものの、そうではないものも少なからず見てきました。一例を挙げるとすると、ユーザーへ提供する価値をチームでちゃんと見定めて、コンセプトとして決めたはずなのに、細かい仕様決めや開発に入っていくうちに、だんだん実装する機能要件の優先順位に対する認識がズレてしまって、大事だったはずの要件が落ちてしまう、などですね。
そして、そういった認識のズレが積み重なると、メンバー間のコミュニケーションや関係性が悪くなっていきます。とはいえ、そのサービスを提供し続けているかぎり、サービス開発も続けていかなくてはなりません。そういった難しい状況を何度も経験する中で、サービス開発をしながら継続的に良い関係性のチームをつくっていくにはどうしたらよいのか、研究してみたいと思ったんです。

大学院での研究活動を経た現在、「業務に研究がどう活きるのか」という点に関して、どんなふうに考えていますか?

デザインの実践を省察して、そこで起きていたことがいったい何だったのかのかをふり返り、その意味を考察していく研究が次のデザインの実践の質を上げていくことにつながるのではないか、と考えています。先ほど言っていただいたように、研究は大学や研究機関だけのものとされてしまいがちですが、だからこそ、個人的なビジョンとしては、「デザインの実践と研究を一体のものとして体現する」を掲げていきたいと思っています。実践と研究を分けずにやっていくことで、どのような相乗効果が生み出されるのか、具体的にまとめて発信しながら、研究がアカデミックの世界の人だけのものだという固定観念を、徐々に変えていきたいですね。

UXデザインの力で、関わる全員が同じ方向を目指すための関係性を構築する

ミミクリデザインでは、ワークショップを用いた組織の課題解決を得意としていますが、瀧さんはヤフーでも数多くのワークショップを実施してきたとお聞きしています。どのようなかたちで実践されていたのでしょうか?

ヤフーでは、UXデザインのノウハウを全社的に浸透させることを目的とした取り組みの一環として、ワークショップを実施していました。浸透されるまでのプロセスは、「ワークショップによる体験型学習」「業務での実践」「事例紹介セミナーで知見を社内に共有」の3つのフェーズによって構成されています。

一つ目の「ワークショップによる体験型学習」では、まず自分の仕事にUXを取り入れてみたい人を対象に、会社全体から参加者を募り、UXのノウハウを体系的に学べる体験型のワークショップを開催します。続く「業務での実践」では、実際にプロジェクトにUXを活用したい人の相談にのるようなかたちで、UXのアドバイザーとしてプロジェクトに関わりながら、そのチームが自分たちのちからでUXデザインをそのプロジェクトの中で活用できるように、サポートしていきます。その際にも、例えばチームメンバーでカスタマージャーニーマップを作成するなどの場面では、ワークショップの方法論を部分的に取り入れることがありました。
最後の「事例紹介セミナーで知見を社内に共有」のフェーズでは、プロジェクトが無事終了したあとに、そのプロジェクトがどのようにUXを用いたのかを事例として社内向けに発信します。そうすることで、その事例を見て、自分のプロジェクトでもUXを導入してみたいと思う人たちが出てくるので、またワークショップを開催して、学ぶ機会をつくります。あとは同じ流れのくり返しで、ワークショップで体験的に学んでもらい、実際に業務でUXを活用できるようにサポートし、そのプロジェクトが完了したら、事例として発信する...といったサイクルを回し続けることで、UXを実践できる人の数を社内で徐々に増やしていきました。 

その過程の中で個人的に大事にしていたポイントは何かありますか?

最終的にチームが自分たちの力でUXデザインを使えるようになって、自走できる状態になることをゴールとしていたので、たとえUXに関わることでも「やってあげる」ことはしないように心がけていました。案件の目的を確認したり、ターゲットを明確にしたりするお手伝いをしながら、チームの人たちが感覚を掴んでくるに従って、できる範囲でチームの人たちだけで取り組んでみるように促しつつ、私自身は次第にコミットメントを減らしていくんです。
その他には、UXデザインを業務に用いるフェーズでは、ペルソナやカスタマージャーニーマップなどの個々の手法だけを指して、「やってみたい」と相談を受けることも少なくなったのですが、本当にその手法が現在プロジェクトチームが抱えている課題感や制約条件に合っているかを吟味しながら、適したやり方をその都度一緒に考えながら進めていたところも、大きなポイントだと思います。

ミミクリデザインのクライアント案件に対するスタンスとも近しいものを感じます。ちなみに、素人目線でやや失礼な質問かもしれませんが、ミミクリデザインの普段の業務にUXデザインはどのように活用可能なのでしょうか?

私もつい最近まで「ひょっとしたら、もうUXは使わないかもな」と思っていました(笑)だけど、さまざまな案件に少しずつ関わらせてもらう中で、ワークショップデザインにもUXのエッセンスを取り入れる余地は、ものすごくあると感じています。

どういった点でそう思いますか?

もっとも基本的なところで言えば、ワークショップを設計する上でも、「参加者はどんな人たちなのか?」と、ターゲットユーザーを意識した視点から考えることはとても重要だと考えています。例えば、中高生をターゲットとしてワークショップをチームで設計する時も、普段どんな行動をとり、どんな考え方をする生徒たちなのか、具体的なイメージの共有ができてないと、軸がぶれてしまいます。

チームの足並みが揃わなくなる、ということでしょうか。

それもありますし、クライアントとワークショップの方向性や具体的な内容の認識合わせをする際にも、ターゲット像を明確にしておくことは大切です。そしてなにより、参加者のイメージを明確に把握しているかどうかは、ワークショップ終了後にその結果を分析する時の精度を大きく左右すると感じています。想定通りにうまくいく実践もあれば、そうではない実践も当然出てきますよね。そうした時にターゲットが明確であれば、結果を踏まえた上で、ワークの中でうまく機能した部分、機能しなかった部分とその理由を判断しやすくなります。例えば、うまく機能しなかった部分があっても、その理由にチームメンバーが納得できていれば、チームとして次に何をすべきかの判断も認識が揃いやすいので、素早く次のステップへ進めます。その意識は今後も大事にしていきたいですね。

事業のための組織をつくり、組織のための事業をつくる

今後組織の一員として関わっていく中で、ミミクリデザインが理念として掲げている「創造性の土壌を耕す」について、現時点でどのような印象を抱いていますか?また、その理念に対して個人的にどう取り組んでいきたいと考えているか、思うところがあれば教えてください。

「創造性の土壌を耕す」という言葉を初めて聞いた時の印象としては、「いろんな意味で捉えられそうな言葉だな」と思いました。その上で、私自身はこの言葉をどのように解釈しようかと考えてみたのですが、チームの創造性に着目して、そのための土壌を耕していくような活動ができればと思っています。チームでやるからこそ生まれる新しい発想や、あるいは別の何かを、大事にしていきたいです。
専門性の異なる人々が集まると、どうしても共通言語が見つからない状態からスタートしなくてはならない場合もありますよね。そうした時に、チームがお互いの専門性や考え方を理解して、そのメンバーがチームを組んだからこそ発揮できるクリエイティビティを生み出していけるように、サポートしていきたいです。ミミクリデザインの理念と自分の中の興味関心を紐づけるとすれば、そんなふうに捉えられるかな、と思っています。

ありがとうございます。そのための具体的なアクションは何か想定されているのでしょうか?

実はまだ所属するチームを検討している段階なので、あまりはっきりしてたことは言えないんですよね(笑)ただ、ミミクリデザインは事業開発と組織開発の両方を扱っていますが、そういった領域による枠にとらわれすぎず、横断的にやっていきたいとは思っています。冒頭で話したように、良いサービスを生み出すためには良い組織が土台として必要で、事業開発と組織開発は相互に関連し合っています。事業開発のための組織開発に取り組んだり、逆に、つくり手がワクワクするような事業のビジョンづくりなど、より良い組織につながるような事業開発にも取り組んだりしていけたらと思っています。組織と事業の関係性を意識しながら、さまざまななかたちで関われたらいいですね。

研究活動に関してはいかがでしょうか。今後取り組んでみたいテーマは何かありますか?

「チームづくりのためのふり返りの対話の方法」に関する研究は、継続して取り組んでいきたいと考えています。また今後は、チームづくりに寄与するように..という面も維持しながら、実践知に気づき、次の展開への駆動力を生み出す方法としても探究していきたいですね。それをミミクリデザインのクライアント案件を対象にもやってみたいし、WDAで研究会をやってみるのも面白そうです。あとは、中・長期的な目標として、私自身がデザインの実践と研究に取り組むだけでなく、他にもデザインの実践と研究に取り組むデザイナーが増えていって、彼ら・彼女らがさらに質の高いデザインを生み出していくような世界をつくっていけたらいいなと思っています。

ご活躍、楽しみにしています!ありがとうございました。

ありがとうございました。

  • Writer

    水波洸

  • Photographer

    猫田耳子