不確実性に一歩踏み込み、変化と学習を生み出す組織開発のプロセスに伴走する(メンバーインタビュー・遠又圭佑)

  • 遠又圭佑

    ファシリテーター/コンサルタント

  • 慶應義塾大学法学部法律学科卒業。MIMIGURIでは、イノベーションプロジェクトの責任者を務め、人・組織・社会の変容にファシリテーターとして伴走している。R&D部門や新規事業部門に出向し、ハンズオンでボトムアップ型の事業・組織づくりを推進することを得意としている。CULTIBASEでは組織学習に関するコンテンツを担当。MIMIGURIに入る以前は、日系企業再生コンサルティングファームにて、再生対象企業の事業計画策定、経営企画機能の整備、資金繰り管理等に従事していた。北海道東川町在住。

本インタビュー企画では、ミミクリデザインのメンバーが持つ専門性やルーツに迫っていくとともに、弊社のコーポレートメッセージである「創造性の土壌を耕す」と普段の業務の結びつきについて、深掘りしていきます。

第五回はミミクリデザインでは主に組織開発・人材育成に関するクライアントワークを担当する遠又圭佑( @keisuketohmata )です。インタビューを通して、「組織開発に繋がる“変化”をいかに生み出すか」といった点について、クライアントとの関係性やコミュニケーションのあり方の観点からお話を伺いました。ぜひご覧ください。(聞き手:水波洸)

「目に見える成果」と「目に見えない変化」の両面から組織のあり方と向き合っていく

よろしくお願いします。遠又さんは主にワークショップを通じた組織開発や人材育成を担当するチームを主導されていますよね。具体的にどのようなことをされているのか、概要を説明していただいてもよろしいでしょうか?

遠又はい。同じチームの和泉裕之とともに、部門統合や市場環境の中・長期的な変化に直面したクライアント企業が、今後組織をどう変えていくと良いのかをじっくり問い直せるようなプロジェクトを設計し、数回のワークショップを通じて伴走しています。アウトプットとしては、新たなビジョンや経営理念、戦略、業務プロセス、スキルの獲得など様々です。思いやビジョン、戦略、日々の業務、外部環境などの各要素が不調和を起こしている時に、課題に応じて、それぞれを問い直し、再定義するのをサポートするイメージです。

組織開発や人材育成の案件が、他の領域の案件と異なっていると感じる部分は何かありますか?

遠又そうですね...。組織開発・人材育成は、最初の課題が曖昧な案件が多い領域だと感じています。例えば、「組織の大きな変化のタイミングだから、新しいビジョンを作りたい」と「できれば数十人の部門全員が協同的に作り上げたい」という2点だけはぼんやり決まっているものの、それ以外は特に...といった状態で依頼を頂くことも珍しくありません。
「ビジョンを作ることによって組織がどう変わってほしいのか」や「なぜ数十人全員でつくることを大事にしたいのか」と聞いてみても、どうもはっきりしない。はっきりしないというか、確固たる理由なんておそらくなくって、「なんとなくその方がいいんじゃないか」と感じているに過ぎないのだと思います。
安斎さんがインタビュー記事で話していたように、ミミクリデザインは「衝動」を大事にする社風ですが、僕自身にとっても、プロジェクトの中で組織の学習サイクルを回し続けることで、そうしたクライアントの衝動を形にするお手伝いができたらいいなと、いつも思っています。

「学習のサイクルを回す」というのは具体的にどのようなプロセスを指しているのでしょうか?

遠又「ビジョンを(経営層だけでなく)メンバー全員で作りたい」という漠然とした思いがあったとして、まずは「なぜ全員でつくることが重要なのか」をヒアリングして、その背後にある思いや、組織の今の状況に対して、暫定的な仮説を立てます。案件にもよるのですが、その後はインタビューリサーチなどの手法も組み合わせながら、ワークショップを通じてクライアントと一緒に仮説をブラッシュアップしていくケースが多いですね。
ワークショップによってメンバーの個々の思いが表出されたことで新たな気づきが生まれて、そこからまた新しい仮説が生まれて...という学習サイクルを回していくイメージです。

プロジェクトを進めていく際に、良し悪しの指針としているような価値観があれば、教えてください。

遠又僕らがクライアントの組織開発や人材育成のプロセスに伴走する際には、「目に見える成果」と「目に見えない変化」の二つの視点を両方とも大事にできているかどうかを、重要な指標としています。「目に見える成果」というのは、すなわち最終的にクライアントに提示する成果物のことです。ワークショップを通じて再定義したビジョンやCI(コーポレート・アイデンティティ)、新規事業のコンセプトなどがそれにあたります。
そしてその一方で、最終的なアウトプットには残らないかもしれないけれど、そこに至るまでのプロセスの中で、組織やチームにもたらされた「目に見えない変化」も必ずあると思っています。例えば、日常の仕事では聞く機会のない、お互いの仕事に対する価値観やこだわりを聞き合って、会社と自分と繋がりが変化するなどが挙げられます。

「目に見えない変化」を起こす上で、何か心がけていることはありますか?

遠又これはワークショップのファシリテーションをする際に個人的に大事にしているポイントなのですが、「まずは僕自身が変化の中に飛び込むことで、ワークショップに参加するクライアントたちが、できる限り良い変化のプロセスの中に身をおけるようにしたい」といった部分にこだわりを持っています。
ワークショップでは、構造的に組み立てられたプログラムを事前に準備してから当日場に臨みますよね。だけど一方で、「結果的にお客さまに良い変化をもたらせるかどうか」といった点に対してベストを尽くせていないと感じるのなら、構造的に組み立てられたプロセスを多少崩したとしても、誰も予想のつかない方向に踏み出していった方が良い場面もあると考えています。
そしてその時は、ファシリテーターである僕自身が、予定調和的な雰囲気を崩して、率先して変化の中に飛び込んでいくのが良いと思っています。参加者の人たちがそれに続くようなかたちで、いつもとは違う「変化に身を置く感覚」を一緒に経験して楽しめたらと。仲間には「暴れ馬ファシリテーター」と呼ばれることもありますが(笑)

課題設定から伴走し、クライアントの創造性の土壌を耕す

遠又さんは新卒で経営コンサルティング会社に入社されたのち、その後フリーランス時代を経て、1年前の2018年の6月頃にミミクリデザインにジョインされていますよね。前職ではどのような業務を担当されていたのでしょうか?

遠又前職の経営コンサルティング会社では、主に事業再生の案件を担当していました。例えば、このままいけば3ヶ月後には資金が不足して、潰れてしまうような状況の企業があるとしますよね。そういった企業が金融機関から支援を得られように、事業計画をまとめ、その後の実行を支援するような仕事をしていました。

その時培ったスキルや価値観のなかで、今の業務に活きているものはありますか?

遠又経営や事業の全体を捉えて、構造を整理するスキルは今も活きていると思います。あとは、事業再生というシビアな局面でミスの許されないプロジェクトを担当する中で、双方が納得のいく解を見つけるまで、根気強く意見をすり合わせて、試行錯誤を繰り返してきたこともあり、そういった様々なステークホルダーと密なコミュニケーションを取り続けるための基礎体力は身についたかなと感じます。
価値観の面でいうと、前職ではたとえ本当に厳しい局面にいるクライアントに対しても誠実に向き合い、思いの込もったプロジェクトにしていこうとする姿勢が大事にされていて、その価値観はミミクリデザインに所属する今でも、変わらず大切にしていきたいと思っていますね。

その後ミミクリデザインに参画するまでの経緯を教えてください。

遠又まず安斎さんと知り合ったのは、大学卒業間際の2011年に「FLEDGE*」に参加したのがきっかけでした。そのあと少し間が空いて、2017年に共通の知人の結婚式で再会して、お互いの仕事について近況を報告し合ったら、「日常やいわゆる“現場”で行われる話し合いのファシリテーションってなんなんだろう?」というテーマで研究会を開くことになって...。そしたら「もうちょっと手伝ってくれないか」と言われて、そのままずるずると深い部分まで関わっていくことになりました(笑)

*FLEDGEとは
ミミクリデザイン代表の安斎が講師を務める大学生向けのワークショップデザイン勉強会。NPO法人Educe Technologiesの社会貢献事業として、これからの社会で求められる学びと創造の場作りの担い手の育成をミッションとしている。

ミミクリデザインに関わり始めた当初は、安斎さんからどのような役割を期待されていたのでしょうか。

遠又「クライアント案件を回せるような人を探している」というのと、あとは「ミミクリデザインがカオスすぎるから秩序をもたらしてくれ」と言われました(笑)

入ってみてどうでしたか?(笑)

遠又カオスでしたね(笑)

なるほど(笑)クライアント案件に取り組む中で、印象に残っている場面などあれば教えてください。

遠又ミミクリデザインに入ってすぐの話なのですが、「イノベーションを起こしたいけど何が問題かわからないし、どうすればいいかもわからないから、やり方を教えてください」といった趣旨で依頼を頂いたことがありました。以前のコンサルの時のスタンスだと、「教えてください」と言われたら、クライアントが必要としている情報を求められるがままに提供していたと思います。だけど安斎さんが、細かい言い回しは忘れましたが、「これまで自分たちで考えたこともあるでしょう。まずはそれを教えてください」と突き返していて。なんというか、痺れましたね。「そこはそういう対応なんだ!」と思いました。
その時の、答えを求められても「ちょっと一緒に考えてみようよ」と逆に声をかけて、一緒にプロジェクトに取り組む関係を作っていく安斎さんの姿勢は、ミミクリデザインのメンバーとして仕事をする上で、僕にとっての原風景になっています。だから最近では、安易に答えを求められた時に、「僕にもわかりません」と言うようになりました。「わかる部分もありますが、この部分はわかりません。だから、一緒に考えてみましょうよ」って。

遠又他に印象的なシーンを挙げるとすると、最近クライアントから、チームを褒めていただけることが増えていて、素直に嬉しいと思っています。「ミミクリデザインのチームと一緒にプロジェクトを進めていきながら、そのマインドやカルチャー、雰囲気をもっと自分たちも体得していきたいです」と言ってくださる。時にはひと回りもふた回りも違う人たちと、受発注の関係を超えた感情的な繋がりを築きながら、より良い方向に変化にしていくためのプロセスに伴走できるというのは、幸せなことだと思いますし、そういうプロジェクトをもっと作っていきたいなと思います。

それは、ミミクリデザインが掲げる、「創造性の土壌を耕す」というコーポレートメッセージを象徴する場面のようにも思えますね。

遠又まさにだよね。あれも痺れるよね。「創造性の土壌を耕す」というメッセージに関連したエピソードとしては、「ワークショップのスキルや方法もそうなんですけど、マインドや哲学も一緒に社内で育てていきたいんです」と語ってくださった方がいて、その時「ミミクリデザインってやっぱり面白いことやってるよな」と改めて思いました。会議や単発のワークショップのファシリテーションでは、なかなかそこまでの変化を起こすのは難しいので、ある程度長期のプロジェクトとして進めていく必要があります。そしてそうしたやり方は、ミミクリデザインが組織だからこそできる、創造性の耕し方なんじゃないかと思っています。

日常に寄り添った変化や気づきを「感情」と「論理」の往復によって生み出していく

安斎さんも先日のインタビュー記事の中で、遠又さんを“組織に対して緻密に丁寧に人間臭く関わりながら、戦略的に組織変革に伴走していくことを得意とするファシリテーター”と紹介していましたね。それについてはどう思いましたか?

遠又言われてみれば、確かにそういうことを大切にしている気がしますね(笑)正直な話、ワークショップのファシリテーションに限って言えば、僕よりも経験豊富で、能力的にも優れているメンバーも多いと思っています。そうした中で、じゃあ自分はどうやってチームに貢献していこうかと考えた時に、ワークショップ当日ではなく、プロジェクト全体を通してクライアントの日常に寄り添いながら変化を促していくアプローチにこだわりたいですね。
ミミクリデザインでは、ワークショップを中心としたプロジェクト設計を主としているので、クライアントが普段過ごしている日常の中に、ワークショップという非日常な体験を埋め込むケースが多いんですよね。その上で、圧倒的に優れた非日常的な体験を提供するのも一つの有効な貢献の仕方だとは思いますが、僕の場合はクライアントの長期的な変化を見据えながら、組織が無理なく、だけどより良い方向へと変化していけるような非日常的な体験を差し込んでいければと思っています。

なるほど。「クライアントの日常に寄り添いながら」となると、具体的にどのようなコミュニケーションプロセスとなるのでしょうか?

遠又まず前提として、こちらで作り上げたものを押し付けるように提出するのではなく、構想の段階から綿密に打ち合わせを重ねていこうとする意識が強くあります。チームメンバーからは、「(クライアントの意見に耳を傾けすぎてると)向こうの良いように飲み込まれちゃいますよ」と言われることもあるのですが、飲み込まれそうになって初めて、(ミミクリデザインとして)飲み込まれたくないと思える大事なものが見えてくることがあるんですよ。その新たに見えた大事にしたい何かをきちんと言語化して、クライアントにしっかりと伝えると、今度はクライアント側が、それに触発されるかたちで、自分たちにとって失くしてはならない大事な部分に気づいたりして...。
中・長期的なプロジェクトにおいては、ワークショップ当日だけではなく、その周辺にも様々なドラマがあります。今はそのドラマを楽しみながら、日々取り組んでいる感覚がありますね。

これまで話を聞いてきて、組織における「変化」や「学習」といった目的に対して、論理的にプロジェクトを進めていきながらも、他方でロジックでは説明のつかないような感情的な部分ともしっかりと向き合うことを大事にされていますよね。その二つの性質の優先順位が固定的なのではなく、状況に応じて流動的に入れ替わっているというか。その辺りは意識して使い分けているのでしょうか?

遠又論理的な部分に関しては、元々そういう思考性が強いのもありますし、前職の経営コンサルティング会社のころに鍛えられた部分もあると思います。感情的な部分に関しては、(ミミクリデザインの)他のメンバーに感化されたところが少なからずありますね(笑)。この組織には良くも悪くも自分の感情に素直な人が多いので、彼ら・彼女らの振る舞い方に触発されて、僕自身の感情的な部分が引き出されていく感覚があります。
もちろん、誰もが感情のままに突っ走ると取り返しのつかないカオスな状態になってしまうので、ある程度の自制は必要です。だけど一方で、「どれだけぐしゃぐしゃになっても、なんとかロジックで乗り切っていけるだろう」といった根拠のない自信もあるんですよね(笑)明確に使い分けているイメージはあまりないのですが、そういった漠然とした感覚はあります。

遠又効果的な学習のあり方は、人によって、企業によって、異なります。企業の中でも、部門によっても違うと思います。クライアントの日常に寄り添いたいというのは、できる限りその人に合った学習プロセスを生み出していきたいという思いの表れなのかもしれません。また、論理と感情のあいだを流動的に揺れ動いているのは、変化の中に身を置こうとするなら、やはり様々な角度やレイヤーから物事を見つめる視座を持つことが重要だから、という意味づけの仕方もできそうです。プロジェクトを通して、変化や不確実性に慣れて、飛び込んでいけるための身体づくりを、学習サイクルを回すことで実現できたら良いですね。

ありがとうございます。最後に何か、今後の目標や展望、野望などがあれば、お願いします。

遠又そうですね...。今の組織体制上では、組織開発・人材育成を担当する僕らのチームと、小田が率いる商品開発のチーム、そしてWDAの運営やリサーチを担う東南のチームに分かれているのですが、それらの垣根を超えたコラボレーションを起こしていきたいなと思っています。商品開発のプロセスを通して実際の商品やブランドが生み出される活動の中でもたくさんの学びが起こっているはずで、その学びを個人や組織としての学習サイクルと紐づけながら、より大きな変化を生み出していきたいですね。
あとは、もう少し長期の目標としては、僕は、国連でワークショップをデザインするのが夢なので、それに向かって邁進していきたいです。冗談抜きで、今のミミクリが大切にしている、ワークショップを通してコラボレーションを生み出す手法や哲学は、世界のいろんなところできっとこれからも求められると思っています。そこまでスケールを広げて、やっていきたい。...とはいえ目先にもいろんな課題があるので、一個一個丁寧に向き合って解決しながら、成長していきたいなと思ってます。野望としてはそんな感じです!

めちゃ良い野望だと思います。ありがとうございました!

  • Writer

    水波洸

  • Photographer

    猫田耳子