軍事的世界観から冒険的世界観へ。3,200人以上が登録・視聴した『新時代の組織づくり』ウェビナー開催レポート

  • 安斎勇樹

    Co-CEO

  • 東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。現在は東京大学大学院 情報学環 特任助教を兼任。博士号取得後、株式会社ミミクリデザイン創業。その後、株式会社DONGURIと経営統合し、株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEOに就任。経営と研究を往復しながら、人と組織の創造性を高めるファシリテーションの方法論について探究している。主な著書に『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』、『問いかけの作法:チームの魅力と才能を引き出す技術』、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』、『ワークショップデザイン論』などがある。

MIMIGURIは、2023年6月27日、安斎勇樹(株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO / 東京大学大学院 情報学環 特任助教)によるヒトと組織に強い経営人材になるための『新時代の組織づくり』オンラインセミナーを開催しました。

3,200人(当日参加者・アーカイブ配信視聴者合計)以上のご登録・ご視聴いただき、アンケート回答では総合満足度98.6%(TOP2回答|とても満足している64.1% 満足している34.5%の集計値)と大変ご好評をいただきました。※登録人数は2023年7月末日時点

本記事では、ウェビナーの内容と視聴者の感想をご紹介します

ヒトと組織に強い経営人材になるための『新時代の組織づくり』ウェビナー

昨今、社会が大きく変化し、企業経営や組織マネジメントの在り方の変革が求められています。しかしながら、事業・組織・人材の課題に対する処方箋は機能的に分断されていていて、総合的な見取り図がない状況です。

旧来的な組織づくりと現代(新時代)の組織づくりの違いは何か? どのような手順とアプローチを用いれば、旧来型の硬直化した組織を変革し持続的に発展する組織づくりができるのか。

本セミナーは、組織の創造性について長年研究してきた安斎勇樹が、これからの時代環境に適した人と組織の可能性を最大限に活かしながら多角的事業の成果を高める「組織づくり」の方法について、羅針盤となる思想・理論・実践方法の3部構成で概説しました。

前提となる思想:軍事的世界観から冒険的世界観へ

いうまでもなく、人間や社会の価値観は大きく変化しています。例えば、個人のキャリア観をみても、新卒で入って定年まで働くという「会社中心のキャリア観」を持つ人は減り、複数の仕事や副業、地域の活動などを行うことで、幸せな人生のためにどうありたいかという「人生を中心としたキャリア観」に変化しています。また、資本主義が問い直され、競合と競争して領地を奪い合うような価値観から、よりよい社会の可能性を探求するために仲間と共創するよう、事業の考え方(事業観)も変わっています。チームや組織も、計画に基づいて効率的な目標達成を管理する「管理型組織」から、不確実な社会に価値を生み出すべく現場が創造性を発揮し、理念を探究する「創発型組織」へ向かっています。

これらの変化を総称して、MIMIGURIでは「軍事的世界観」から「冒険的世界観」への世界観のパラダイムシフトが起きつつある、と捉えています。

人間と社会の価値観の変化にともなって、経営やマネジメントの方法論を「冒険的世界観」に基づく方法にアップデートしていく必要があるのです。ただし、手段としての強さや戦いを完全に放棄するわけではありません。前時代に築き上げた軍事的方法論は、不確実な世界を航海するための資産として、賢く活用していけばよいのです。

前時代の組織論「整合性モデル」の理論的課題

まだ軍事的世界観が支配的であった20世紀後半の組織づくりの理論として「整合性モデル」が知られています。このモデルでは、企業は資源のインプットから効率的に業績をアウトプットするための「スループット」として捉えられています。戦略に基づいて「業務」が適切に設定されていても、「人材」のスキルが足りなければ遂行できない。かといって突貫で「人材」を補強しても、これまでの「公式組織」の構造と噛み合わない。……などと、まるで“ベルトコンベア”の不具合を改修するように組織の各パーツの「整合性」をとっていくのが、前時代の組織づくりの考え方でした。

組織の整合性を保つことは、新時代においても引き続き重要です。しかし冒険的世界観を体現する組織づくりでは、組織を“ベルトコンベア”ではなく意志を持って「社会的価値」を探究する“生き物”のように捉えたほうが本質を捉えやすくなります。そして同時に、組織を構成する一人ひとりの人材が、100年続くキャリアの中で絶えず「自己実現」を探究する学び手として捉えることが必要です。組織の社会的価値の探究と、個人の自己実現の探究をいかに整合させるか。これが新時代の組織づくりの究極の命題です。

冒険の基盤になる「自己実現の探究」とは何か?

ところで、新時代の組織づくりの重要キーワードとして登場した「自己実現」とは、一体何をすることでしょうか。自己実現をシンプルに図解するならば、他者に期待されることや喜ばれることといった「外的価値」と、やりたいことや興味のあることといった「内的価値」の2つが、うまく両立し整合している状態です。

しかし、この両立状態は長く続きません。現状に飽きて内的動機が変化したり、外部環境が変わり求められることが変化するからです。そうすると再び新しい両立の仕方を「探究」する必要があります。これを繰り返すことで、人間はアイデンティティ(自分らしさ)を変化させていきます。

MIMIGURIが目指す新しい整合性モデル

以上を踏まえて、MIMIGURIは“組織づくり”を【組織の構成要素を整合させ続けることで社会的価値の探究と、自己実現の探究を両立させること】と定義し、それを体現する新時代の整合性モデル“Creative Cultivation Model(CCM)”を提案します。

組織づくりの要は、図中央を縦に走る「探究の整合」のライン(黄色)です。最上部の「社会的価値の探究」と下部の「個々の自己実現の探究」を整合させることが冒険的世界における命題ですが、これは組織が少人数のうちはまだしも、規模が拡大するほど全メンバーで整合させることが困難になります。

そこで、価値を支える「事業ケイパビリティ(他社には真似できない得意技)」の探究のレイヤー、そして共同体としての拠り所になる「組織アイデンティティ(私たちは何者なのか)」の探究のレイヤーを挿入することで、間接的な整合性の可能性を拡げています。それらを、機能的な整合を支える「構造の整合性」(図左・青色)と、精神的な整合を支える「文化の整合性」(図右・赤色)の両面から整合させること。一見すると変数が多く複雑ですが、組織規模が拡大した多角化経営のフェーズにおいては、経営の変数を「事業」「組織」「職場」のレベルで俯瞰しながら整合させることが、現代経営には求められるのです。これが冒険的世界観を実現するための新時代の組織づくりの羅針盤“CCM”の全体像です。

役職や立場によっては、新時代の整合性モデルの変数を全て動かすのは難しいかもしれません。本セミナーでは経営層やマネジメントレイヤーの方に多く参加いただいるため、そういった方へ向けたモデルになっていますが、現場で働く方もご自身の視座でモデルに当てはめ「自分の組織で欠けている部分」「現場から変化を生み出せそうな箇所」を見つけ出してみてください。 

MIMIGURIはかねてよりCreative Cultivation Model(CCM)として、個人の探究と組織として社会的価値を探究することを対話でつなぐ、有機的な組織モデルを提唱していました。本セミナーでは、人と組織の可能性を最大限に活かした新しい多角化経営モデルとして、新時代の整合性モデルCreative Cultivation Model(CCM)を提案します。

新時代の整合性モデルは、客観的な診断ツールではなく、あくまで対話のためのツール です。どこにズレがあるのか、現状を各々が見立てて共有するところから始まります。

全社総会の設計に命をかける。MIMIGURIの実例から

では、実際にどうやって組織を作っていけば良いのでしょうか。例えば全社総会のような場は、組織文化の縮図です。逆にいえば、全社総会に工夫をこらすことが組織文化の醸成に直結します。リーダーが一方的にプレゼンテーションし統率するだけでは軍事的文化になります。冒険的文化では、全員で「対話」をし感情を共有する時間が必ず必要です。そのためには年間計画に組み込み、全社員の時間を確保することも重要です。

MIMIGURIでは、1ヶ月ごとに5時間の全社会を設け、以下のローテーションで実行しています。全ての会で対話の時間はありますが、1ヶ月目(クォーターの始まり)はCxOがビジョンを話すことを特に重視し、2ヶ月目はメンバーの内的動機の爆発、3ヶ月目は顧客の感想をいただき自分たちを見つめ直す…… といったルーティンが年間計画に入っています。


総合満足度98.6%を達成。視聴者アンケートレポートより

ウェビナーには、大企業やメガベンチャー、スタートアップなどの経営者やミドルマネージャー、教育や医療など公的機関の皆さま、フリーランスの方など、幅広い業種・職種の方にご参加いただきました。ご登録いただいた方のうち約40%にあたる1,180名の方にアンケートに回答いただきましたので、その一部をご紹介します。

総合満足度は98.6%(5段階評価の上位2 合計値|とても満足している64.1%、満足している34.4%)と、大変高い評価をいただきました。

内容に対する共感度は97.5%(5段階評価の上位2 合計値|とても共感できた62%、共感できた35.5%)と、こちらも多くの方に共感いただいています。

参考になった度合いは97.5%(5段階評価の上位2 合計値|とても参考になった62%、参考になった35.5%)と、こちらでも多くの方に参考になった・具体的に活用できそうと評価いただいています。

実際の声より

“組織の課題の解像度を高めるために、新時代の整合性モデルを活用して対話する…というのは非常に有効だと感じました。 思想、理論と段階を追って説明をしていただけたので、腹落ち感がありました”
“内的動機に蓋をかけている状態にあるメンバーが多いため、知りたいことがギュッと詰まっていました。事例とめちゃくちゃわかりやすかったです。組織アイデンティティは、本当に重要ですね”
“ウェビナーの内容を自社の課題に落とし込めると感じた”
“新時代の整合モデルでの、個人と組織の間の階層構造がかなりクリアになりました。少なくとも実際に使えるレベルでの粒度にはなっていて、実践的にモデル自体の改善も含めたアクションが取れそうでした。”
“組織成果と自己実現の両立に関して我々も取り組んできましたが、レイヤーを細かく分解し、社会的価値・事業ケイパビリティ・組織アイデンティティ・個々の自己実現とされているのがとてもわかりやすく実践しやすく感じました。活用していきたいです”
“組織づくりにおいて、個々の自己実現の探索をあきらめないことが大事という部分に大変共感しました”

MIMIGURIによる新時代の整合性モデルが多くの参加者の皆さまに共感いただけたことは、これまでの組織づくりに課題を感じている経営層の方々が多いことの裏返しだと捉えています。私たちは、本ウェビナーでお話したような人と組織の可能性を活かした新しい経営モデルを基盤に、これからも、組織と社会の創造性の土壌を耕していきます。

一方で、厳しいお声として「ボリュームが多くて消化しきれない」といった内容も複数いただいたため、アーカイブ配信と資料を再度ご覧いただくことで、多くの方々に「新時代の組織づくり」について深く知っていただき、実際の組織づくりに活かしていただければと考えています。


アーカイブ配信と特別補講のお知らせ

Zoomウェビナーによる無料のアーカイブ配信は、2023年7月末日をもって終了いたしました。

現在は、CULTIBASE Lab(月額2,980円)に会員登録いただくと全編をご覧いただけます。講義資料もアーカイブ視聴ページにてダウンロード可能です。なお、CULTIBASE Labに初めてご登録いただく方は10日間無料でお試しできますので、この機会にぜひ登録をご検討ください。

また、まずはどんな内容か確認したい方や、登録するのが億劫な方のために、YouTubeにて前半約30分の公開を開始しました。ウェビナーは思想編、理論編、実践編の3パートからなりますが、YouTubeでは思想編までを公開しています。

最後に、本ウェビナーはあくまで概論を解説するものであるため、ひとつの理想論として捉えられてしまったり、実際に組織づくりに活用するイメージが湧くまでには至らなかったりすることもあるかもしれません。そこで、CULTIBASE Lab会員限定で、『新時代の組織づくり・特別補講』として、より実践的な内容をお届けする講座を公開しています。

改めまして、『新時代の組織づくり』ウェビナーに多くのご登録・ご視聴ありがとうございました。

  • PR / Editorial

    二宮みさき