「ほしいに、ねがいを。」未来の“再会”ストーリーから逆算する、ガシャポンのリブランディング。

Point

  1. バンダイらしい遊び心で、「ありたい姿」をカプセルに込めるワークを設計。
  2. ユーザーの行動変容を、ブランドとペルソナの“再会“から逆算。
  3. 「ガシャポンさん」の擬人化により、表出した意味と特徴からブランドロゴを共創。

2017年以降、右肩上がりに成長し続けるカプセルトイ市場。月刊トイジャーナルの調査によると、その市場規模は2020年に400億円に達したと言います。一般的に「ガシャポン」とも呼ばれますが、実はこの名称は株式会社バンダイ(以下、バンダイ)の商標。他社のカプセルトイとは差別化するためのブランド名として1982年に商標出願し、1985年に登録されました。

2022年、ガシャポンの誕生45周年を迎えることを機に、「これからの50年の方向性を定めるブランドステートメントを策定したい」と始まったのが、今回のプロジェクトでした。

カプセルに込める、「ガシャポンのありたい姿」。

ガシャポンは、高い市場シェアなどこれまで培ってきたブランド資産がある一方で、ブランドの「ありたい姿」を部署内の共通イメージとして高めていきたいという課題がありました。そのことから、初めにバンダイベンダー事業部 事業開発チームマネージャーである近藤創さんが語ったのが、「45周年に向けて、社員を巻き込みながら対話するプロセスで決めていきたい」というインナーブランディングへの思いでした。

MIMIGURIはその思いに応えるため、組織を縦と横でくまなく交差する対話をデザイン。ブランドと事業部、それぞれの「ありたい姿」や「あってほしい姿」を部門長からヒアリングし、その思いを汲み取りながら管理職間での対話を行います。そして部門内の全員を対象とするアンケートも合わせて行うことで、プロジェクトの机上に全員の意見が漏れなく挙がるプロセスを設計しました。

続いて部門内向けのスローガンを生み出すために取り掛かったのは、構成要素を抽出するワークショップ。事業部の管理職社員一人ひとりがガシャポンとの思い出や「やってみたいこと」を語り、ブランドのアイデンティティを探ります。ここで「楽しいときを創る」バンダイらしい遊び心のある言語化ワークとして、ブランドと「事業部の私」の関係について、ありたい姿を比喩で表しカプセルに込める「カプセルパッキング」を、オンラインのホワイトボード上で行いました。

「全国民が経験するブランドに」「私たちは刹那をデザインしている」「ワクワクの総合商社」──カプセルに込められた心踊る思いを、MIMIGURIは抽象度を高めて類型化。要約と引き換えに失われるものが無いよう、生の語り言葉も併記し、打ち出すメッセージの核を探りました。

まずブランドが向かうべき方向性として定まったのが、「ワクワクを提供し続けることで、ガシャポンを世界の当たり前にする」というブランドビジョンでした。そしてMIMIGURIとバンダイが対話を重ねるうちに、プロジェクトは内部向けのスローガンから「子どもにも伝わる、ユーザー視点のキャッチーなコピー」の開発へとリフレーミングが起きました。

ユーザー、業界課題、そして社内メンバー。対話から生まれた言葉をターゲット別に整理する中で、MIMIGURIはガシャポンを象徴するピュアな“遊びの性質”に着目。欲しいものが気軽に手に入る便利な時代に、何が出るかわからないドキドキ感を、「ほしいに、ねがいを。」というタグラインで表現しました。

ユーザーの行動変容を、ブランドとペルソナの“再会”から逆算する。

プロジェクトは、ロゴの開発へと発展していきます。MIMIGURIは形やモチーフなど視覚的な仕様を検討する前に、与えたい印象や宿らせたい意味の対話からスタート。ブランドが想定するターゲット像をもとに具体的なペルソナを作り出し、「現在」と「15年後の再会」という異なる時間軸でブランドと接触する体験を想像するワークショップを行いました。

ここで“再会”のメタファーを用いた理由を、MIMIGURIコンサルタントの濱脇は「ブランドを認知しながらも購買していない層が、いかに購買するかの変容を逆算で考えたかった」「未来の時間軸を用いることで、As-Isに囚われないブランド像を探りたかった」と語ります。

この「未来の再会」を考える対象はペルソナのみに留まりません。続くワークでは、現状の「ガシャポンロゴ」を擬人化し、プロフィールを考案。ペルソナと出会った時の第一印象を想像した上で、新しいロゴで残したい要素や変化したい要素を抽出し、新たに「未来のガシャポンさん」の人物像を生み出しました。

「擬人化」で表出した意味と特徴からブランドロゴを共創。

「未来のガシャポンさん」が、ユーザーにどんな印象を与えるか──このシミュレーションから生まれるものこそ「未来のブランドのありたい姿」に他なりません。ブランドを人に例えることで表出した宿らせたい意味と視覚的な特徴をもとに、視認性やトーン&マナー、カラーリングなど、ロゴに必要な仕様を整理していきます。

ワークショップで語られた「未来のガシャポンさん」はグループごとに三者三様で異なり、ブランドの多様性を再発見する営みでもありました。「ワクワク感」「老若男女を問わない」「ワールドワイド」などの共通要素をベースに、グループごとの多様な個別要素を取り入れながら複数案を展開。全社アンケートによる投票やフィードバックをもとに、方向性を絞り込んでいきました。

そうして生まれた新しいブランドロゴは、ロゴマークでは「夢とワクワク」を、ロゴタイプではガシャポンを回す瞬間の楽しみをそれぞれ表現。日本語を主としながらも英字ロゴも合わせて開発することで、グローバル展開を見据えています。

「ほしいに、ねがいを。」ワクワクがぎゅっと詰まったガシャポンの小さなカプセルは、今日もそしてこれからも、たくさんの人々の願いを叶え続けていくのでしょう。

(取材・文:田口友紀子)

  • Project Owner

    濱脇賢一

  • Project Manager

    山里晴香

  • Workshop Designer

    淺田史音

  • Workshop Planner

    夏川真里奈

  • Copywriter

    大久保潤也

  • Art Director & Designer

    五味利浩

  • Designer

    中園英樹