“人”に向き合う制度で、事業シナジーを増幅させる。マネーフォワードのデザイナー評価・育成制度アップデート。

Point

  1. 事業シナジーが最大化する評価制度を、プロトタイプから検証する。
  2. 分権型の組織構造の「らしさ」を活かし、キャリアラダーを共通化。
  3. As-IsではなくTo-Beの視座で共に歩める、対等な育成機会を創出する。

「お金を前へ。人生をもっと前へ。」株式会社マネーフォワード(以下、マネーフォワード)がこのミッションのもと提供するのは、「お金と前向きに向き合う」ことでユーザーの人生を豊かにするサービス。2012年の創業以来、BtoCとBtoBにまたがる様々なサービスを続々とリリースし続けており、2022年時点でその数は40以上にものぼります。

特定の事業への「選択と集中」を行うのではなく、多事業を展開することでシナジーの創出を目指す同社は、デザイナーが事業に対して高い解像度を持てるよう、事業部ごとにデザイン部を設置しています。職能別の集権型体制ではなく分権型で組織が構成されることで、事業やユーザーに向き合う深い理解のもとでのデザインや細やかなブラッシュアップが重ねられてきました。

もとより経営層のデザインへの理解が深かった同社は、更なる飛躍に向け、デザイン組織づくりを強化。2020年にはCDO(Cheif Design Officer)に伊藤 セルジオ 大輔さんが就任し、事業部内に設置されたデザイン部を横断して繋ぐ組織として、デザイン戦略室も新たに設けられました。

事業が多様化し、デザイナーの活躍範囲も広がる中では、構造のみならず評価や育成の制度もまたアップデートする必要があります。マネーフォワードらしい独自カルチャーを保ちながらも、デザイナーの発達を支援する評価制度を定めるバランスが求められていました。

事業シナジーが最大化する評価制度を、プロトタイプから検証する。

事業へのインパクトを重視する分権型の組織構造は、事業開発の観点では本質的である一方で、評価制度設計の難易度が上がる面もあります。業務内容が事業部ごとに異なり、スキルの尺度で測ることが難しいためです。

今回、マネーフォワードとMIMIGURIが取り組んだのも、スキルではなく事業インパクトを軸とした評価制度への見直しでした。両社がまず着手したのが、プロトタイプによる課題の検証です。現行制度による固定観念に囚われずに問い直しを行うため、具体化したプロトタイプを手がかりに課題を抽出していきました。

MIMIGURIはヒアリングの上で制度設計に必要な要件を洗い出し、導き出された仮説から評価基準のプロトタイプを実験的に作成。必要な能力定義の構造化と各グレードの要件の言語化を行い、部署ごとのメンバーの分布を整理しました。

分権型の組織構造で、いかにキャリアラダーを共通化するか。

事業が成長し多様化していく段階で、運用中の制度をアップデートする。それは情報量の多さ故に認知負荷も高く、問い直しが難しい道のりです。正解のないその道を、両社は「わからなさ」を共有し合いながら歩みを進めました。「わからなさ」がある中でも判断の精度を高めるため、MIMIGURIは1on1で情報を収集。マネーフォワード社内にある具体的な課題から理解を深めるとともに、プロトタイプ上の言葉や視点の揺れをもとに目線合わせを進めていきました。

分権型であり、かつスモールチーム編成が主体となる同社の組織構造においては、デザイナーに求められる役割もスキルも期待値も、各事業が持つ特性によって異なります。デザイナー自身が向かう方向も、大事にしているものも異なる中で一元的にキャリアラダー(キャリア開発のための段階を梯子のように示したもの)を共通化しようとすると、かえって煩雑さを増してしまいます。そのため、ここでは各事業部のマネージャー4人が1人1ラダーの形式で分担してプロトタイプを作成するアプローチを採用。1つの視点から書き出されたプロトタイプをもとに、他部署のマネージャーによるフィードバックを多角的に重ねることで4つのラダーを共通化していきました。

マネーフォワードは、すべてのデザイナーが共有する姿勢として「DESIGNER CREDO & CULTURE」を掲げています(詳細はセルジオさんによる記事内で紹介されています)。制度がこのクレドとカルチャーに対応するものとなるよう、マネーフォワードとMIMIGURIはラダーごとに粒度や観点を揃えながら調整を重ねました。加えて、現行制度にはない職能として組織デザインのキャリアラダーも新たに開発しています。

開発したデザイナー評価・育成制度の参考画像。デザイナーに共通する要件とともに、4つのラダーと段階が可視化されています。

As-IsではなくTo-Beの視座で共に歩める、対等な育成機会を創出。

能力定義に合わせて、新たに育成の観点から「どのような成長機会が必要なのか・提供できるのか」もグレードごとに明文化。マネージャーとメンバーの両方がAs-IsではなくTo-Beに視座を持つための対等な足場づくりを行いました。ラダーを跨ぐマネージャーやスペシャリスト人材など、場合ごとに異なる対応も整理しています。

MIMIGURIとの取り組み以外にも、マネーフォワード社内では並行して、全社的に評価制度の見直しが行われていました。専門性は異なれど、他職種の制度との間にギャップが生まれないよう、社内の組織間で方針やステータスを常に共有し合う目線合わせも行なっています。

現在フェーズ2として、この評価・育成制度を運用していくためのデザインマネジメントの研修プロジェクトもMIMIGURIと進行中。

DESIGNER CREDOは、「マネーフォワードのデザイナーは『User Focus』の体現者」であるという明言から始まります。「人」に向き合うことで目指す、ユーザーの想像を超えた新たなソリューション。マネーフォワードのデザイン組織は、ユーザーにも社内メンバーにも、あらゆるステークホルダーにフェアであり続け、今日も新たな課題を解決しています。

(取材・文:田口友紀子)

  • Project Owner

    根本 紘利

  • Consultant

    ミナベ トモミ

  • Project Manager

    湯川 卓海