有機的な対話が、研究連携を促す。国立環境研究所とともに歩んだ、問いが“寄り”合う場のデザイン

Point

  1. 多様な専門性を持つ研究者チームにおいて、成果ではなく自身の内発的動機を対話する機会を創出
  2. 実践の中間地点を学会発表することで、学際的研究手法としてのあり方と意義を考察
  3. 専門性の違いを分かち合い、研究コラボレーションを疑似体験するワークを設計

「学会発表などの場において、研究者自身が内発的動機を語ることは多くはありません。なぜなら、科学研究では主観的よりも客観的な見方が求められるからです」──これは、2022年6月に開催された第69回日本デザイン学会春季研究発表大会「変化”せられる”デザイン」にて、MIMIGURI リサーチャーの富田誠が協働研究のためのワークショップの事例*1を発表した際に言及した内容です。

一方で、研究分野が異なる研究者同士で新たな研究を立ち上げようとするとき、客観的な研究成果を交換するだけでは不十分なことがあります。なぜなら、研究分野が異なれば手法も専門用語も異なるため、歩みを寄せ合って研究テーマを立てることが困難になるからです。

研究者同士のさらなる連携を促すため、この「内発的動機を語る」取り組みを行ったのが、幅広い環境研究に学際的に取り組む公的研究所である国立環境研究所(National Institute for Environmental Studies、以下 NIES)の「物質フロー革新研究プログラム」というチームでした。研究成果を客観的に語るだけではなく、生み出した内発的動機までを語ること。それは、NIESにおいてあまり行われてこなかったことでもありました。

冒頭の日本デザイン学会でも事例として発表された本ワークショップ。その対象となった「物質フロー革新研究プログラム」のチームは、持続可能な資源利用を目指し,物質フローのライフサイクル全体を通じた評価と改善に係る研究に取り組んでいます。環境システム学や環境リスク学、リサイクル工学など、約40名の多様な専門性を持つ研究者が集うこのチームは、さらに3プロジェクトに分かれており、そのプロジェクト間での研究連携が求められていました。

新たな連携の芽を探りながら、連携の質を向上させていく。そのためにNIESとMIMIGURIが取り組んだのが、「対話の関係性を築き、研究連携の体験により問いが“寄り”合う場をつくる」ワークショップでした。

対話は、研究活動に何をもたらすのか?

NIES「物質フロー革新研究プログラム」のプログラム総括である南斉規介さんと話をする中で、研究連携の取り組みにおいて内面を語り合う機会がないと知ったMIMIGURIは、すぐに「研究の動機を互いに語り合う場をつくりませんか」と提案。これは、学術研究のみならず、あらゆる協働の促進のためには対話を行える関係性が必要とMIMIGURIが考えているためです。

3プロジェクト間の新たな連携の芽を探るために、個人が互いに動機を語り合う。一見して遠回りに見えるこのアプローチを取り入れてワークショップを設計した背景には、富田や、MIMIGURIのリフレクションリサーチャー 瀧知惠美などによる、学際的研究手法へのまなざしがありました。

このまなざしについては、ワークショップに参加した研究者に向けても説明されています。富田はワーク実施の当日、チームによる研究を「研究知の統合度合いや研究の関与者の多様性に応じて、複合領域研究(Multidisciplinarity Research)学際研究(Interdisciplinary Research)や超域研究(Transdisciplinary Research)などがある」と整理。「地球環境に関する研究問題はまさに、あらゆる学術知の統合が必要とされる超域的な研究領域と言える」とした上で、Hallら(2012)の研究論文を踏まえて、「研究のフェーズごとに研究者が協力し合う様々なコミニケーションの場を用意すること」の必要性に触れました。

成果ではなく動機を、飾らない言葉で分かち合う。

「各分野の考え方や価値観の違いを学び、協働研究の共通基盤を見出すための場にしたい」──その思いから始まった対話のワークショップは、約3時間ずつ、少し期間を空けた2回に分けて実施。このとき共通する目的として据えたのは、「研究者同士のコラボレーションの可能性を体験し、探究の問いを拡張すること」でした。

1回目のワークショップでは「研究の衝動」を可視化しながら分かち合い、2回目は互いの専門性を共有。同じお題に対してそれぞれで問いを立てるシミュレーションを行うことで、コラボレーションを疑似体験するところまでがゴールとして設計されました。

とはいえ、多様な専門性とバックグラウンドを持つ研究者同士。「さあ、研究の衝動を語り合いましょう」と呼びかけたところで、必ずしも同じ目線で分かち合えるとは限りません。そこにワークしたのが、第三者として聞き手を担った、東海大学 教養学部 芸術学科内にある富田の研究室の学生の存在でした。学生にも伝わりやすくなるよう、専門性に依りすぎない、素朴な言葉で噛み砕きながらものを語る。それは図らずも、個々の原点に回帰する純粋なまなざしをより鮮明に強調することに繋がります。

南斉さんはこの聞き手の存在を、「(普段は)専門的なカタカナ言葉で通じる仲間であっても、学生の方を相手にすると抽象的になりがちなカタカナ言葉で会話を飾れなくなる」「わかりやすく翻訳して喋ること。それは表現だけでなく、殻を破ることにも役立ったのではないかと思う」と振り返りました。こうして、研究者が集う従来の場ではなかなか見られない、有機的な対話の場が築かれていったのです。

実践の中間地点を学会発表。連携を体験することで生まれた、問いを“寄せ”合う意識とは。

「この対話の場で、はたして何が起きていたのか?」──1回目が終了した段階で、MIMIGURIはその実践知を、冒頭の日本デザイン学会にて富田を中心に発表。学際的研究手法としてのあり方と、研究活動における意義を考察しました。

「互いの研究の方向性を予測して、相互に“寄せ”られる可能性を検討する」。それは単なる研究知の交換だけでは生まれにくい、「探究の問い」の可能性を拡張する営みといえます。2回目のワークショップの冒頭、富田が参加者に向けてこの「中間地点」の考察を伝えたことで、運営と参加者がその意義を同じく感じ取れる状況が生まれました。

2回目のワークショップでは、個々の専門性を「メガネ」のメタファーで可視化。各々が「専門性メガネ」に名前を付けて書き出し、例えばペットボトル入りのお茶など、「同じものを見たときに見え方がどう違うか」を浮き彫りにしていきます。その“違い”の共有を経て、共通のテーマに向き合う最後のワークが「2050年の○○」を問うというもの。「2050年の食」に「2050年の日用品」など、言葉だけではなく画像や極端な事例などを集めた、捉え方を広げるリサーチボードを展開。デザインリサーチのアプローチで、研究者同士のコラボレーションを擬似的に体験する機会を創出しました。

このワークショップを経て、参加した研究者の方からは「他の研究者との繋がりを見つけようとする意識が今まで以上に強くなった」「同じ3時間でも、時間の使い方が全く違う。これまでは経歴に着目するだけで終わっていた」など、場のあり方が問い直されるような声もありました。なお、今回発表された実践研究「研究発表では語りえない内的動機の語り出し─国立環境研究所における協働研究のためのワークショップ」は、同学会においてグッドプレゼンテーション賞を受賞。また、2回目のワークショップの内容は2022年12月に開催される共創学会にて口頭発表される予定です。

持続可能な資源利用という超域的な研究の場で生まれた、研究者同士が動機を分かち合う対話。互いを知ることで生まれる方向性の予測が、どのように“寄り”合っていくのか。専門知が渦巻く先で生まれる新たな問いが、環境学の領域に革新をもたらすことを願ってやみません。

(取材・文:田口友紀子)

*1 富田 誠, 瀧 知惠美, 夏川 真里奈, 小出 瑠, 南斉 規介 : 研究発表では語りえない内的動機の語り出し 国立環境研究所における協働研究のためのワークショップ, 日本デザイン学会 第69回研究発表大会, 2022.

参考文献
Hall, Kara & Vogel, Amanda & Stipelman, Brooke & Stokols, Daniel & Morgan, Glen & Gehlert, Sarah. (2012). A Four-Phase Model of Transdisciplinary Team-Based Research: Goals, Team Processes, and Strategies. Translational behavioral medicine. 2. 415-430. 10.1007/s13142-012-0167-y.

  • Workshop Planner & Main Facilitator

    夏川 真里奈

  • Project Owner & Project Manager & Sub Facilitator

    瀧 知惠美

  • Design Researcher

    志田 雅美

  • Researcher & Sub Facilitator

    富田 誠