「スマートシティ」に問いを立てる。竹中工務店が目指す、都市開発の共創コンセプトを開発。

Point

  1. 一般名詞に問いを立てることで、「竹中工務店らしさ」を思考する。
  2. ペルソナを演じるワークにより、日常の延長線上にはない“異化”の視点を生む。
  3. 共創パートナーとの対話を経て未来像をビジュアル化することで、コンセプトの具体性を向上。

サイバー(仮想)空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させる先進的技術により、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。日本が目指すべき未来社会の姿として内閣府が2016年から提唱する、この「Society 5.0」の先行的な実現の場とされるのが、「スマートシティ」です。世界各国で実現に向けて動き出している中、日本でも各地で実証実験が進み始めており、株式会社竹中工務店(以下、竹中工務店)もまた、その事業を推進する企業のひとつです。

人々との対話を重ね、技術の研鑽を続けることで、時代が求める最良のソリューションを提供し続ける竹中工務店。1610年の創業以来、人々が安全に安心して暮らすための「まちづくり」にグループの総力で貢献することによって、サステナブル社会の実現を目指しています。

約410年もの間、日本のまちづくりに貢献し続けてきた竹中工務店が、これからどんなスマートシティを作り出そうとしているのか。今回、竹中工務店とMIMIGURIが取り組んだのは、一般名詞である「スマートシティ」を「竹中らしく」問い直す営みでした。

一般名詞にあえて問いを立て、「らしさ」を思考する。

スマートシティに関する事業が複数動く中でも、特に2025年の大阪夢洲万博のプロジェクトにおいては、都市開発の共創パートナーを増やすにあたり「竹中工務店が、なぜスマートシティを創るのか」「どんなスマートシティを創るのか」を伝えるコンセプトが必要となっていました。

提供する技術のコンセプトは個々に存在していたものの、ステークホルダーとエンドユーザーの理解を得るためには、技術起点ではなく、創り出したい未来を表現する抽象的なコンセプトが必要です。まだ言語化されていない「竹中らしさ」の感覚を、どのように明らかにできるのか。竹中工務店とMIMIGURIの歩みは、その対話から始まりました。

「“スマート”にも“シティ”にも違和感を覚える。自分たちが作りたいものは、本当に『スマートなシティ』なのだろうか?」これはプロジェクト開始時のインタビューで、竹中工務店のあるメンバーが率直に述べていた言葉です。社員それぞれで感覚は異なるものの、MIMIGURIはこれらの個々が抱く違和感に着目。感覚の差異を可視化するとともに、一般名詞である「スマートシティ」で思考を止めず、あえて問いを立てるワークショッププログラムをプランニングしました。

「どんな“意味”のギフトを贈りたいのか?」演じることで、視点を異化する。

ワークショップは、ペルソナを演じるワークからスタートしました。まず大阪夢洲万博に関するプロジェクトメンバーを四人組のグループに分け、一般市民や共創パートナー、竹中工務店の社員など、1人ずつ異なるペルソナのシナリオを渡していきます。年齢や性別、職業などが設定されたプロフィールをもとに、書かれていない余白はグループ内で対話し、各々で役作りをする──まるで演劇のような準備が行われた後は、そのまま役になりきり「私たちにとっての理想の未来の暮らし」を、互いに演じながら語り合いました。

自らの中にペルソナによる外部の視点を取り込むことで起きる、思考のリフレーミング。MIMIGURIが目指した“異化”により、日常の延長線上では得られない新たな視点が次々に生まれていきました。

そしてもう一つのワークは、「これらのペルソナの未来に、どんな“意味のギフト”を贈れるのか」を考えるというもの。“意味”に焦点を合わせた理由についてMIMIGURI デザイナーの猫田耳子は、「多くのイノベーションがそうであるように、竹中工務店もまた、技術やモノを届けるのではなく、そこから生まれる意味を贈り続けてきたはず」として、イタリア・ミラノ工科大のロベルト・ベルガンティ教授が提唱する「意味のイノベーション」の考え方を引用しながらこのワークを設計したと語ります。

贈りたい“意味”のギフトを探るにあたっては、単語を“スマート”+“シティ”に分解し、「○○な○○」と竹中工務店らしく言い換えるワークを実施しました。

抽象と具体のバランスを視覚化し、宿る意味を精緻にする。

このワークを通して生まれた言葉から、竹中工務店が本当に創りたいものと贈りたいものをキーワードとして整理。「シティ(都市)や建物に縛られない世界観」や「人間だけでなく生命中心のものづくりを目指したい」などのインサイトに着想を得て、MIMIGURIは「超地球化」というコンセプトを生み出しました。

コンセプトメッセージの開発と合わせ、共創パートナーや一般市民などに展開する資料も作成。コピーライティングのみならず、「超スマートな多様性」「超スマートな時間」など、竹中工務店が創り出したい未来の特徴ごとに、象徴する場面を言語化および視覚化しました。視覚化にあたっては、各場面を実現するために用いる竹中工務店の技術をヒアリング。開発中の実際の技術に立脚した具体性と、未知の可能性を秘めた抽象性のバランスを対話により調整し続けることで、コンセプトに宿る意味をより精緻にビジュアル化しました。

資料作りと並行して、社外ステークホルダーを交えた市場検証も実施。実際の共創パートナーとなる各社とともに「実現のために何ができるのか」を語ることは、コンセプトを検証する役割であるとともに、スマートシティ実現に向けた第一歩を踏み出すことでもあります。合わせて、理想の「超地球化」を絵で表現するワークも行うことで、竹中工務店やステークホルダーの間で概念的に語られていた未来像の具体性を高めました。

これらの検証を経てブラッシュアップした資料は、展示会などで展開。当初は2025年の大阪夢洲万博のために開発したコピーでしたが、全社的なコンセプトへと転換され、現在はこのコンセプトに基づき、技術起点ではない新たなアイデアも生まれているそうです。MIMIGURIは今後も、ロゴや動画、イベント用の出展ブースなどの開発を担当予定。

都市化から地球化、そして超地球化へ。
竹中工務店が共創パートナーとともにこれから創り出す未来は、今の私たちの誰もが抱く想像を、しなやかに凌駕していくことでしょう。

(取材・文:田口友紀子)

  • Consultant & Project Manager

    吉田 稔

  • Consultant & Facilitator

    遠又 圭佑

  • Workshop Planning & Facilitator

    猫田 耳子

  • Copywriter

    大久保 潤也

  • Art Director

    五味 利浩

  • Illustrator

    中園 英樹

  • Web Designer

    吉田 竜輔