正解思考から抜け出す秘訣は「無責任な“遊び”」にある。NECネッツエスアイがMIMIGURIと目指す、建設的な対話文化への変革。(前編)​​

  • 濱脇賢一

    コンサルタント

  • 柳川小春

    コンサルタント

  • 猫田耳子

    ファシリテーター

  • 筑波大学理工学数学類卒。大学在学中よりコンサルタントとして独立し、創業支援や事業計画の立案、広告戦略立案や地域ブランディングに従事する。また、長期でのBPRによる業務改善、中期での経営企画部・営業部へのハンズオンコンサルティングも経験。2018年より前身であるDONGURIに入社。現在、MIMIGURIにおけるコンサルティング事業の事業長を務め、経営コンサルティングや組織デザイン・ブランド戦略の策定などのプロジェクトオーナーも努め、幅広く企業・組織・事業の成長に伴走する。

  • 一橋大学経済学部卒。HR領域のソフトウェア会社でブランディング・マーケティング責任者を経験。MIMIGURIでは、数十名規模のベンチャーから数千名規模の大企業まで、さまざまな規模の組織変革に、遊び心を持って対話を重ねながら伴走している。

  • 好きだなあと思うひとたちの叶えたい夢や作りたい未来への力になりたいなと思っています。そんな感じでミミグリにいます。

<プロフィール(敬称略)>
小尾 正和
NECネッツエスアイ株式会社 コーポレートカルチャーデザイン室 マネージャー
システムインテグレータ/モバイルベンチャーを経て、2010年NECネッツエスアイ株式会社に入社。営業従事後に営業企画部にてICT関連の企画業務を担当。2020年4月よりコーポレートカルチャーデザイン室にて社内コミュニケーションとカルチャーを担当。

北川 龍樹
NECネッツエスアイ株式会社 コーポレートカルチャーデザイン室 主任
2017年NECネッツエスアイ入社。エンタープライズ向けDXソリューション開発およびプロモーションに従事。2020年4月よりコーポレートカルチャーデザイン室を立ち上げ、カルチャー変革や心理的安全性、従業員エンゲージメントなどに携わる。

大村 弓美子
NECネッツエスアイ株式会社 コーポレートカルチャーデザイン室 主任
1997年NECネッツエスアイ入社。人事部門にて、採用、人事制度、労務管理、人材開発等、幅広い人事業務に従事。事業ラインに異動後は業務改革に携わる。2021年10月よりコーポレートカルチャーデザイン室にて、カルチャー変革、従業員エンゲージメント、キャリア自律施策などに携わる。

日本GHCDコーチング協会が2022年8月、中間管理職を対象に行った調査 ※1 によると、「職場で最も頭の痛いことやご自身の課題、悩み事」についての回答は26.3%が「人間関係」と最も多く、次いで「チームのマネジメントや状態」が19%と、他者に関する悩みが半数を占める結果となりました。「今の状態がどうなればあなたにとって理想的か」という質問へは「互いに」というキーワードが多く目立っていたことから、相互理解の状態を理想とする中間管理職が多いと考えられます。中間管理職は組織の中核でありながら、上下の板挟みの立場になりやすく、悩みも多いのは全世界で共通とも言える課題でしょう。

組織において相互理解のある状態が理想だとしても、そのためにはどのようなコミュニケーションがあれば良いのか。はたして、会社組織において「良い」コミュニケーションとは一体何なのか。その問いに対して、まさに組織のミドルマネジメントに焦点を合わせて向き合おうとしているのが、NECネッツエスアイ株式会社(以下、NECネッツエスアイ)のコーポレートカルチャーデザイン室です。

「コミュニケーションサービス·オーケストレーター」として、様々な顧客に対し、SI(システムインテグレーション)から施工・サービスまで幅広い価値を提供するNECネッツエスアイ。2020年1月、代表取締役社長の牛島祐之さんが「日本一コミュニケーションの良い会社」というインナービジョンを宣言したことから、同年4月、ボトムアップでコーポレートカルチャーデザイン室が社長直属として発足しました。

「大規模組織の中に存在する多様な考え方を尊重しながらも、物事を前向きに進められる組織文化を作りたい」という思いから、2022年11月、同室はMIMIGURIとの組織変革プロジェクトを開始。課長職を対象とする「ロールプレイングゲーム形式」の対話に関する学習プログラムを独自に開発し、プロトタイプの検証を経て、2023年4月から、全社への本格的な展開がされようとしています。

NECネッツエスアイは現在、約500の課で構成されています。(※社員数7,675人/連結)これほどの規模の組織が、なぜ全社の文化を今まさに変えていこうとしているのか。前編となる本記事では文化づくりに取り組んだこれまでの歩みとともに、その狙いを聞きました。

行動が変わらないと、全社の文化は変わらない。

コーポレートカルチャーデザイン室は企業文化をつくるチームではありますが、発足からの3年間で、どのような取り組みを行なってきたのでしょうか。

小尾「日本一コミュニケーションの良い会社」をインナービジョンとして、社内のコミュニケーションを良くするために、主に3つの系統で業務を行なってきています。

1つ目が、イノベーション風土づくり。「出る杭」という新規事業コンテストやオープンイノベーションのプログラム、アイデアソンの実施などです。

2つ目が、心理的安全性の全社的なインストールです。一昨年、セミナーを実施したところ。参加者も後日配信の動画再生数も多く、とても盛況だったんですよ。やはり興味関心が高いのだなと実感すると同時に、ボトムアップでは成功しにくい施策だとも思うので、ワークショップなどを経営層から順に行なっていっている状況です。そこから派生して、「問いかけの作法」なども組織文化に取り入れていこうとしています。

そして3つ目が、経営メッセージが「伝わる」ことです。なぜ改めて施策として重視しているかというと、経営層が掲げた方針を一人ひとりがどれほど理解しているかによって、経営や数字へのインパクトが変わってくると思うんです。なので、会社の重要ごとについて社員と双方向で話したり、伝わる・自分ごと化する機会を多く作るようにしています。例えば代表取締役による社内ラジオや、社内YouTubeがあったり、社員と対話するタウンホールミーティングの場も設けています。

コーポレートカルチャーデザイン室の普段の業務の様子。(左から)北川 龍樹さん、小尾 正和さん、大村 弓美子さん。

NECネッツエスアイは、どんな文化の組織だと説明できるのでしょうか。

小尾実は今朝、チームでまさにその話をしてたんですよ。NECには「NEC Way」というNECグループの経営活動のしくみを体系化したものがあるのですが、その中に「Code of Values」という行動基準があるんです。そのCode of Valuesを通して自分やチームの理解を深めるカードゲームがあるのですが、それをNECネッツエスアイ社内で遊んだ結果をちょうどまとめていたんです。

北川事業も多岐に渡るので部署によって文化が違うのですが、共通するものを一言で表すと「真面目」ですね。あとは「人の良さ」。面倒見が良い、というのは確実にNECグループのDNAです。あとは、真面目さに関連しますが「最後までやり切る」姿勢が強くあります。

堅実なイメージが想起されるキーワードですが、ここから、さらに「コミュニケーションを良く」しようとする時、例えばどのような点が課題になってくるのでしょうか。

北川文化としてIT色は強いのですが、施工なども行う関係で、建設業のような色がもともと強いんです。やはり失敗が許されないので「安全第一」を掲げて仕事をしていきますし、施工の現場ではトップダウンのような空気も生まれやすい。そのためか、横を巻き込んだり、ボトムアップで働きかけたりという動きがなかなか生まれにくい風土でもあるんです。

でも、これだけ不確実で変化の大きい時代ですし、僕たちが身を置くIT業界はその程度がさらに激しい。凝り固まったやり方をしていたらまずいんじゃないか、という課題意識もあって、風土づくりに取り組んでいるところがあります。

大村私は人事部にいたんですが、直近ではまさに現場の施工構築をやっている部署に所属してました。「俺の背中に付いてこい!」みたいな雰囲気はありましたね。面倒見も良いので、それが企業文化の「人の良さ」にも表れていると思うんですけど。一方で、これは一般的にもよくあることですが「やり遂げる、成功させる」ことばかりを優先してしまうと、心理的安全性って生まれにくいんですね。

ところが、社内で心理的安全性のワークショップなどを実施した後、変化が表れ始めていて。相手の提案を受け止めようとする姿勢とか、話を聞こうとする姿勢が、特に意識されるようになっていったんです。これまでも無かったわけではないのですが、全体的にその傾向が強くなった、という感じですね。それは、すごく大きな変化だと思っています。

北川皆さん、真面目で優しいんですよね。それは引き続き大事にしながらも、「こういう未来を作ろう」と意志を持って、現状を変えていく勇気が必要なフェーズが来ているんです。

今回、MIMIGURIと取り組んだのは「ロールプレイングゲーム形式」の対話に関する学習プログラムの開発でした。MIMIGURIに依頼したのは、どのような経緯だったのでしょうか。

北川MIMIGURI 代表取締役 Co-CEOの安斎勇樹さんの『問いかけの作法』や『問いのデザイン』などを読んで、問いによって組織に良い変化をもたらせるのではないかと思ったんです。安斎さんは『心理的安全性のつくりかた』著者である株式会社ZENTechの石井遼介さんとも仲が良いですよね。著書を知ったのはそのご縁もあったのですが、そういったきっかけから、MIMIGURIと一緒に仕事をしてみたいなと思ったんです。

MIMIGURIさんの作るものって遊び心があって、人を動かすことを仕組みから考えられているな、と思っていて。自社だけで取り組もうとすると、真面目さと遊び心とのバランスをとるのが難しいんです。「一緒に働いたら、楽しく前に進められそうだな」って思ったのも、お声がけした理由のひとつですね。

今回のプロジェクトでは、「大規模組織の中に存在する多様な考え方を尊重しながらも、物事を前向きに進められる組織文化を作りたい」という思いから、主に課長職を対象としたプログラムが開発されました。なぜ、変革にあたりミドルマネジメントに問いが立ったのでしょうか。

小尾組織における意思決定のメカニズムを考慮しているからです。北川からもお話ししたように、情報化社会により市場の動きが早くなっていますよね。だからこそ、意思決定のために情報を取る場所は現場に近づけた方がいい──ということ自体が、経営理論としても一般的になってきています。ミドルマネージャーは現場に近い立場でありながら組織の中核を担う方々ですから、その層が現場の声を経営層に伝えたり、生き生きと「やってみたいこと」に取り組んでいたり、という状況を作り出したいんです。もちろん、特に経営層が許容していないとその状況を作り出すのは難しいので、そこを実現するまでが目標です。

北川色々とリサーチをする中でも、文化を変えるためには経営層はもちろんのこと、中間管理職の層が行動して変えていくことが重要だと言及されていることが多かったんです。その行動に寄与するようなプログラムを作りたいな、と思ってMIMIGURIさんに依頼したんです。

小尾付け加えると「10個素敵なスローガンを作る」よりも、1個でも確実に行動が変わるレベルまで持っていきたいなと思っています。3年間、文化づくりを実践してみてわかったんですけど、行動が変わらないと会社全体が変わっていかないんですよね。そこにはこだわりたいなと思っています。

あのとき飲み込んだ言葉や想いは、本当は組織の宝物のはずだった。

「行動が変わらなければ文化が変わらない」というのは、文化づくりに実際に取り組んできたコーポレートカルチャーデザイン室ならではの実践知のように思います。組織文化の変革は日本においても多くの企業が課題を抱きやすい領域だと思いますが、MIMIGURIはこの課題の共有を受けて、どのように感じたのでしょうか。

濱脇具体的なところでは、「ミーティングで発言しない人がいる」「発言したくとも、抑圧されてしまう空気感があるのではないか」という課題もお聞きしていましたね。これは安斎が書籍『問いかけの作法』でも言及していますが、やはり対話や議論の場の行動から変えていくことで、最終的には全社的な文化を変えていくことに繋がるのでは、というお話をさせていただきました。

この変革を難しくする要因の一つが「その変容自体に長い時間が必要になる」ことなんです。そうすると、経営層としても投資にあたっての意思決定や、その正しさの検証が難しくなってしまう。それでもなお、NECネッツエスアイさんは挑もうとしている。それ自体がとても価値のある取り組みだと思いましたね。

小尾では行動を変えるプログラムをどのように開発するか?というところで、最初にMIMIGURIさんに持ちかけたのが、我々が取り組んでいる「建設的に○○」というテーマでした。

「建設的に○○」とはどのようなテーマなのでしょうか。

小尾どちらかが一方的に「こうしたい・こうあるべきだ」というコミュニケーションだと、フラストレーションが溜まってしまいます。そうではなく、双方の思いや考えを分かち合いながら、建設的に前に進めようとすることが大切だと思うんです。

例えば、片方が「あいつが悪い」というようなネガティブな感情に支配されてしまっては、物事が前に進んでいかないですよね。お互いの立場や考え方をすり合わせて、対話しながら歩み寄っていければ、物事を前に進めていけると思うんです。「建設的な行動を生み出していくためには?」という問いにMIMIGURIさんと共に向き合っている、と言えるかもしれません。

そこから、どのようなプロセスでプログラム開発を進めていったのでしょうか。

柳川理想として掲げているのは、NECネッツエスアイの課長職として大切にしたいコミュニケーションのあり方や過ごし方を、課長職の方が互いに対話をしながら定めることです。そのあり方に向けてコミットする方法を考えていく、というのがプロジェクトのスコープになります。

開発期間としては3ヶ月間ですが、見据える先は3ヶ年でした。来期に向けてこの1年で何をどう決めていくかをお話ししながら、この3ヶ月の取り組みを決めていった、というのが大まかなタイムラインです。

NECネッツエスアイは、約500の課で構成されています。この規模での取り組みとして、どのようなことに意識していましたか?

柳川最初から全社展開するのではなく、初めに場づくりのプロトタイプを作って、実際の課長職の方からフィードバックをいただいた上で、ブラッシュアップしていく方法にしています。プロトタイプの開発にあたっては、課長職の方へもインタビューしてリサーチしながら、その場ではどのような対話が起きると良いのか?という議論を重ねて、そこから逆算して開発していきました。

MIMIGURIは遊び心を大切にしているからこそ、NECネッツエスアイの課長職の皆さんが遊び心を持って前向きに取り組める工夫を取り入れるようにしています。

小尾3年、という期間を定めたサイクルの仕組みづくりも大切だとも実は思っています。こういうのって、得てして「1回作ったら、その後何年も同じルールで実行され続ける」と状態になりがちじゃないですか。できれば、時代に合わせてそのときを生きる役職者を対象に、その人たちが抱く理想のコミュニケーションのあり方を見直し続けるような仕組みをつくれたらな、と。変化し続けることは、会社が生き残り続ける条件だとも思っているんですよね。

例えば、3年後にこのプログラムを実施するとなったら、そのテーマが違うものになっていてほしいんです。この3年間で、過去に設定した課題は当たり前に乗り越えられてて、今やもう課題とも思ってないですよ、みたいな状況を作り出せたら理想的だなと思います。

プログラム開発にあたっての事前インタビューでは、どのようなリサーチを行われたのでしょうか。

柳川今回のプログラムの対象となる課長職の方に、普段向き合われてる葛藤についてお聞きしたんですね。そうしたら冒頭の文化の話とも重なるのですが、対立や葛藤が起きたときに、誰かを巻き込むのではなく「優しくて真面目だからこそ、自分だけでやりきろうとしてしまう」という声があったんです。

「自分が無理をする」というところで留まってしまうと、より高い理想があっても辿り着きにくくなってしまいます。その葛藤の過程で「本当はこういうことができたらいいなと思っていたけど、言わないまま飲み込んだ」という声があったんですね。

その飲み込んだ言葉や想いこそが、NECネッツエスアイさんの宝物だなと思ったんです。だから、それをコンセプトに取り入れてプログラムを開発していきました。個人の思いがしっかりと発露された上で、相手と共に建設的に前に進めていく場を作っていければ、と。

本プログラムは最終的に、「誰かと対立し、自分の言いたかった言葉を飲み込んだことで願いを叶えることができなかった主人公」が、当時にタイムリープをして支援者の協力を得ながら、再び自分の願いを挫こうとする相手と対峙し、対話を通して物語を前へと進めていくロールプレイングゲーム形式になりました。この、ロールプレイングの形式を取り入れたのにはどのような背景があるのでしょうか。

小尾こちらからは「ゲーム形式にしてほしい」とお伝えしただけでしたね。こういったプログラムはいわゆる「課長職研修」に分類されますが、そういった研修だと例えば「こういうトラブルが起きました、あなたならどうしますか?」と決まったお題に対して皆が話す、というパターンが多いんですね。そうすると会話は生まれても「正解主義」的になりがちなんです。それも有意義ではありますが、もっと本音が出てくるような遊び心を持たせたいな、と思っていました。

北川今回のゲームに正解は無く、ゲーム中の課題すらも自分たちで設定する仕組みになっています。一度、課長職の皆さんがプロトタイプで遊んでくださった様子を拝見しましたけど、対話のレベルが一気に上がったように思いました。

今回開発したゲームのルール説明。同じくMIMIGURIの、猫田耳子と共に開発した。

このゲームでは、「叶わなかった願いを持つA」と「Aの願いを叶えようとするB」、そして「“ある事情”を抱え、Aの願いを挫こうとするC」の陣営に分かれて、主人公Aが持つ「本当の願い」を叶えることを目標とするシナリオになっています。課長職の方がプロトタイプをプレイしているのを見て、どんなことが印象に残っていますか?

小尾自分以外の立場を想像しての発言が自然に行われていたのは印象に残っていますね。「自分の願いを阻害する要因」、つまり“ある事情”をゲームの中で自ら設定するんですけど、ある班がその要因を「上司」と設定して対話していたんです。「上司がNGと言ったから願いが実現しなかった」って、よくある話ですよね。そういう場面で「別にあなたに意地悪をしたくてそう言っているんじゃないよね」と、上司の立場から考える会話がなされていて。それを見て、良いワークになりそうだな、と思いました。

「建設的」っていうからには、お互いの立場を考えることが必要な要素になると思うので、それが自然に発生していたのは良いな、と。

物事を推し進めようとするときの、それぞれの立場の違いがゲームの中での体験によって獲得されていくというのは、「ロールプレイング」にある「演じること」「なりきること」が大きく作用していそうです。

北川日常でも、その視点が無いわけではないと思うんですよ。でも、阻害されていると感じたら色々な感情が起こりますし、建設的に考えるのはなかなか難しいと思うんです。ゲームだから客観視できたり、非日常的に距離を置いて考えられたりする。今回のプログラムでは最初に決めた陣営やキャラクターは同じままで最後まで進むのですが、ターンを重ねる度に、自分以外の立場を考える設計になっているんです。これって、日常で行おうとしたら、もしかするとただのストレスにしかならないかもしれないですよね(笑)。ゲームだからこそ、立場の違う人たちの間に橋をかけていくことができるんじゃないかな、と思いました。

大村キャラクターごとの設定も生きていましたよね。それぞれに性格が設定されているので、「この人だったらこの言い方はしないんじゃないかな」とか、そういう想像が膨らんでいるのも良いなと思いました。

北川あとはゲームだからこそ“諦め”のような発言ができないのも、ポイントかと思いました。日常だと「そうは言っても、上司だから」と片付けられやすかったりすると思うんですよ。確かにそれは正論ですが、言葉にしたところで何も進みません。そうではなく、問題に真正面から向き合う対話が行われていたのは、ゲームならではのように思えて印象的でしたね。

柳川まさに、ゲームならではの「無責任に発言ができる環境」を作っておくことにはこだわりました。そうでないと、どうしても「正解思考」に持っていかれやすいと思うんです。

演じることによって生まれた“無責任さ”が、ワークしていると言えそうです。改めてプログラム全容を俯瞰したときに、「叶わなかった願いを持つA」と「Aの願いを叶えようとするB」、そして「“ある事情”を抱え、Aの願いを挫こうとするC」の3陣営に分かれているのは大きな特徴だと思います。設計にあたってのMIMIGURIの狙いはどのようなものだったのでしょか。

濱脇AとCに分かれることで、「本当の願い」に対して相反する矛盾を認識してほしいんです。そこには、明らかな利益相反があります。AのためにCが我慢するとか、CのためにAが我慢するとか、そうなってしまうと不幸ですよね。だからと言って、「適当な塩梅の落とし所を見つけましょう」とすると、やはりどちらの希望も叶わなくて不幸です。だから、ゲームの作りとしては実は非常に難しいんです(笑)。

では、なぜこれほど難しい設計にしているかというと、この難しさは現実にも存在するからなんですね。現実の日常も、あちらを立てればこちらが立たずの場面はたくさんあります。そこを諦めずに互いの立場の思考を交換しながら、矛盾に豊かな意味付けをすることで「第3の選択肢」に止揚させていく。つまり、「目の前の矛盾をみんなで乗り越える成功体験をいかに描けるか」というのが大きなポイントになっているんです。ゲームという非日常の世界でその成功を体験することが、日常のアクションに影響していくと考えているんです。安斎が2023年3月に共著で出版した書籍『パラドックス思考』(舘野泰一、安斎勇樹 著/ダイヤモンド社)のまさに実践プログラム、と言っても良いかもしれません。……宣伝になってしまいますが(笑)。

柳川プロトタイプの検証当日、一番の嬉しい誤算だったのが、「自分たちが他のメンバーたちに対してどうありたいか」という対話まで行われていたことでした。

具体的なエピソードとしては、先ほどの小尾さんが例に挙げていた、阻害要因を上司に設定した班のお話しにはなるんですけど。「この上司も、私たちの願いを挫こうとしているわけではない。それなら何がしたいんだろう?」というように相手の立場を考えていくにあたり、「理想の上司像」にまで思考を巡らせる、という場面があったんですね。 その延長線上で、自分たちもそうありたいよね、という対話が起きていたんです。そこまでは想定していなかったので、嬉しかったです。あとは、バッドエンドへの問いが立っていたのも意外ではありました。

「コミュニケーション」に問いを立て、自社から社会を変えていく。

バッドエンドへの問い、とはどのようなものでしょうか。

柳川「この場合の最悪のパターンとは?」という問いについて対話される場面があったんです。「そこから逆算したら、もっとこういうふうにできるかも」というところにまで発展して、皆さんで「自分たちらしい答え」を探そうとしていたんです。シナリオの着地点について、プログラムの運営側から特に指定はしていなくて。NECネッツエスアイさんとMIMIGURIの間で「ハッピーエンドじゃなくてもいい」と話し合って決めていました。きれいな正解ストーリーを無理やり作ろうとするのではなく、その場に出た葛藤に対して理想をぶつけ合って、より良い選択を見つけ出すための対話を行ってほしかったんです。

プロトタイプをプレイした課長職の皆さんからは、どのようなフィードバックがあったのでしょうか。

大村「3ヶ月後に、飲みながらでもこの話の続きがしたい」という感想をいただけて、すごく嬉しかったです。

北川「楽しかった」という感想はありがたかったですね。一方で、没入感がもう少し欲しかった、という話もありました。

柳川もう少し役に入り込みやすくなる設定が欲しい、という声をいただきましたね。その後、シナリオ上の設定をさらに具体的にブラッシュアップしています。

小尾実際にあった出来事を取り上げ過ぎてしまうチームもあったので、そこもチューニングポイントですよね。「こういう場合もあるよね」と事例で取り上げるまでにとどめて、あくまでもゲームの設定の中でリアリティを持たせながら、キャラクターのせいにして(笑)色々な立場をシミュレーションしていけると良いのだろうな、と思います。

北川あと、「何のためにこのゲームをするんだっけ?」と、疑問が抱かれる部分もありました。なので、クロージングのときに「この場はこういうことに発展する」と伝えるなどして、その場で得た体験を日常に持ち帰ってもらえると、次もまた楽しんでいただけるのかな、と思いますね。

小尾せっかく受けていただくプログラムなので、出てきたアウトプットについては、その後にコトが進んでいくように、施策として周りが進めていきたいなとも思っています。代表取締役の牛島も自分自身のマネジメントのあり方をテーマにしているので、この施策についても経営層を巻き込みながら着実に進めていきたいですね。

濱脇経営層の巻き込みについて、色々な企業さんからよく「成果を出さないと稟議が下りないんだ」という課題をお聞きするんですけど、実は違うんですよね。学習って、実践機会がないと進まないんですよ。例えば、試合がない運動部ってつまらないじゃないですか(笑)。全国大会優勝を目指して、試合するから楽しくなるんです。だから、「大きなことに向かっていく」軌道を施策として描いていくのは必須なんです。

あとはその後、大事になるのが振り返りで。このプログラムをやってみたことを自己記述していくことで、「もっと本当はこうしていきたい」という願いが伏せていくはずなんです。大きなことに向かう実践と振り返り、その2つを両立させていきながら、このプロジェクトを進めて行けたらいいなと思いますね。

2023年4月からは、このプログラムがさらにブラッシュアップされて全社に展開されています。あらためて今、NECネッツエスアイの課長職にはどのようなことが期待されているのでしょうか。

北川僕は課長職って、会社の主役だなと持っているんですよ。でも今の環境で、当のご本人がそう思えているかと言うと、きっとそうではない。このプログラムをきっかけに、中間管理職の皆さんが中心になるような形になって欲しいなと思いますし、そのために文化や環境から変えていきたいと思います。

小尾課長職が自分を積極的に表現できる会社になったらいいな、と思うんですよね。マーケットに近い立場だからこそ、潜在的なニーズを拾い上げて新たなバリューにつなげていく、各分野の担い手になって輝く環境が作れたら、なお最高だなと思います。

大村今、課長職の皆さんを見ていると、本当に大変そうなんです。部下がすごくたくさんいる人もいるし、そうなると1on1するだけでも忙しいのに、数字も見なきゃいけない、利益も出していかなきゃいけない、部下の管理もしなきゃいけない。やることが本当にたくさんあると思うんですけど、そんな中でも「自分はこうしたいんだ」と発信していってほしいですし、そのための環境を作っていきたいですね。

今まさに、課長職を軸に、組織文化の大きな変革が推進されようとしています。「コミュニケーションサービス・オーケストレーター」であるNECネッツエスアイが「日本一コミュニケーションの良い会社」への変革を実現させた先で、社会に向けてどんな影響がもたらせるとよいと思いますか?

北川僕らはコミュニケーションを作る会社なので、自社での実践を生かして、その本質を突くコミュニケーションが作れるサービスを提供できるとよいなと思いますね。壮大なことを言ってしまえば、日本の会社のコミュニケーションをより良くするものを提供できるようになるといいな、と。

「コミュニケーション」という単語って、一般化しすぎたあまり、あまり深く解釈されにくくなっている言葉だと思うんですよね。バズワード的、と言ってもいいかもしれません。でも今回の対話に関する学習プログラム開発を通じて、その要素分解が出来てきてるように思うんです。相手の立場に立つこともそうですし、相手に伝えるためには自己の内省が必要なこととか、行動の重要性とか。

だからこそ、私たちの顧客に対しても「良いコミュニケーションには、こういうプロセスが必要です」「例えばこのツールは、その場面でも適用できます」というように、社会へ提供するバリューについても変化が生まれていくと良いなと思いますね。

大村「知ることから始めよう」って、最近よく社内で言ってるんですよ。お互いの仕事に興味を持って進めていくことが、社会でも当たり前のこととしてもっと広がっていくと良いなと思いますね。

小尾NECネッツエスアイが、本当の意味でコミュニケーションのプロになっていけると良いな、と思うんですよね。自社や顧客とのコミュニケーションが良いものになり、仕事も私生活もWell-beingな状態になればいいな、と思いますね。

<引用文献>
※1 日本GHCDコーチング協会、”「職場の悩みアンケート」中間管理職が抱える深い悩み 結果発表”、日本GHCDコーチング協会、https://ghcdcoaching.com/research_manager-202007/,2023 .02.24
<参考文献>
チームの可能性を広げるストーリーやエンゲージメントの事例が集まるメディア「DIO」、”NECネッツエスアイ“日本一コミュニケーションの良い会社”を目指す前例なき挑戦”、組織改善するならエンゲージメントサーベイ【Wevox】、https://get.wevox.io/media/plan-nesic,2023 .02.10
牛島 祐之、”社長ごあいさつ | NECネッツエスアイ”、NECネッツエスアイ、https://www.nesic.co.jp/corporate/president.html,2023 .02.10
日本電気株式会社、”NECグループの共通の価値観·行動の原点「NEC Way」を改定”、NEC(Japan)、https://jpn.nec.com/press/202004/20200401_02.html,2023 .02.10
NECネッツエスアイ株式会社(公式)、”社内報📣私たちの行動基準Code of Valuesをカードゲームで体験しよう!”、NECネッツエスアイ株式会社(公式) 、https://note.nesic.co.jp/n/n8788b979eebc,2023 .02.10

後編はこちら

  • Writer

    田口友紀子