「わかりたくなさ」のパラドックスが、組織の成長を阻む。NECネッツエスアイがMIMIGURIと目指す、建設的な対話文化への変革。(後編)
濱脇賢一
コンサルタント
柳川小春
コンサルタント
猫田耳子
ファシリテーター
筑波大学理工学数学類卒。大学在学中よりコンサルタントとして独立し、創業支援や事業計画の立案、広告戦略立案や地域ブランディングに従事する。また、長期でのBPRによる業務改善、中期での経営企画部・営業部へのハンズオンコンサルティングも経験。2018年より前身であるDONGURIに入社。現在、MIMIGURIにおけるコンサルティング事業の事業長を務め、経営コンサルティングや組織デザイン・ブランド戦略の策定などのプロジェクトオーナーも努め、幅広く企業・組織・事業の成長に伴走する。
一橋大学経済学部卒。HR領域のソフトウェア会社でブランディング・マーケティング責任者を経験。MIMIGURIでは、数十名規模のベンチャーから数千名規模の大企業まで、さまざまな規模の組織変革に、遊び心を持って対話を重ねながら伴走している。
好きだなあと思うひとたちの叶えたい夢や作りたい未来への力になりたいなと思っています。そんな感じでミミグリにいます。
<プロフィール(敬称略)>
北村 祐一
NECネッツエスアイ株式会社 社会・環境ソリューション事業本部 サポートサービスプラットフォーム事業部 課長
2003年NECネッツエスアイ入社。 エンタープライズ向けICTシステムの提案・構築・保守業務や、通信事業者向けの保守業務に携わる。2019年よりマネージャーとして、通信インフラのサポートサービスのオペレーションや、5Gネットワークの構築業務を担当するとともに、フィールドのDXを推進。
谷口 龍一
NECネッツエスアイ株式会社 ネットワークソリューション事業本部 社会基盤システム事業部課長
2007年NECネッツエスアイ入社。地上デジタル放送化のための送信所建設工事設計、施工管理に従事。2012年から2015年までキャリア系放送事業者へ出向し、顧客視点での業務にも携わる。2015年の自社復帰以降は関東キー局を中心とした放送関連業務のプロジェクトマネジメントを中心に、顧客からみた「困ったときの相談相手」となれることを意識しながら業務を行っている。」
泉 もも
NECネッツエスアイ株式会社 ビジネスデザイン統括本部 DXビジネス推進本部 課長
Yahoo!Japanでのカスタマーサービス運営やQuality Assuranceに従事した後、レノボ・ジャパン インサイドセールスチームにて外資系企業向けの販売戦略及びセールス活動に従事。2010年、NECネッツエスアイに入社し、BtoB保守窓口の運営を経験した後、同社新事業開発部門にて海外スタートアップとの事業立ち上げに関わる。顧客サービスの幅広い経験と事業開発の経験を活かし、2020年4月よりカスタマーサクセスチームを立上げ、日本企業に適合したSIer型のCSMモデルを完成させるべく日々邁進中。
会社組織において「良い」コミュニケーションとは一体何なのか。その問いに対して、まさに組織のミドルマネジメントに焦点を合わせて向き合おうとしているのが、NECネッツエスアイ株式会社(以下、NECネッツエスアイ)のコーポレートカルチャーデザイン室です。
「コミュニケーションサービス・オーケストレーター」として、様々な顧客に対し、SI(システムインテグレーション)から施工・サービスまで幅広い価値を提供するNECネッツエスアイ。2020年1月、代表取締役社長の牛島祐之さんが「日本一コミュニケーションの良い会社」というインナービジョンを宣言したことから、同年4月、ボトムアップでコーポレートカルチャーデザイン室が社長直属として発足しました。
「大規模組織の中に存在する多様な考え方を尊重しながらも、物事を前向きに進められる組織文化を作りたい」という思いから、2022年11月、同室はMIMIGURIとの組織変革プロジェクトを開始。課長職を対象とする“ロールプレイングゲーム形式”の対話に関する学習プログラムを独自に開発し、プロトタイプの検証を経て、2023年6月から、全社への本格的な展開がされようとしています。
社員数7,675人(連結)、約500の課で構成される規模のNECネッツエスアイが、なぜ全社の文化を今まさに変えていこうとしているのか。プログラムを開発した運営側へのインタビューとなった前編に続き、後編となる本記事では、「対話を学ぶロールプレイングゲームプログラム」のテストプレイを経験した同社の課長職の3名にインタビュー。日々向き合う葛藤と、テストプレイを経て体験したという“コミュニケーション”にまつわるパラドックスを聞きました。
「全部の期待が課長に来る」──組織の中核を担う課長職が抱く葛藤とは。
皆さん課長職ということで、現在の業務についてお話しいただければと思います。
北村私はキャリアサポート&デリバリー事業部で、主に通信事業者向けの保守を担当しています。皆さんが日々使用されている携帯電話のインフラでもありますね。日本全国にある拠点の運営管理や保守、顧客対応など幅広く担っています。私のチームの社員は大体10〜13名ほどで、他にも外部の協力会社にもお力添えいただきながら運営しています。
谷口私は社会基盤システム事業部で、事業開発推進グループに所属しています。新たなソリューションの開発や既存ソリューションの転用で新たなバリューを生み出したりと、新規事業の開発の推進を担っています。チームの人数としては4名で、社内の事業部間を横に連携しながら事業の幅を広げていく、という動きをしています。
泉私はDXビジネス推進本部で、自社で販売しているSaaS製品の総合的なカスタマーサクセスの窓口の部署を担当しています。3年くらい前に始まった部署で、メンバーは請負業者の方や派遣の方も含めて10名くらいでしょうか。代表的なプロダクトとしてはNECネッツエスアイのDX(デジタルトランスフォーメーション)事業ブランドである「Symphonict」で、数十個に及ぶソリューションを取り扱っています。
前編の「コーポレートカルチャーデザイン室」へのインタビューでは、NECネッツエスアイの文化について「真面目」や「人の良さ」などがキーワードとして挙がっていました。NECネッツエスアイを、皆さんは「どんな文化の組織」だと思いますか?
泉私の部門は先進的な技術も取り扱うので、感度の高い人が多いかもしれません。新しいことを先行して学んでプロダクトを開発したりとか、それによって顧客にどう価値を提供できるかを考えたり、という人が多いんです。でも、以前に在籍していた事業部門はいわゆる“職人気質”な方も多くて、自分の仕事にこだわりを持つ方も多かったです。部門によって全然違うんじゃないですかね。
北村私は現在、施工などを行う現場をマネジメントする立場にいるので、職人気質な風土は確かにあるように思います。皆さん真面目ですし、顧客をとにかく大事にしますよね。頼まれたことは可能な限りやり切る、という実直さがあって。一方で、それだけでは将来に向けての成長とか変化が起きないので、もう少し柔軟さや前向きさを身に付けていくことが課題だな、とも思っています。
谷口私の部署も北村さんの環境に近いですね。NECネッツエスアイは、それこそ「事業部が違うだけで別会社のように違う」ほどそれぞれ色々なことをやってるので、多種多様な人がたくさんいる会社かな、とも思います。「新しいことに挑戦したい」と入社される方も増えていますが、職人気質な人とも共通して根っこにあるのは、顧客の課題解決への思いが強いことだなとすごく感じてます。顧客に困り事があれば、すごく一生懸命に取り組むので。
今回、対話についての学習プログラムとして、NECネッツエスアイとMIMIGURIによって独自のロールプレイングゲームが開発されました。皆さんはそのテストプレイを体験されたわけですが、この施策を初めて耳にしたときはどんな印象を持ちましたか?
泉課長職向けの対話プログラム研修と聞いて、正直「また来たぞ」とは思いました(笑)。直近でも数日かけて行う研修が行われたばかりだったので「中間管理職に期待することが多すぎるよ〜」とは思っちゃいましたね。上下の両方につながりを持つ役職なので、重要なのは理解しているんですが「それにしても、全部が課長に来るなあ」みたいな感想は抱いてしまいました。
谷口わかります(笑)。
泉でも、前向きに取り組めましたね。研修が続いた直後だったことで、最初だけネガティブな感情は起きてしまいましたが(笑)。
北村研修の多さと言う意味では、私も似た感覚は抱きましたね(笑)。でもワークショップっていうことと、あと実は私も、安斎さん(MIMIGURI 代表取締役 Co-CEO)による共著の書籍『問いのデザイン』(塩瀬 隆之、安斎勇樹 著/学芸出版社)を読んだことがあったのでMIMIGURIさんが携わるものなら面白いんじゃないかなとか、深い気づきが得られるんじゃないかな、とか。そういった期待感はありましたね。
このプログラムは葛藤がテーマになっていますが、皆さんが普段の業務の中で直面する葛藤にはどんなものがありますか。
泉例えば、せっかく会社の将来のことを考えて、みんなで新しい取り組みをしようとしてるときでも、非協力的な人っていうのはどうしても出てくるじゃないですか。そういう「熱く語っても伝わらないんだな」と思うことがよくあります。でも「全員がわかるべき」とは思っていないところもあって、多様性は認めるべきだとも思っています。
対話の研修って「本音で語り合えばわかり合える」みたいな前提があるように思うんですけど、正直、そんなに単純なものじゃないよねって。これは今回の対話プログラムを振り返って、違和感として残ってるところでもあるんです。
谷口それは同意ですね。価値観が違う人の溝を埋めるのって、すごいパワーを使うんですよ。それでも「埋まらない溝」が存在していて、ある意味で割り切りみたいなのも必要になってくる。ただ、そうするとメンバー間に差が生まれちゃうんですよね。やっぱりチームが一丸となって動けた方が高いパフォーマンスも出やすいですし、価値観が違うなりに当人が頑張っていたとしても、同じ方を向いている人の方がよい印象を抱かれやすい。そういう場合にどんな評価を行うのが適切なのか、というのもよくある葛藤のひとつだと思います。
北村世代、というのもありますよね。上の世代と下の世代では価値観が当然違ったりもするので、本当は目指しているものは一つのはずなのに、ちょっとした掛け違いになってしまったりとか。あと課長職ならではというところでいうと、時間の使い方ですかね。顧客に対してもしっかり対応していきたい一方で、社内の業務もやらなきゃいけなかったりで。
対話に隠された前提と期待が、非日常のロールプレイングゲームで表出する。
立場の異なる多様な人たちとお仕事されているからこそ抱かれる葛藤だと思います。先ほど「対話ってそんなに単純なものじゃない」というお話がありましたが、他に今回のプログラム体験の中で印象に残ってることはありますか?
泉私が肝だなって思ったのは「対話はゼロからスタートしているわけではない」ことですね。今回のテストプレイでは、ある人の自身の実体験をヒントにシナリオを設定したんですが、その中の登場人物について、「この人はこういう性格なんだ」というイメージが、その実体験をした人の頭の中に既に存在していたんですよ。
前編でも「実際にあった出来事を取り上げ過ぎてしまうチームがあった」というお話がありました。本来であれば架空のストーリーを構築するゲームですが、テストプレイであるがゆえに、実体験や実在の人物をもとにしたお題が設定されていたんですね。
泉その人は自分の中では既に答えも出ていて納得もしていたので、その状況について悩んでいるということでもなかったようです。
谷口それでも一応、葛藤というテーマには近しかったので、お題として出してみた、という感じでしたね。
泉実体験をヒントにしたこともあり、ゲームの序盤では「(願いを挫こうとしてきた)◯◯さんはこういう性格の人だから」みたいな先入観が既に存在していて。諦めみたいなものがあったんですよね。
でも、「Aの願いを挫こうとする邪魔者C」の事情を考えるターンでは、先入観から離れて性善説に立ち戻らないといけなくて。「きっと心の底から嫌な奴ではないはず」「何か理由があってそういう言い方をしているのでは」という軸を持って始めないと対話が成立しないんですよね。もちろん、ゲームとして当然その意図があって設計されているのだろう、ともチームのみんなで話していたんですけど。
なので、研修としては「ごもっともだなあ」とは思う一方で、自分がよく知っている環境、よく知っている人たちがいる現場に持ち帰って「それらの先入観をゼロにリセットできるのか」というと、正直ちょっと自信がないです。だって、その人たちのことを、もうすごくよく知ってるんだもん。適用しようとすると、課長の精神がすり減ります(笑)。
北村さんと谷口さんも、すごく頷いていますね(笑)。
谷口特に課長職であれば、みんな思い当たることはあると思いますよ(笑)。
「対話はゼロからスタートしているわけではない」という前提条件は、当たり前のようで、日常ではなかなか認識しにくいように思います。
泉非日常のロールプレイングゲームの中だからこそ、第三者の視点になれて気付けたのだと思いますね。一方で、あまりにも現実に起きた出来事と紐づいた出来事をストーリーに設定してしまうと、その視点は得られにくいのかな、とも思います。何かしらの主観的な感情が入っている可能性が高いので。
今回のテストプレイを踏まえて全社展開するバージョンでは、その現象が起きにくいようなアップデートもされているようです。実例に基づく対話となった今回はややイレギュラーとも言えますが、今回のゲームをプレイして何が印象に残っていますか?
北村今回対話をして改めて思ったのが、理屈だけではなく相手の立場や気持ちを考えながら伝えることの大切さです。ゲームの中では相手の立場を想像するターンがあるためか、事象を第三者的に捉えたことでそう実感しました。
泉北村さんが「願いを挫こうとするC」の役、つまり「邪魔をする」側を演じていたんですけど。そのゲームの中で、北村さんの邪魔をする存在に対して「この人も、きっと嫌がらせしたいわけではない」と私が発言したときに、北村さんがその発言をすぐに飲み込まなかったことをよく覚えています。
北村演じる中で、そもそも主人公Aの邪魔をするCに対して「嫌がらせだ」とか「悪意がある」とは思えなかったんです。課長あるあると言いますか(笑)、僕自身も似たような経験をしたこともあるので、このシナリオには結構共感もしていました。だからこそ、その経験と照らし合わせても理屈として「仕方のないことだ」と、理解はできるなと思ったんですよ。それでも、納得感が得られなかった。「それなら仕方ない、そうしよう」と思えるだけの感情面での整理ができなかったんですね。同じことを伝えるにしても、どう伝えるかは当然ながら蔑ろにしてはいけないんだな、と改めて実感しましたね。それはもちろん、自分と上司の間でも自分と部下の間でも、同じです。
相反する理屈と感情のパラドックスをいかに受容して乗り越えるか、という、このプログラムにおいて核となる体験ですね。「対話において期待されるもの」が表出した場面でもあったのだと思います。その他にも、ゲームのプレイを通じて認識した、対話やコミュニケーションに「期待されるもの」がありましたら、ぜひ教えてください。
泉「お互いにわかろうとする必要がある」ことですね。「課長が対話を頑張ろう」だけじゃなくて、歩み寄りを課長や上司だけではなく部下も実践していかないと、対話にはならないし一方通行になっちゃうと思うんですよ。
というのも、私は普段、相手に伝わるように納得してもらえるように、相手の立場に立ちながら、工夫して説明するようにしているんです。でも、どれだけ努力しても伝わらない場合がある。そこに限界を感じるんです。
課長職って「相手の立場で考える」ことはもちろん、部下への動機付けとか関係構築とか、マネジメントの知識をいろいろな研修の教育の場で学んでいるんです。みんな工夫しながら課長職を頑張っていると思うんですよ。それでも、一方通行だとどうしても限界は出てきます。
対話はお互いの景色を交換するものでもあるので、双方に歩み寄る意識がないと成立しないというのは、まさしくだと思います。
泉だからこそ、今回の対話を学ぶプログラムはもちろん管理職にも必要だけど、一般職の方も含め全員が受けた方がよいと思うんですよね。
柳川今回MIMIGURIが共同開発したプログラムは、まずは組織マネジメントの中核を担う課長職の皆さんに経験いただきますが、その先では課長の皆さんの学びが他の役職の方にも波及していくようなプロセスをご用意したいと考えています。今回の施策を通じて「課長だけが対話を頑張ろう」「本音で語ればわかり合える」ではなく、双方がわかり合おうとしながら、健全に要求し合える状態を作っていけたら、という思いを込めてプログラムを開発しています。
開発に込めた思いのところでもう少しお話しすると、実は「飲み込んだ言葉を取り戻す」というコンセプトは、北村さんへの事前インタビューでお聞きしたエピソードがもとになっているんですよ。
北村知りませんでした。そうだったんですね。
柳川多くの人の日常を支える仕事の中で、組織の意思決定に対して本当はもっと顧客・現場観点で伝えたいことがあったとしても、自分はグッと堪えて飲み込んで、メンバーへの伝え方を工夫しながら現場を守られていて。そのとき飲み込んだ言葉は、顧客への提供価値と現場のやりがいと誇りを両立しながら楽しく仕事をしていきたいという想いがあってこそ、飲み込んだものなんだなって。それはNECネッツエスアイという組織の未来にとって宝物だなと感じたんです。
前編でも挙がった話題ですが、皆さん真面目だからこそ「自分で抱えてやり切る」みたいなご状況になりやすいのかも、と思っていて。もちろん、それは組織の環境が影響している面もあるとは思うんです。その想いもあって、「課長だけが対話を頑張ろう」ではなくて「共に分かち合って建設的に前に進めていく」関係づくり、環境づくりのきっかけにできたらな、と思っています。
組織内に存在する「わかりたくない」人たちとの対話は、どのように成立できるのか?
NECネッツエスアイは、「コミュニケーションサービス・オーケストレーター」として、コミュニケーションに関わるさまざまなシステムやサービスを、利用者に最適な形で構築することを強みとされています。この事業内容を踏まえたときに、改めて「NECネッツエスアイの課長職」は、組織の中でどんな役割を果たすことが必要になるのでしょうか。
北村私自身が最近、実践しているのは「管理よりも対話と支援を大切にする」動きですね。これはチームメンバーとの対話の中で出てきたキーワードで、もとは施工などを担当する現場と我々の管理するチームの関係性についての言葉だったのですが、課長と部下の関係においても当てはまるなと思い、特に意識するようになりました。
メンバーの皆さん、優秀な方が多いんですよね。そこにある思いや能力を押さえつけるようなことはしたくないので、いかに支援して伸ばしていくか、思いを引き出して聞いていくか、というのはやっぱり重要だと思っています。そういうところから新しいやり方が生まれたりするので。もちろん、簡単じゃないですけどね。それでも、課長から動いていくことが大事だと思っているので、そのあたりは上層部の方にも理解いただきたいところではありますね。
谷口私が思うのは、自分が所属する以外の部署がどんなことしているのか、アンテナを張っておくことですかね。NECネッツエスアイは中期経営計画に「Shift up 2024」※1 というものを掲げていて、その中には「オリジナルな価値創造を加速」という戦略もあるんです。いろいろなシステムやサービスを組み合わせることで、本質的課題にフォーカスした価値創造価値を目指しているのですが、横の連携があまり取れてない面もあって。新しいことに挑戦しようとアイデアを出しても「実はあちらの部署で同じことやってました」みたいことも結構あるんですよ。それはやっぱり、主任ではなく課長職以上の人が担っていく役割だと思うので、アンテナを張って知ろうとすることが大事なのかなと思いますね。
泉それ、すごくよくわかります。NECネッツエスアイの課長職に必要なのは「これまでのビジネスモデルを変えられる、変える意志を持つこと」だと思います。今、北村さんたちが支えてくれているネットワークソリューション事業って、私たちよりも1〜2世代前の先輩たちが作り上げてくれた事業のはずなんですよね。
でも今、世の中には急速な変化が訪れていて。新しい仕組みとか新しいサービス、例えば私達が取り扱っているSaaSやリカーリングビジネスが主流になってきています。もちろん、顧客の皆様の役に立つ事業として、既存事業をこれからも安定して守ることも大事です。そのバランスをとりながら、今までの延長線に無い新たなビジネスモデルを作り上げていく。私たちの世代の課長職は、私たちの世代ならではのビジネスモデルを作る必要があるんです。
先ほど、対話について「わかりあえない違和感」のお話をしましたけど、実はその違和感の正体は変化とリスクの関係の中にあるような気がしています。変化って、すごく勇気がいることだから。そこに向き合いたくない、わかりたくない人もいると思うんですよ。これはNECネッツエスアイに限った話ではなく、経営が安定している会社で長く勤めている方の中には、リスクを好まない方も一定数いると思うんです。
谷口それはすごく同意できます。
言うならば「わかりたくなさ」ですね。リスクを恐れて「向き合いたくない」「わかりたくない」と思う気持ちは得てして当人にとっても不都合な感情である分、無意識の中に抑圧されやすいような気がします。仮に認識できたとしても、当人すらも認めたくない感情であるかもしれません。
泉NECネッツエスアイは、課長職も部長職も、尊敬できる上司がたくさんいるんですよ。その仕事に対する思いや情熱を理解して、世の中にどんな影響を与えていきたいかを考えて仕事をしているメンバーもたくさんいます。とはいえ、全員に同じだけの熱量を期待するのは現実的ではないですよね。都合も事情も本音も人それぞれ違う以上は、熱量も違って当然です。
北村本当にそう思いますね。
泉今すぐには対話だけで埋められない溝も、工夫をし続けながら少しずつ歩み寄っていければと思います。
冒頭でお話しいただいた「対話はゼロからスタートしているわけではない」というお話とも深く関わる課題ですね。「わかりたくなさ」が人の心の深層に存在する以上は、決して日常では顕在化しえない因果のように思います。用意された正解がなく、決して容易に解決できない課題だからこそ、今回実施する非日常の対話プログラムを、たとえ埋まらない溝があったとしても、橋をかけるきっかけに繋げていければと思いました。
「わかりたくなさ」に象徴される、組織が抱える重要かつ複雑な課題が提示された今回のインタビュー。この複雑でややこしい課題は、NECネッツエスアイのみならず、多くの組織が共通して抱えるパラドックスでもあります。
この取材の最後に、今回のプログラムを運営するNECネッツエスアイ コーポレートカルチャーデザイン室 小尾 正和さんは「非常に良い問題提起と対話を行っていただいた」とインタビュイーにお礼を告げた上で、次のように場を締め括りました。
「今回のプログラムを通して、“コミュニケーション”に存在する難しさを露わにしながら『NECネッツエスアイが、課長を起点に向こう3年取り組むべきアクション』を決めて、実行していければと思っています。今回のインタビューでご回答いただいた内容はもちろん、皆さんにプログラムを体験していただく中で出てきた課題も改善の行動につなげて、『日本一コミュニケーションの良い会社』を目指していきますので、引き続きご協力をお願いします」
このプログラムは、2023年6月以降、NECネッツエスアイ全社の課長職に展開されていきます。
非日常の「無責任な遊び」から表出されていく、コミュニケーションの様々なパラドックス。この"遊び"は、組織の文化をいかに変革しうるのか。NECネッツエスアイとMIMIGURIによる前人未踏の挑戦は、まだ始まったばかりです。
<引用文献>
※1 NECネッツエスアイ、”新中期経営計画について”、NECネッツエスアイ、https://www.nesic.co.jp/corporate/vt7sk6000000as3f-att/tyuukei.pdf,2023.03.09
前編はこちら
Writer
田口友紀子
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