チームで事業の熱量を作り続けるーはじめての食材応援食「paqupa」のブランディング

  • 小田裕和

    デザインストラテジスト/リサーチャー

  • 佐藤比呂

    ディレクター

  • 竹内美由紀

    デザイナー

  • 山里晴香

    プロジェクトマネージャー

  • 千葉工業大学工学部デザイン科学科卒。千葉工業大学大学院工学研究科工学専攻博士課程修了。博士(工学)。デザインにまつわる知を起点に、新たな価値を創り出すための方法論や、そのための教育や組織のあり方について研究を行っている。特定の領域の専門知よりも、横断的な複合知を扱う必要があるようなプロジェクトを得意とし、事業開発から組織開発まで、幅広い案件のコンサルテーション、ファシリテーションを担当する。主な著書に『リサーチ・ドリブン・イノベーション-「問い」を起点にアイデアを探究する』(共著・翔泳社)がある。

  • デザイン会社でパッケージデザイン・ブランディング業務を経験。 MIMIGURIでは「様々な立場の人の価値観を尊重した上で、より良い成果を目指していく」ことを重視している。「やってみたい」「使ってみたい」と思う状態はどんなものかを考えている。 鳥と衣食住が好き。

  • 青山学院大学/桑沢デザイン研究所卒業。デザインエージェンシー2社でデザイナー及びマネージャーを務めた後、組織×デザインの可能性を探究するため、2021年MIMIGURIにジョイン。WebサービスやSaaSプロダクトのUIデザイン、Webサイトやグラフィックのアートディレクション及びデザインといったデザインスキルと、採用広報や人材育成といったマネジメントスキルをかけ合わせながら組織や事業を賦活させることを目指している。

  • 慶應義塾大学商学部卒。大手SIerの法人営業を経験したのち、デジタル領域のクリエイティブ制作会社を経てMIMIGURIに参画。チームでお互いが触発され、ひとりでは生まれなかった創造性が発揮されるようなプロジェクトを目指して推進している。

子育てに関する情報・商品を提供する株式会社fufumu (以下、fufumuさま)の創業および、はじめての食材応援食paqupaの立ち上げにあたり、社名・商品名のネーミング、ブランド戦略、アートディレクション・パッケージデザイン、ECサイト構築をMIMIGURIで担当しました。

ローンチ後まもなくSNSで話題となり、好評を博している商品はどのように生み出されたのか。株式会社fufumu代表取締役/共同創業者 竹内崇裕さん(以下、竹内)・大嶋麻里子さん、株式会社MIMIGURIコンサルタント 小田 裕和・アートディレクター 竹内 美由紀(以下、美由紀)・ディレクター 佐藤 比呂が振り返りました。

公式WEBサイト:https://fufumu.com/pages/paqupa

<プロフィール(敬称略)>
竹内崇裕 代表取締役
大手食品会社にて商品開発業務に長年携わる。2児の父。昔から食への興味は強く、老後の夢は自分の飲食店を持つこと。上級幼児食インストラクター、アレルギー対応食アドバイザーなどの資格を持つ。

大嶋麻里子 代表取締役
大手食品会社にて商品開発業務に長年携わる。1児の母。甘いものに目がなく、子どもが寝た後にご褒美のスイーツを食べるのが好き。管理栄養士、ベビーフードインストラクターなどの資格を持つ。

「この事業が形になることに寄り添いたい」ー事業への共感から始まった伴走

ーあらためて、fufumuさま設立の経緯と事業内容をお聞かせいただけますでしょうか。

竹内 fufumuは、私と大嶋それぞれの子どもに食物アレルギーがあり、親としてさまざまな食の悩みを持っていたという原体験から設立しました。

fufumuという社名には、子育てにおける食のお悩みを解決すべく、子育てに「ふふっ」と笑えるゆるさと、育児の不安を軽くするための「ふむふむ」と思える確かな情報をお届けしたいという思いを込めており、保護者に寄り添った商品やサービスを提供しています。

第一弾として、小児のアレルギー専門医監修のもと、ぱっと作れて、ぱっと心も軽くなる、生後6ヶ月以降のお子さま向けのはじめての食材応援食「paqupa(パクパ)」を発売しました。おかげさまでSNSを中心に広がり、好評を博しています。

ーpaqupaとはどのような商品ですか。

大嶋 生後5〜6ヶ月になると離乳食が始まります。食物アレルギーが気になったり、慣れない離乳食の調理方法に戸惑ったりと、初めてのことばかりで悩むことも多いです。

「paqupa」はそのような保護者の食に対する不安と作る手間を軽くするために、小児のアレルギー専門医である海老澤元宏先生監修のもと生まれた商品です。

たまごや落花生、ナッツなど食物アレルギーが気になる食材を、キューブ状にフリーズドライにしました。少量の水またはお湯でキューブを溶かすだけでお子さまが食べられるので、保護者の方は手軽に、ぱっと食卓に出すことができます。また、お子さまも食べやすいなめらかな形状に仕上げました。

ーブランディングのパートナーを探すにあたって複数の企業にお声がけしていたとお伺いしました。どのような背景で当社にご依頼されたのでしょうか。

竹内 一番重視していたのは、事業への共感です。気を遣って本音で話せない間柄では上手くいかないと思っていたので、受発注の関係というよりも一緒に事業を成功させるパートナーを探していました。そういった意味で小田さんは最初から我々の想いを理解してくれて、フランクに話せていました。

小田 以前、京セラ株式会社に伴走していた際にmatoil(食物アレルギー対応の誕生日ケーキと食品のサービス)に触れていたこともあり、はじめから事業への共感は強かったですね。いま思い出したんですが、fufumuさまの事業に関する資料をいただいてから僕なりに資料を読み解いて、最初のミーティングで事業案の説明を僕からしてみる、ということをさせていただいた記憶があります。

竹内 すごく印象に残っていますね。どうして小田さんから話してくださったんですか?

小田 僕自身、この事業が形になることをまず応援したいという前提が最初からありました。単に「アレルギー対応している商品です」と謳うのではなく、初めての一口にどう寄り添うか、という姿勢を大切にされていた点など、僕なりに共感したポイントを踏まえてお話することで、たとえ選ばれなかったとしても課題解決に何かしら貢献できるのではないかと思っていました。

竹内 自分ごととして考えてくれるなと感じました。

小田 僕自身も、当事者のスタンスを持てたことが大きかったですね。

事業の背景にある、まだ言葉になりきっていない想いを引き出す

ー取り組みが始まった初期のことをお伺いさせてください。当社は事業に向き合われる方の想いを引き出すことを大切にしています。このプロジェクトでも作文を書いていただいたと思いますが、当時どのように感じていましたか?

竹内 はい、たくさん書きました(笑)自分の考えを言葉にできてよかったと思っています。ちょっと驚きましたけど、宿題として渡されなければ書こうとも思わないですよね。おかげで自分の整理になりました。それから、大嶋の作文を読んでお互いの共通項や違いを知れたのもよかったです。

ー作文では、竹内さんと大嶋さんがfufumuさまを立ち上げるきっかけになった北海道出張についてお二人とも詳細に書かれていたのが印象的でした。

竹内 そうなんです。北海道への出張でたまたま一緒になって、そこでお互いの子供のアレルギーの話になったんですよね。そこで大嶋と、「お互い大変だよね。もうちょっと楽にできるものがあるといいよね。」という話をしたんです。出張から帰ってきて、新規事業をやってみようかなと思いました。あの出張がなかったら事業を始めてないですね。

小田 新規事業において、共同創業者とはじめから同じ目線に立っているケースって意外と少ないと思います。

竹内 この事業をやるなら絶対に大嶋と一緒にやろうと思っていました。大嶋のいいところは、私と全くベクトルが違うところです。簡単に言えば、わたしがイケイケどんどん派で、大嶋が慎重派。10歩歩こうとすると7歩止められるので3歩しか進まないですが、おそらく最も効率のよい3歩を進めていると思います。実際に、事業を進めていても後戻りはほとんどないんです。たくさんぶつかりますが、よいディスカッションを重ねられているのだと思います。

小田 お二人が対話を前提としていたからこそ、当社とも対話的に進められたのかもしれないですね。

竹内 そうかもしれません。MIMIGURIさんが良かったのは、我々の考えに対して、「それもわかりますけど、こういうのもありますよ。」とMIMIGURIさんならではの視点で提案してくれることですね。それがすごくよかったです。

過度に保護者の不安をあおらずに「はじめての食」のポジティブな体験をつくりたい

ープロジェクトでは一貫して、「過度に不安を煽るのではなく、楽しい食の体験を生み出したい」という共通認識があったように思います。どのようにその認識は育まれていったのでしょうか?

大嶋 やっぱり、アレルギーって言葉が強いんですよね。アレルギー=ネガティブが強いからこそ、保護者を不安にさせてしまうと本当に伝えたいことが伝わらないかな、と。あくまで私たちが目指すのは、お子さまが成長してゆく中でたくさんの食材と出会って、家族みんなで食事をたくさん楽しんでもらえること。MIMIGURIさんとディスカッションする中で、「食のオンボーディング」という話が出てきたときに、それだ!と思いました。はじめての食体験を豊かにするという言葉の方が私たちが伝えたいことも保護者に伝わるなと思って。

小田 「食のオンボーディング」は、“山の図”のフレームで、どのような人を喜ばせたいのか、その過程にある障壁をどう乗り越えるのか整理する中で出てきた言葉でしたね。

大嶋 そうでした。「食のオンボーディング」という言葉がわたしたちの中にもすっと入ってきて、その後、「ぱっと作れて、ぱっと心も軽くなる、はじめての食材応援食」といった表現が生まれた。日々の離乳食を応援する食品として、誰もが手に取れるものになった。その結果、一人でも多くの保護者の方に届く商品になったのではないかと思います。

ー「はじめての食を応援したい・楽しい体験を作りたい」という想いからキャラクター「もぐらくだ」や、「paqupa」「fufumu」といったネーミング、ビジュアル表現にもつながっていったのでしょうか?

大嶋 会社名「fufumu」、商品名「paqupa」、キャラクター「もぐらくだ」。これらが決まったのはすごく早かったじゃないですか。でも、全く妥協した訳じゃないんですよ。

小田 ドンピシャだったんですよね。

大嶋 そう。佐藤さんに会社名・商品名のネーミングやキャラクターを提案いただいたのですが、これがハマって。

佐藤 ムードボードをみんなで作りましたよね。その中で、機能的すぎる・キラキラすぎるなど、温度感を細かく擦り合わせているうちに同じ感覚を持てるようになったと思います。お話する中で、保護者の不安を煽りたくない、もっと肩の力を抜いた方がいいという気持ちを特に大嶋さんが強く持っていて、共感していきましたね。

大嶋 あれは凄かったです。事業の課題感や商品のよさをどう表現したらいいんだろうかって我々も考えていましたが全然決まらない。そんな中でこの名前が出てきたときは驚きました。

佐藤 どういった名前であれば商品のよさを伝えられるか考えて、簡単な音で楽しくかわいい響きにしたいなと思い、paqupaを思いつきました。その文脈で、たまたまキャラクターも生まれました。

大嶋 いま公式キャラクターになっていますからね。いつも展示会で「すごく可愛いんですけど誰ですか?」と聞かれます。「“もぐもぐするのが楽だ”って意味で“もぐらくだ”ってキャラクターなんです。」と自信を持って答えています。

小田 美由紀さんは、ブランディングのプロジェクト経験が豊富ですよね。クリエイティブに昇華するプロセスをどう見ていましたか?

美由紀 先ほどの作文やムードボード然り、チーム内で本当に細かなニュアンスを共有していましたよね。「ここまで行くと行き過ぎだけど、逆に引きすぎてもよくない。ここまでなら保護者に受け入れてもらえそう。」といったニュアンスを共有していたからこそ、納得のいくクリエイティブに落とし込めたのだと思います。みんながストーリーを共有していたチームではないでしょうか。

自分たちの手を離れても発展し続ける「ブランドの人格」を築く

ーSNSも始まり、もぐらくだの可愛い様子やレシピが日々更新されていますよね。どのように運用されていますか?

大嶋 MIMIGURIさんと作ったコミュニケーション戦略はすごく活用していますね。

佐藤 プロフィール帳を書いてもらったんですよね。それこそ、ローンチ後にSNS運用をどうしてくか考えたときに、ブランドの人格をコンパクトに言語化していった方がいいだろうとなったんです。

「ブランドの人格」というのは、例えば読んでる雑誌やカバンの中身、ウェットティッシュやおしりふきが入ってるといった具体的なところまで、運営者の人格を作っていきました。一緒に作ったからこそ、使いこなしていただけているのかなと思います。

大嶋 インスタやブログをどのような温度感で、どんな内容で、どんな頻度で更新していったらいいんだろう、と。当時皆さんと考えたものが今、我々の基盤になっているんですよね。

美由紀 チームで考えたニュアンスが、わたしたちの手を一旦離れたあともSNSやパンフレット等あらゆるクリエイティブで広がっていく様子を見られるのがすごく嬉しいです。ブランドが表現を触媒にして広がっていく様子を見ていると、対話的にチームを作ってこられたのかなと感じます。

小田 一緒に作ったものが、クライアントさんの身体に浸透していくような感覚がありますよね。

新しい文化を作るために、チームで事業の熱量を作り続ける

ー新規事業を立ち上げる上で、弊社との取り組み以外にも多くの難しさがあったかと思います。fufumuさまから見て、弊社はどのような存在でしたか?

竹内 新規事業はどうしてもあらゆることを自分たちでやらないといけなくて、視野を広く持つ必要があります。私も日々勉強しながら、あれもこれもやらなきゃと正直大変です。そういった中で、この会議の時間は楽しく助かっていました。

小田 越えなきゃいけない壁なんて、もう想像を絶するほどありますよね。

竹内 ありますね。本当に。

小田 だからこそ、事業を形にしていくときに、表層的な見え方の話だけしてもしょうがないんですよね。ブランディングって、その根底の想いがちゃんとないと、すぐポキッて折れちゃいますし。それはすごくチームで大事にしていたと思います。

竹内 fufumuさまがどのような存在だったかというと、仲間に近いですね。困ったら相談する関係性だと思います。

佐藤 チームになれたのはとても大きいですね。私たちは組織づくりを大事にしている会社でもあるので、チーミングできたことで一緒に作る関係になれていた。今日それをお互いに目線合わせできてよかったです。

ー今日のお話の中で、温度感や熱量といったキーワードが出てきていたことが印象的でした。

小田 何度も出ていましたよね。ブランドのことを考える時に、意外と対話できていないケースは多いなと改めて思います。

フレームワークやファクトの話はいっぱいするけれど、感覚を分かち合えてるかどうかってすごく大事だと思います。ブランドの温度感を共創していた感覚があるかもしれません。

美由紀 ネーミングや表現を精査していくタイミングでも、OK/NGではなく、どう感じるかという捉え方を全員で共有してたからこそ、お互いが何をどう捉えているか共通認識を持ちながら作れていたんじゃないかなと思います。

大嶋 やっぱり、チームですね。お互いが意見を言い合って、まとめていく作業はとても難しいと思うんですが、みんなが納得する形でまとめていけたのがMIMIGURIさんと取り組めてよかったところですね。

小田 僕も今日話していて発見だったのは、ブランディングというと、どう表現するかという話になりやすいじゃないですか。でも、本来注目すべきはプロセスの中で事業の熱量を一緒に作っていくことなんじゃないかと思いました。

ー最後に、今後fufumuさまで挑戦していきたいことはありますか。

小田 社会をどう変えていけるかっていうことなんですかね。

竹内 そうですね。我々は文化を作っていきたい。paqupaは保護者に寄り添って、「最初に食べる一口をpaqupaに」という文化になってくれればという想いで開発し、提供しています。

まずは第一弾として、paqupaで初めての食のサポートをし、 食の経験を豊かにしていきたい。第二弾としては、乳幼児向けの食の課題はまだまだあるので、そこに向けた商品を作っていきたいです。今後、どういった事業をやるにしても、保護者が求めているものを作ることは変わらず大切にしたいですね。

求めている人に新しい文化を届けるために、チームで事業の熱量を作り続けていく。

paqupaが生み出されたプロセスを感じ取れる対談になりました。

鼎談にご協力してくださったfufumuの竹内様、大嶋様、ありがとうございました。

  • Project Owner

    小田 裕和

  • Project Manager

    佐藤 比呂

  • Art Director

    竹内 美由紀

  • UX Designer

    明間 隆

  • Project Manager / Article Writer

    山里 晴香

  • Web Development

    栗林 拓海

  • Designer

    五味 利浩

  • Designer

    中園 英樹

  • Photo Planner

    山内 一真