多角的経営を支える「等級制度」の奥深さを紐解く

Guest :
濱脇賢一コンサルタント
根本紘利プロジェクトマネージャー
  • 濱脇賢一

    コンサルタント

  • 根本紘利

    プロジェクトマネージャー

  • 筑波大学理工学数学類卒。大学在学中よりコンサルタントとして独立し、創業支援や事業計画の立案、広告戦略立案や地域ブランディングに従事する。また、長期でのBPRによる業務改善、中期での経営企画部・営業部へのハンズオンコンサルティングも経験。2018年より前身であるDONGURIに入社。現在、MIMIGURIにおけるコンサルティング事業の事業長を務め、経営コンサルティングや組織デザイン・ブランド戦略の策定などのプロジェクトオーナーも努め、幅広く企業・組織・事業の成長に伴走する。

  • ECコンサルティング業デザイナー→アパレル小売業Webマスター→在京民放テレビ局番組Webサイト制作・運用→地域商社プロジェクトマネージャー→Slerプロデューサーを経てMIMIGURI(旧DONGURI)に入社。 クライアントワークの開発プロジェクトにおける設計や進行に加え、組織開発・推進のプロジェクトに従事し、自社ではプロジェクトマネジメントの体系化と組織浸透を目指し、全社プロジェクト品質の底上げやアジャイル推進を進めている。

  • MIMIGURIのコンサルティングや研究で得た知見を汎用化してご紹介する本ポッドキャスト。
  • 第16回は、濱脇賢一、根本綋利の2名とともに「多角的経営を支える等級制度」について考える。
  • 「等級制度」というとミクロな話題に思われるかもしれないが、事業多角化し数百人規模を超えた多様性ある組織では、制度に破綻があれば組織運営がうまくいかなくなるほど、重要な背骨である。

等級制度、評価制度、報酬制度の定義

  • まずは一般的な定義を整理したい。企業での評価運営では、「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の3つの制度が連携し運用される。
  • 等級制度は、会社から個人への期待値を言語化したものだ。「グレード」の縦軸と「スキル、価値発揮能力」などの横軸で構成されたマトリクスで表現され、会社と個人のアラインメントをとるものとして位置付けられる。
  • 評価制度は、等級制度の定義を用いて、会社の期待値と、個人の成果の目線を合わせ評価する制度のことを指す。報酬制度は、等級グレードにおける給与レンジを定義したものだ。

等級制度に関連する2つの課題

  • 等級制度に関連して、よく挙がる課題が2つあると濱脇。
  • ひとつは「経営の観点で、中長期の事業方向性と等級定義にズレを感じる」というもの。事業計画は明確だが、採用計画や組織デザインとの接続がうまくいかないパターンだ。この場合、質より量の採用をしたり、育成施策の精度が下がったりしてしまう。
  • もうひとつは「現場の観点で、評価運営上のエラーが発生している」というもの。特定の職種の能力定義に偏ってしまい、多様化した職能に対応できていないケースや、スキル開発と能力発揮の機会が噛み合わないケースがある。

事業計画同様に、組織デザインもバックキャストで考える

  • では、経営者、事業責任者が等級制度を扱ううえでの勘所はどこにあるか。
  • 根本も濱脇も、足元の課題解決に走らず、事業計画実現のためにどんな人員が必要かの観点で制度設計することが重要と語る。さもないと、経営と現場がつながらず、半年後〜数年後には使われない制度になってしまう。
  • これに対しミナベは、1〜3年後の事業計画と連動した組織図を半年単位で描くと良いとナレッジを語る。どの人員がどれくらい不足するか、具体的にイメージでき、採用・育成の計画が精緻化される。
  • 先々のイメージがつかない場合、事業計画同様にバックキャストの思考を取り入れるとよい。非連続的な事業成長があれば、新しいポジションや抜擢機会を創出できる、というような順序で考えていく方法だ。
  • バックキャストで等級制度を考えると、今後目指すべき高いグレードの等級定義を解像度高く設計できるメリットもある。組織デザインをフォアキャストで思考していないか?と内省し、囚われを打破しよう。

組織の多様性にあわせて、等級制度を丁寧に浸透させる

  • 等級制度を現場に浸透させるマネージャーの勘所について、余白が重要だと根本は語る。等級定義や運用プロセス通りのことをやるだけでは組織の多様性を受け止めきれずエラーが起こる。
  • 会社としての成果への期待値のみを定義したうえで、プロセスについては余白をもたせ、メンバーの多様性にあわせて機会提供したりスキル開発を行う観点が求められる。
  • 濱脇は、広報時の配慮について語る。制度を全社に一斉広報するだけでは、自分ごと化されず思考停止に陥るリスクがある。各等級の期待値に対して、多様なキャリアが想起されるロールモデルや事例をセットで伝えると、各自が納得感や自信をもち探求できるようになる。

等級制度を「学習の見取り図」に

  • ミナベは等級制度を「学習の見取り図」として捉えて使いこなすとキャリア形成がしやすくなると語る。メンバーは挑戦する目標を考え、マネージャーは期待値にあわせた権限移譲や成長の機会を作る、といった使い方だ。
  • これに根本は「解像度高い目標を定めること」と「適切な場・機会を用意すること」の噛み合わせが重要だと重ねる。技術を取得しても活用機会がない、次のグレードを目指しても能力発揮の機会提供がされない、などのエラーは起こりがちだ。権限移譲や機会提供のロードマップを作ることも有効である。
  • また、グレードを上げるスピードを無闇に煽らないことも重要、と濱脇。「成人発達理論」ではグレードをひとつ上げるのに3〜5年かかると言われている。成長が自己目的化しないように、じっくりとキャリア形成のロードマップを考えられると良いだろう。