狂おしいほどの衝動が共鳴する。東京大学工学部が臨んだ、ブランド・アイデンティティの再構築。

Point

  1. プロジェクトを実現性の高い状態で推進するために、稟議プロセスから逆算した会議体を設計。
  2. 「らしさ」を発見した「らしからぬ」クリエイティブジャンプ。
  3. メディアの内部運用を想定した撮影レギュレーションを設計。

「私たちの魅力とは何であるか?」

目にも見えず、言葉にも表れない。そんな自らのブランド・アイデンティティに今回向き合うこととなったのが、東京大学工学部/大学院工学系研究科(以下、東大工学部)でした。感染症対策の影響から人々の生活様式は様変わりし、オープンキャンパスの場もオンラインへと移行。学部の魅力や文化を、オンラインで多くの学生に伝えること。それが東大工学部の使命でした。

その対象は、高校生のみではありません。東京大学は入学以降に学部学科を決定する進学選択制度であるため、進学先を検討する大学1年生、2年生との接点も生んでいく必要があります。そのために東大工学部が選んだのは、「Web動画メディアを作ること」でした。

ブランディングのコンセプトづくりから、クリエイティブまで。東大工学部とMIMIGURIによるその新たな挑戦は、アイデンティティへの問いから始まりました。

135年の歴史を持つ国立大学の工学部が、その殻をいかに破れるか。

東大工学部が持っていた課題は、「本当の魅力が外部に伝えられていない」というものでした。そこでMIMIGURIは、「本当の魅力」を共に発見し、表現するコンセプトづくりから着手。ブランディング方針の策定にあたっての「今までとは全く違う挑戦をしたい」という東大工学部の意気込みを受け、MIMIGURIは工学系研究科広報室の稟議プロセスをヒアリングし、逆算する会議体を設計。プロジェクトを実現性の高い状態で推進できるよう、学生団体や教員など、プロジェクトに関わる複数のステークホルダーを巻き込んだ体制を構築しました。

動画メディアの中長期的な内部運用を見据えて、コンセプトづくりではワークショップの段階から学生を巻き込んで実施。「らしさ」や「本当の魅力」を表すキーワードについての対話を重ね、“それ”は間違いなく存在しているはずだという確信は深まるものの、どのような言葉で呼ぶことが適切なのか、答えはすぐに見つかりませんでした。

「らしさ」を発見したのは「らしからぬ」クリエイティブジャンプだった。

そこでMIMIGURIはアプローチを変え、工学の営みにあるクリエイティビティに着目。工学そのものの魅力や、社会実装の意義、工学部の研究者たちの内発的動機や衝動などに焦点を合わせ、“それ”を言い表す手がかりを探しました。そしてその候補の中に、プロジェクトの方向を決定づけるキーワードがありました。

「狂おしいほどの衝動」──それは工学の魅力に取り憑かれた東大工学部の研究者たちが見せる、純度の高い熱狂に着想を得て生まれた言葉でした。これまでの東大らしからぬ、「狂う」という言葉。コピーライターの大久保は、この案について「このアイデアは、おそらく通らないだろうと思いながらも提案した」と振り返ります。ところが、これが目指すべき方角をぴたりと定めるものとなりました。

「この言葉こそ、東大工学部の本当の魅力を表すことにふさわしい」。一同の熱烈な共感の声を受け、MIMIGURIは対話を重ねながらコンセプトをさらにブラッシュアップ。そうして生まれたのが、「狂ATE the FUTURE」という名称と、「狂おしいほどの衝動で、未来を創る。」のコピーでした。

個の衝動が共鳴し、クリエイティブに表出する。

この東大らしからぬコンセプトを形にするため、MIMIGURIは稟議プロセスにも伴走。衝動に呼応するかのように、プロジェクトの熱量はさらに高まりました。このコンセプトに共感を抱いていたのは、広報室と学生だけではありません。組織として内発的動機や衝動を大切にするMIMIGURIもまた、強い共感を抱いていました。

個々の衝動が湧き立つ熱狂の渦は、そのままクリエイティブに表出。動画コンテンツでは若き研究者たちが衝動と思い描く未来を情熱のままに語り、その語りを聞いたMIMIGURIが得た「研究者の衝動には原体験がある」という発見から、キービジュアルは全体的に黄みがかったレトロなカラーニュアンスで描かれました。動画制作においては、背景レイアウトにコンセプトを象徴するロゴ入りオブジェが映り込むよう設計し、カラーグレーディングのレギュレーションも統一することで、工学部内部への動画制作の受け渡しを想定したディレクションを行っています。

本プロジェクトをきっかけに広報室への問い合わせは急増し、教員版も制作を検討中。広告出稿や、「狂ATE the FUTURE」のポスターで東京大学構内をジャックする計画も進んでいます。

個の衝動が共鳴し、呼応し合った本プロジェクト。
「狂え。そして未来を創れ。」
東大工学部の研究者たちが生み出す熱狂の渦は、ますますその勢いを増していくことでしょう。

(取材・文:田口友紀子)

  • Consulting

    吉田稔

  • Project Leader

    田島一生

  • Creative Director & Copywriter & Planner & Music

    大久保潤也

  • Art Director & Designer

    吉田直記

  • Scenario & Interviewer

    淺田史音

  • Engineer

    石山大輔

  • Illustrator

    中園英樹

  • Videographer & Editor & Art

    阿部圭佑

  • Videographer & Editor

    宮風呂享史(BEAKER Inc.)